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前書き
今回の話には、
『23.戦闘訓練 (挿絵あり)』と、
『148.幸福光影(コウフクミツカゲ)』
『149.カーリー』
の内容が関わっています。
読み返して頂くとより解り易く、楽しんで頂けると思います。
まず説明されたのは、真なる聖女という存在についてである。
世界中に散らばった聖女達の中で、世代毎(ごと)にたった一人選ばれるのが真なる聖女であった。
特徴としては、コユキのまんま、神器を二つ持てるという部分である。
それ以外の聖女が二つ以上の神器に聖魔力を流すと、基本、死ぬらしい、相変わらず死に易い設定である。
選ぶのは伝説の神器『スプンタ・マンユ』、そう呼ばれる金属器自身が、自ら相応(ふさわ)しい所有者の元へ突然現れると言う。
前の真なる聖女が死亡するか、何かの理由で聖なる力を失った時、その時点で最大の力を持つ人物へと継承されてきたそうだ。
聖魔騎士と言うのもこの真なる聖女に似た存在であるが、明確に誰がと特定する事は難しいと言われていたという。
なぜなら、聖魔騎士を選ぶと言われていた、漆黒の神器『アンラ・マンユ』は失われて久しかったからであった。
自然、当代最高の存在である『真なる聖女』の対であるパートナーの聖戦士の事を、いつからか『聖魔騎士』と呼ぶようになったらしい。
但し、あくまでも名誉的な呼称であって、聖魔騎士として特別な役割みたいな物は無かったそうだ。
なにしろ聖魔騎士の最大の役割はアンラ・マンユの持つ特殊能力、封印能力による物であったのだから、それを持たない聖魔騎士に、期待するものがいない事は当然と言えた。
因み(ちなみ)に、ガチモンの聖魔騎士でもアンラ・マンユ以外の神器を二つ使用した場合、聖女と同じく、死ぬ、らしい。
なんで最初に言っておいてくれないかと、ツミコさんや善悪パパン及び善悪グランパに文句を言いたくなってしまうのは仕方ない事だろう。
次に話されたのは、現状に至った経緯であった。
このような事態を引き起こした切欠(きっかけ)は、コユキや善悪にも思い当たる話が多く、それによって驚愕の度合いも一層強くさせられたのである。
今から三十年以上前、日本の聖戦士が悪魔に返り討ちにされた。
敗北の要因は様々であったが、最大の理由は彼がたった一人で強大な悪魔に立ち向かっていた事に他ならなかった。
パートナーたる聖女は何をしていたのだろうか?
何故、幼馴染でもある聖戦士を見殺しにするような真似をしたのだろうか?
結論から言うと、彼女は戦えない体になっていたのである。
もともと食が細く、頑張って体重、体脂肪を維持していたその聖女は、この時、ガリガリにやせ細ってしまっていたのだ。
この年の一月二十八日、彼女は悲しいニュースを耳にする事になった。
スペースシャトル、チャレンジャー号が衆目の見つめる中、爆発してしまい、七人の宇宙飛行士達の掛け替えの無い命が失われたのであった。
テレビに齧(かじ)りついて人類の進歩に目を輝かせていた彼女は、その瞬間、悲鳴を上げた後、一転して黙り込み、内心で酷いショックを受けたのである。
その状態の彼女を、更なる衝撃のニュースが襲ったのである。
陰ながら慕っていた憧れの男性、英国の第二王子、アンドリュー王子の恋愛スキャンダルに、彼女の心は余人(よじん)には理解出来ない大きな傷を負った。
いつかはロイヤルファミリーに……
そんな可愛らしい妄想は、いとも容易く(たやすく)打ち砕かれたのであった。
食事は勿論、嗜好品(しこうひん)すら喉を通せ無くなった彼女は、見る見るやせ細っていった。
当然、そんな状態では聖女として戦う事は出来る筈も無い。
パートナーの聖戦士と話し合い、体調(脂肪)が戻るまで活動を控える事に決めたのだが、そこにつけ込んだ高位悪魔がいたのであった。
この年七十六年振りに地球に接近する『ハレー彗星』の一部を分離、軌道修正させて地球の大気に衝突させ、大量の命たる放射能を帯びた炭素を取り込む事で、自らと眷属(けんぞく)達の顕現を目論見(もくろみ)たのであった、野望を制止する聖女が動く事が出来ない日本にクラックを作って……
人並外れて正義感が強かった日本の聖戦士は、その企みに気付き放置する事が出来ず、一人きりでクラックの中へとその身を投じた。
幼馴染の聖女に一言も伝えないまま……
結果は残酷であった、長い戦いの末、彼は高位悪魔によってその命を刈り取られてしまったのである。
倒されるだけならばまだ良かったのだが、最悪の事に、この高位悪魔は倒した聖戦士の体を依り代にして顕現したのである。
当時の日本の聖女、件(くだん)の聖戦士のパートナーだった女性は、心を鬼にして自分の相方、幼馴染と同化した悪魔を倒そうとした様である、彼の妻と息子に怨まれる事も覚悟で……
勿論、痩せた状態では勝てる見込みは無いと理解していた聖女は、必死に太った上で、彼(か)の悪魔に挑む事にした。
具体的には、砂糖とサラダ油を、ざらざらゴクゴクと口に流し込み、更に、一日四升の餅を噛まずに飲むという地獄のノルマを自身に課して、元の体重を取り戻したのであった。
戦いは聖女が優勢に進み、いざトドメ! という段になって、高位悪魔が取って置きの手を打ったのだった。
聖女の前で倒れ込む悪魔の姿は、聖戦士の姿に変わり、彼の声で助けてくれと彼女に哀願をしたのであった。
悪魔が演じている茶番だという事は聖女には分かっていたが、子供の頃から一緒に過ごしてきた聖戦士の姿を前にして、聖女は高位悪魔を見逃してしまう。
その瞬間、彼女が両手に持っていたアイスピックの内、片方が光となって消えていったそうだ。
その話を聞いた聖女達は、神器が彼女を見限ったのだと噂をした。
彼女の名は、茶糖(サトウ)ツミコ、当時の『真なる聖女』であり、逃げ果(おお)せた悪魔は、『カーリー』であった。
『真なる聖女』の力を失ったツミコは愛車の紫のアマゾネスに跨ると、一本になったアイスピックだけを道連れに、どこへとも無く旅立って行ったと言う。
「おばさん……」
そこまで聞いて、コユキは思わず声に出していた。
自分や善悪と違って、真面目にやっていたんだと言う事が話しの節々から伺えたからだ。
善悪は黙って聞いていたが、心の中では色々考えを巡らしていたのであった。
――――やっぱりみっちゃん家の叔母さんの妄執(もうしゅう)でござったか、そんなこっちゃ無いかと思っていたのでござる