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お題『結婚』
⚠️注意⚠️
名無しモブ女がでます。最終的には冴凛ですがそのモブ女と冴が結婚する描写があります。
捏造あります。脱字誤字ご容赦ください。
以上が大丈夫な方のみご覧ください。
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「結婚したんだ」
兄ちゃんからそう告げられたのは和解してから数年が経った、俺の誕生日だった。
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〜凛視点〜
普段は使われないスマートフォンが、プルルルッと馬鹿みたいな音を鳴らして震えている。それは間違いなく最愛の兄からのもので、俺は高揚した気持ちも抑えぬままに電話に応じた。
『九月九日、空いてるか』
誕生日を祝ってやると言われているのと変わらないんじゃないか、なんて思ったのは自惚れすぎだろうか。
そんな約束をしてから練習でも絶好調でチームメイトにも驚かれたぐらいだ。……兄ちゃんとの約束で浮かれてるなんて絶対言わないが。
カレンダーを毎日指でなぞってその日が来るのを心待ちにしていた。自ら連絡なんてなかなかしないけれど、その日のためにあまり関わりのない御影なんかに連絡して服を選んでもらった。
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それからカレンダーを一度めくって九月九日。俺は約束の一時間前に待ち合わせ場所に立っていた。今日のためにたくさん準備をしたのだから大丈夫だと自分に言い聞かせても、どこか落ち着かなくて。待ち合わせ場所の前を行ったり来たりとフラフラしていた。
「何してんだ」
「うわっ」
背後から声が聞こえて驚いて振り返ったら、揃いの瞳がこちらを向いていた。
「兄ちゃん」
「……その服似合ってんじゃねぇか」
俺にしか見せない微笑みでそんなことを言うものだから目が合わせられなくなって俯いてしまった。
「行くぞ」
隣に並んですぐ近くの目的地まで歩く。もう背中を一方的に見つめなくていいんだと思ったら凄く安堵した。
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ドレスコードがあるおしゃれなレストランで俺たちは食事をしていた。お互いの近状なんかを話して、俺たちらしく気になった試合やプレーの話もした。誕生日プレゼントにお揃いのスーツをもらって凄く凄く幸せだった。
食後のデザートが運ばれてきて今までの柔らかい空気感が変わった。そして兄ちゃんがこう告げたのだ。
「結婚したんだ」
「……え?」
聞き間違いかと思った。……そう思い込みたかった。
皿に落ちたフォークがやけに大きな音を響かせたけれど俺にはそんなこと気にならなかった。そんな俺を気にもかけず、兄ちゃんは俺だけがわかる微笑みを浮かべた。……いや、兄ちゃんの微笑みがわかる人がもういるのだろうな。もう兄ちゃんの特別に俺はいないのだから。
俺が状況を飲み込めていないことも気にせず兄ちゃんは淡々と続けた。
「凛に一番に伝えたくて」
そのとき俺はようやく理解した。兄ちゃんの一番の目的は俺の誕生日を祝うことじゃなくて結婚報告をすることだったんだと。
「……そうなんだ」
喉がひどく乾いて、上手く声が出ない。水を飲もうとした手が、わずかに震えているのが自分でも分かった。
祝わなきゃ、おめでとうって俺も嬉しいってそう言わなきゃなのに。兄ちゃんにとって俺はただの弟だから俺も弟として振る舞わなきゃいけないのに。ちっともそんな気分になれなくて。嗚呼……俺って兄ちゃんのことが恋愛的な意味で好きだったんだって初めて気づいた。ずっと隣に居たい、兄ちゃんの特別になりたい、他の誰かに取られたくないって気持ちをずっと『尊敬』とか『親愛』で誤魔化してきた。この結婚報告がそんな気持ち悪い感情を抱いてしまった俺への罰なのだろうか。
「凛?」
名前を呼ばれてはっと顔を上げる。
いつも通りの無表情。
「どうした?」
どうした、じゃねぇよ。どうしたかなんて言えるわけがない。そんなことをぐるぐる考えていたからか余計なことを聞いてしまった。
「……そいつのこと好きなのかよ」
言ってすぐ後悔した。答えなんて聞くまでもなく決まっている。そんなの聞きたくない、聞きたくないのに。
「嗚呼」
そう言った兄ちゃんの幸せそうな表情が痛くて、苦しくて、でも世界一美しくて目が離せなかった。
