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ー声の現場、いつも通りなんてできないー
アフレコスタジオ。
人気シリーズの続編収録ということもあり、現場はざわついていた。
自由は、マイク前で台本を読みながらも、神谷の声が聞こえるたび、自然と視線を送ってしまう。
入野(ダメだ、いつも通りにやろうって決めたのに……)
昨日の朝のことを思い出すたび、顔が熱くなる。
ふたりだけの時間は静かで穏やかだった。でも、今は違う。周りには仲間がいて、マイクがあって、スタッフの目もある。
鈴村「自由くん、よろしくね〜」
その時、背後から声がかかる。振り返ると、そこには鈴村健一の姿。
笑顔で手を振る彼の隣には、櫻井もいて、神谷とも自然に談笑している。
鈴村「久しぶり、自由くん。なんか雰囲気変わった?」
自由は一瞬ぎくりとしながらも、笑顔を返す。
入野「え、そ、そうですか? 変わってないですよ」
鈴村「そう? なんか色っぽくなったっていうか……ね、神谷?」
神谷「……知らないよ。こいつがどう変わろうと」
と、そっけなく答える神谷。
でもその目だけは、誰にも気づかれないように、自由のほうを一瞬だけ優しく見た。
自由の心が跳ねる。
入野(ずるい……)
声に出せない気持ちが、胸にこみ上げる。
距離を取っているようで、誰よりも近くにいる。神谷のその曖昧な態度が、自由にはたまらなかった。
収録後、自由が廊下で一人、台本を読み返していると、背後からそっと声がした。
神谷「……自由」
その声に振り向くと、神谷がそっと扉の陰から顔を出していた。
神谷「来いよ。ちょっとだけ、話そ」
誰もいない小さな控え室に連れ込まれると、神谷はすぐに鍵をかけて、静かに言った。
神谷「さっきの……変わってないって言ったけど、嘘だな。お前、変わったよ」
入野「え?」
神谷「俺のせいで」
その一言に、自由は一歩近づいて、声を潜めた。
入野「……いいの。神谷さんのせいで変わったなら、それでいい」
神谷「ほんとに?」
入野「うん。全部……神谷さんに染められていくなら、それがいい」
その瞬間、神谷はもう何も言わず、自由を壁際に引き寄せた。
唇が重なり合う。スタジオのすぐ裏側で——誰にも知られない、小さな部屋で。
深く、甘く、熱いキス。
自由は目を閉じ、ただ神谷の熱を受け入れた。
神谷「……バレるぞ、こんなとこで」
入野「……じゃあ、もっとバレないようにキスして」
少し笑いながら、再び重なる唇。
恋人になってもなお、お互いを求めずにはいられない——それが、ふたりの愛のかたちだった。