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午前の授業を無事に終えたグリフィンドールの新入生、アルバス・ダンブルドアが、昼食を食べようと大広間に向かっている道中。
目の前に突然現れたのは、朝にも会った少年姿の7年生の先輩だった。
「やぁアルバス〜!昼食に行こう!」
「───あの。フィルクス先輩、今どうやって」
「うん?あぁ目眩し術の事かい?」
「目眩し術…」
アルバス少年が戸惑うのも当たり前の事だろう。
なにせ、この先輩は一切の物音も気配もさせていなかった。誇張では無く”突然目の前に現れた”のである。
「…なぜ態々校内で隠れてたんですか?」
賢いアルバス少年は、フィルクスという先輩については考え始めても終わりが来ない事を早々に悟り、質問の方向性を変えることにした。
「別に更衣室に忍び込もうとしてた訳じゃないよ?」
本当に勘違いをしているのか、アルバスをからかって遊びたいだけなのか。本心は未だ見えそうにないが、フィルクスは口の端をほんのり持ち上げて笑っているので、おそらく後者なのだろう。
「実はさっき校内で箒に乗ってた事が、マダム・コガワ…あ、飛行術の先生ね。その人にバレたみたいでさぁ」
「追われてたんですね。」
「そうそう!察しがいいね」
フィルクスは満足気に笑ってアルバス少年の頭を撫でようとしたが、身長の問題で手が届かなかったようで──身長差は15cm程度──頬を膨らませ、不服な表情をしている。
「はぁ…仕方ないか、今日は”最小日”だし」
「……あの、色々と気になりますがお腹も空いたので、大広間に行きませんか」
このままフィルクスと話し続けても疑問が増えるだけだと察し、腹の虫も鳴き始めたアルバス少年がそう提案する。
「あぁそうだったね。じゃあこっちおいで」
「…??近道ですか?」
「いや、大広間には行かないんだ。アルバスは聞きたい事が沢山あるだろうけど、あそこじゃ人目が多いからね。 」
そうしてアルバス・ダンブルドアはフィルクスに手を引かれ、行き先も分からぬまま大人しくついて行った。
━━━━目眩し術も、忘れずにかけて。
フィルクスside
「ここは…」
「必要の部屋ってやつだよ。」
突然連れて来たんだから当たり前だけど、やっぱりアルバスは目を見開いて驚いた顔をしてる。
この表情見てると、初めてセバスチャン達を招いた時の事を思い出すなぁ。
「私室化してるんですね…」
「僕の在学中は、ホグワーツの全てが僕の物だって顔で歩こうと決めたからね!」
実はこれも同じ状況で言った事がある。
みんな呆れた目をしてたけど、こんな事で嫌ったりするような人達じゃない。まだ出会って数日だけど、アルバスもそういう人なんじゃないかな?
「自信があるのは良い事だと思います。その点では僕も先輩を見習いたいです」
ほら、やっぱり。
下級生達から避けられてるようだけど、アルバスは皆が想像しているような人柄じゃない。
僕も5年生の頃に…似た経験があるから、彼の気持ちは多少なりとも分かっているつもりなんだ。
噂の人が噂通りだった、なんて事は殆ど無い。
それを、皆に広めてやるためには。
「おいおい、確かにコイツは凄いが、見習うのはやめといた方がいいと思うぜ?」
必要の部屋、もとい僕の私室に入ってすぐ見える左側の談笑スペースから、セバスチャンが顔を出した。
「それは…どういう事ですか?」
「まぁまぁ。暫くコイツにちょっかいかけられてれば、そのうち賢い1年生ならすぐに分かるさ。」
「そう、ですね…」
アルバスには既に何度か声を掛けているから、僕の人となりはある程度掴めてきているんだろうな。
多少の疑問は残りつつも、セバスチャンの言っている意味は分かっているようだ。
会話が一段落したので、僕はアルバスとセバスチャンを食事用のスペースに連れ出すことにした。
「疑問は沢山あるんだろうけど、まずはご飯にしようか。今日はディークがこっそり色々持ってきてくれたから、全員分ちゃんとあるよ。」
「よし、さっさと行こうぜ〜。もう腹ペコだよ」
「…はい、分かりました」
「そ、そんな事があったんですか…」
「そうそう。結局は調合は上手くいかないしシャープ先生にもバレて2人共減点されちゃった。僕は叔母さんにも呼び出されて散々だったよ…」
「僕だって転入して間も無いのに先生達に目を付けられて大変だったんだよ!」
「でもお前はすぐに先生方に”あ、コイツは何言ってもダメなやつだ”認定されて割と放任されてるよな」
「フィルクス先輩…何したんですか…」
突然フィルクス先輩に必要の部屋に連れてこられた時は少し不安だったけど、今一緒に食事している3人の先輩は皆良い人そうだ。
初めて会ったギャレス・ウィーズリー先輩は同じ寮のグリフィンドールだし、魔法薬学に詳しくて会話が楽しい。彼を呼んでくれたのは多分、フィルクス先輩の気遣いだと思う。
そしてもう1人のセバスチャン・サロウ先輩…
この人はフィルクス先輩と特に仲が良いのだろうな。朝も先輩を迎えに来ていたし、今も隣に座って楽しそうに食事している。