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それから俺の家に結婚式の招待状が届いた。来るか来ないか選ばせるなんてずるい。兄ちゃんに来てほしいって言われたら俺が断れるはずがないのに。俺のセンスじゃ心配だからって兄ちゃんからもらったスーツに身を包んで髪もセットしてもらった。こんなにも綺麗にしたのが俺から兄ちゃんを奪った女と兄ちゃんのためだなんて随分哀れだと自嘲が漏れた。
結局、会場の料理にはほとんど手をつけられなかった。結婚式なんて挙げたことがないからわからないけどきっとこのメニューも飾り付けもあの女が絡んでいると思ったら吐き気が込み上げてきた。兄ちゃんらしく人はあまり多くない式だったけれどそれでも兄ちゃん達はその場にいる俺以外の全員から祝福されていてやっぱりこれが皆の望む『幸せ』なのだと思い知った。花嫁のドレスには白を基調として少しだけターコイズブルーも使われていてそれが凄く珍しいと思い視線を上げて理解した。その花嫁の瞳は珍しいターコイズブルーだった。俺はその瞳を持つ人間を2人しか知らなかったはずなのにもうその色は俺たちだけの揃いの色ではなくなっていた。
兄ちゃんが式を挙げたのは俺も来れるようにと配慮してなのかそれとも兄ちゃんの都合なのかはわからないがとにかくシーズンオフだったこともあり、結婚式から帰った俺は泥のように眠った。もう、何も考えたくなかった。トレーニングもストレッチも全部投げ捨てて、ただ現実逃避をしていたかった。
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それからしばらく経ってもう、シーズンが始まるという頃。もう外は暗くて日付がもうすぐ変わる時間に兄ちゃんからひとつ連絡が入った。それは、『話したいことがある』という簡潔で、何より恐ろしい言葉だった。
前回会った時は一ヶ月以上も前から約束していたのにいきなり明日会いたいだなんてそんなにも言いたいことがあるのか、それってもしかして子供ができたとかかな……そんなことばかりが浮かんできては俺の心をぐちゃぐちゃに掻き乱す。でも最愛の兄からの誘いを断ることなんてできなかった。前回はあんなにも楽しみだったのに今はもうその日が怖くて怖くてできることなら消えてしまいたかった。
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〜冴視点〜
初めて出会ったその日、何に惹かれたのかわからなかった。でも、中身も分からないのに、その人から目が離せなかった。長いまつ毛に女にしては高い背丈。髪はロングだったけれど綺麗な緑髪で可愛いよりも美人が似合うような顔立ちでターコイズブルーの瞳をもったその女と話をしてみたいと思った。だから声をかけた。少し話すだけでそいつの性格がすぐにわかった。クールで意地っ張りで気の強い、ツンデレという言葉が似合うようなそんな女。なんだか心惹かれてそいつと話しているとどうにも懐かしく感じられた。きっと、こんな女に出会うことは一生ないとそう思ったから付き合ってそのまま結婚した。全てがうまくいった。けれど、そいつが話す仕事だとか好きなものとかそういったそいつ自身の話には一切興味が持てなかった。なんならそいつが自身のことを話すとき必ず凛の顔が浮かんでいた。その女の話には、 違う、間違っていると。そう、思わずにはいられなかった。今思えば、それはそいつが凛に似ていない部分を知りたくなかったんだと思う。
結局俺が好きだったのは凛でたまたま凛に似た女がいたから惹かれただけだったのだろう。
それに気づいたのは離婚してからだったのだけれど。
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それは式を挙げてしばらく経ち、シーズンが始まろうとしていたときだった。
俺の家のリビングで過ごしていたその女が俺に向かいに座るように言ったから大人しく言う通りにしたら女は一度深く息を吐いてこう言った。
「私じゃあなたを幸せにすることはできないから別れましょ」
「は?」
意味がわからないと思った。いきなりそんな話をされて困惑しないわけがなかった。けれど同時にそうだろうなと思う自分もいて、だって実際この女といてもちっとも楽しくなかったし、幸せでもなかった。そしてそれはきっとこの女も同じだった。だから子供が欲しいとかそんな話はしたことがないし、この女と生涯を共にするというのも想像できなかった。だからその女の言葉に頷いた。
「最後に聞かせて、あなたは私を通して誰を見ていたの?」
その質問には答えることなく立ち上がった。そのまま電話をかければすぐに応答があって急な約束にも文句一つ言わずに受け入れるその姿が愛おしくて、もう夜遅くだったけれどそのまま家を出た。
今はただ少しでも早く最愛の人に会いたかった。