ただ…少しだけ、近寄り難い何かがある気がする。
サロウ先輩が意図的に作り出した壁と言うよりは、魔法使いとしての経験から作られている壁のように感じるな…。
「あ、そうそう。アルバスの疑問に答えるんだったよね。何でも質問していいよ!」
「こいつと居ると疑問が尽きないだろうからな」
「あ、それなら僕は先に教室行ってるよ。調合してる魔法薬の経過が見たいから」
ウィーズリー先輩はそう言って部屋を出て行ってしまった。…また、寮で見かけたら話しかけてもいいのかな。
あ…そうだ、質問…。フィルクス先輩については色々と気になってるんだけど、何から聞こう…
「…今朝言っていた、”最小日”ってなんですか?」
でもこれは、だいたい予想がついてたりもする。
だってフィルクス先輩は、初めて会った時よりも背が小さくなってる気がするんだ。
「文字通り、1番小さい日だね。僕って古代魔術の痕跡が見えるんだけど、昔色々あってね。その影響なのか毎日身長が変わるんだ。 」
「…?古代魔術…?」
「…それ、そんな簡単に話してよかったのか?」
サロウ先輩が眉間に皺を寄せて、心配そうにフィルクス先輩の事を見てる。やっぱり、凄く重要な情報だったのかな?それにしても、古代魔術か…聞いた事もないな。
「いーのいーの。…フィグ先生も、アルバスを見れば話す事を了承してくれた筈だよ」
「…そうだな」
空気が重い…あのちゃらんぽらんでマイペースなフィルクス先輩が、先輩とは思えない表情で僕を見てる。フィグ先生…何か、あったんだろうな。
「まぁ、正確に言うと”身長が変わる”じゃなくて、”年齢が変わる”って感じかな。まだおじいちゃんにはなった事ないけど。」
「今は確か9歳だったか?」
「うん、それより下は未経験。いつか赤ちゃんになっちゃったりしてね!あはは!」
……凄く軽く言ってるけど、それってとても危うい事なんじゃ…ホグワーツに居る間はまだしも、卒業して…一人になったら、先輩はどうするんだろう…
「笑えねー…入学間もない1年生にする話じゃない」
「いいんだよ、アルバスなら。この子はきっと、将来凄い魔法使いになる。もしかしたら、ホグワーツの校長になるかもよ?」
「お前の言う凄い魔法使いって、校長なのか…」
「うん。僕は世界で1番、このホグワーツって城を愛してるから。アルバスみたいに賢くて人想いな魔法使いが校長になってくれたら、安心だよね」
凄い、魔法使い……。
僕の力は、きっとそれより上だって目指せると、本能で分かる。だから…だからもっと、学びたい…そう思ってたけど…。
「って、ごめん長話し過ぎた。昼休みが終わる前に、アルバスの疑問をもうちょっと解消しなきゃね」
「あ…えっと……古代魔術って、僕にも使えますか?」
何を聞いてるんだ僕は。使えないに決まってる。
そんな特別な力、僕には無い。僕にあるのは基礎的な魔法の才能だけで、きっと…それ以上なんて……
「使えるよ。」
「…ま、そうとも言えるよな」
…え?
「ただし、範囲は限られるけどね。本当に一握りなんだ、古代魔術の痕跡が見える魔法使いって。」
「それなら…なんで」
「アルバスが使えるのは、”愛”の魔法だ。誰にでも使える…と言うとまた違うかな。愛の無い魔法使いには無理だもん。」
「…」
愛…そんなもので、先輩のような凄い魔法が使えるのか?そもそも、僕にそんな温かいものが、備わっているのかも…
「僕が言うんだから確かだよ。アルバスは愛に溢れた魔法使いだ。もちろんセバスチャンもね?」
「僕を巻き込むなって。…いいから」
「照れなくってもいいのに!」
「あの…その愛の魔法って言うのは、何ができるんですか?」
そうだ、使えるって知ってたとしても、使い方が分からなければ意味が無い。僕はそもそも、この先輩からそういった知識を吸収する為に近ずいたんだから。
「そうだね…絶対的な護り、じゃないかな。それこそ、闇の魔法すら防いでしまう完全防御。愛しい人を護りたいという気持ちは、誰にも壊せないよ」
「ま、護り…」
…そんなの、無理だろ。
いくら愛が強い感情だったとしても、闇の魔法は絶対だ。…誰も止められない、誰も抵抗できない。
…そういうものじゃ、ないのか?
「ま、こいつはそんなもんが無くても闇の魔法使いに突進して行くけどな。」
「え、だって躱せばいいだけだよ」
「お前なぁ……」
もっと聞きたい、知りたい事が沢山ある。
どうして僕にそんな事ができると思ったんだろう?そもそもフィルクス先輩は、どうして嫌われ者の僕の元に来たんだ?分からない……質問しても尚、この先輩の事が分からない。
──僕が口を開こうとした時、鐘の音が響いた。
「…あ、授業始まっちまうぞ」
「長話し過ぎたね〜。 ……アルバス、まだ疑問は尽きないと思うけど、これからゆっくり知っていけばいいよ。ホグワーツでの生活は長い、学べる事は沢山あるさ」
「…はい」
そう言って部屋を出た後、フィルクス先輩は僕を箒に乗せて、次の授業の教室まで連れて行ってくれた。
僕は、上の空で午後の授業に出席し、これから起きる事への不安と期待から、胸が高鳴っていた。