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〜凛視点〜
約束の場所に着いたのは、少しだけ早い時間だった。
前みたいに一時間も前から待つことはなかったけれど、それでも落ち着かなくて、意味もなくスマホの画面を何度も開いては閉じる。
夜風が少し冷たくて、季節が変わり始めていることを感じさせた。
「凛」
名前を呼ばれて顔を上げる。
そこにいたのは、見慣れているはずなのに、どこか知らない表情をした兄ちゃんだった。
「……なんだよ」
少しだけ刺々しい声が出た。
前みたいに素直に返せない自分に、内心で舌打ちする。
冴は少しだけ間を置いてから口を開いた。
「話がある」
前にも聞いた言葉。
でも今回は、逃げ場がないことだけは分かった。
「……聞いてやるよ」
そう言っても、視線は合わせられなかった。
少しの沈黙。
風の音だけがやけに大きく感じる。
「離婚した」
短い言葉だった。
理解するのに、少し時間がかかった。
「……は?」
思わず顔を上げる。
冴はいつも通りの顔で、でもほんの少しだけ、迷いを含んだ目でこちらを見ていた。
「俺が……」
そこで一度言葉を切る。
今まで見たことのない沈黙だった。
何でも言い切るこの人が、言葉を選んでいる。
「俺が幸せにしたいのはお前だけだ」
「今更……遅せぇんだよ……」
そう。本当に今更だ。俺がどんな思いであんた達の結婚式を見ていたと思ってるんだ。兄ちゃんの幸せを祝えるようになろうと努力して、歪んだ恋心を隠した俺の気持ちがあんたにわかるのかよ。ふざけるのも大概にしろと叫びたいのに、俺を選んでくれたんだという喜びが這い出てきて頭も心もとっくにぐちゃぐちゃだった。俺を捨てた兄ちゃんが憎いし、許せないけど大嫌いにはなれなくて、だから結局
「俺も好きだよ」
なんて答えてしまうんだ。
「泣くなよ」
そう言われて初めて泣いていることに気がついた。でもこれは悲しくて泣いてる訳じゃないって兄ちゃんは気づいているだろうか。
泣き顔を見られるのがなんだか恥ずかしくて俯きがちだった頭をゆっくりと持ち上げると兄ちゃんがこちらを見つめていて目が合ってしまった。
「帰るか」
指が絡む。
まるで逃がさないみたいに。
そのまま並んで歩き出す。
どこに帰るのなんてもう聞く必要がなかった。さっきまで冷たかった風が少しだけ和らいだ気がした。
繋いだ手の温度がやけに熱い。
もう一人で歩かなくていい。背中を追いかけるだけじゃない。当たり前みたいに隣にいる。
「兄ちゃん」
呼ぶと、
「ん 」
短く返る。
それだけで十分だった。
もう、奪われることも見失うこともないんだとそう、思えた。
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〜元妻視点〜
正直、驚きはなかった。
あの人から届いた招待状を見たとき、「ああ、やっとか」と思ったくらいだ。
白い封筒。
無駄に整った字。
中身を開く前から、誰の隣に立つのか分かっていた。
式は静かだった。
あの人らしい、余計なものを削ぎ落とした空間。
扉が開く。
先に入ってきたのは、あの人。
変わらない顔。
変わらない歩き方。
でも、
――隣に立つ相手を見る目だけが、違った。
少し後ろから入ってくるもう一人。
視線を逸らして、どこか居心地悪そうにしているくせに、
離れない距離にいる。
無意識なんだろう。
昔からそうだった。
気づいてないのは、本人たちだけで。
思わず、笑いそうになる。
(本当に、不器用)
誓いの言葉なんて、ほとんど耳に入らなかった。
ただ一つだけ、はっきり分かったことがある。
あの人は、一番大切な人を見ている。
今度こそ、ちゃんと。
それだけで十分だった。
「おめでとうございます」
小さく呟く。
届かなくてもいい。
これは、私のための言葉だから。
あの結婚が間違いだったとは思わない。
だって、
あれがあったから、
あの人は気づいたんでしょう?
本当に選ぶべきものに。
視線の先で、二人の距離が少しだけ縮まる。
ぎこちなくて、でも確かに繋がっている。
――今度は、壊れないといい。
そう思いながら、静かに席を立った。
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少し長くなってしまいましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。
投稿ペースが亀より遅い私ですが少しづつほかの話も書き上げていきたいと思います!いいね、コメントとても励みになっております。次の話も是非見てください。
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