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ウラウラ
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あの人からの最後のメッセージに、僕はいつものスタンプを返していた。
了解!って言ってる猫のスタンプ。
ただのゲームのお誘い。
長文でくどくどと、お前が良い訳じゃないだの、空いてる相手がお前しかいないだの。
くだらない言い訳を並べて。
この猫のスタンプが送られてきたとき、あの人はなにを思ったのだろうか。
安堵したのだろうか。
既読の付いたそのスタンプ。
もう返事が永遠に来ることのないその連絡先。
こっちに笑いかける猫をしばらく眺めていた。
電源を落とす。
もういないんだから、何考えたって無駄なんや、って。
今だに引きずっていた自分にちょっと引いた。
ポケットに、二台のスマホ。
片方は、飾り気のないただの黒いスマホ。
もう片方は、僕のものとは対照的によく目立つショッキングピンクのスマホ。
薄くて軽い。
落としたら速攻壊れそうだと思った。
使うならやっぱり、画面が大きくて少し分厚い、旧型のスマホでいいやと思った。
まだ持ち歩くのか、と。
以前、誰かに聞かれたことがある。
もう電源も入らないそのスマホ。
確かに持ち歩く理由はない。
持ち歩きたいから、と答える勇気はなかった。
事務上、処理するのが面倒くさいから。と答えておいた。
その誰かは笑って言った。
『そうですか…そんなこと言ってたら、鳴海隊長またキレちゃいますね。』
それが、どこかでまだ戻ってくると信じているように聞こえて。
確かになぁ、と笑ってしまった。
戻ってきたらいいと、僕も思っていたから。
自分だけじゃ、なかったと気づいたから。
もう誰がそう言ったのかも覚えてないけど、その時笑った口元だけは鮮明に覚えていた。
「保科。昼食でもどうだ」
「もうそんな時間ですか?…行きましょか」
冷静沈着な上司と廊下を歩く。
幾分低いその目線は、保科のポケットの膨らみの正体を知っていたようだ。
「…その、残念だったな。アイツのこと…」
「アイツて…ああ、鳴海隊長の件ですか?何を今更」
普段と目に見えて違う、複雑な顔をする亜白。
対して保科は普通に笑っていた。
「残念だったな、て。僕あの人とそんな、付き合ってたわけでもないのに。変わった言い回しですねぇ」
「そうか?」
「あの人失くしたんは、僕だけちゃいますから」
からりと晴れたその言葉。
飄々とした笑顔の奥には、何もないように見えた。
後悔も悲しみも、怒りも。
とっくに燃やし尽くして、穏やかに凪いでいるように見えた。
本当はどうなのかは知り得ないが。
スマホを2台持ち歩いているのは、彼にとって贖罪か何かだと思っていた。
違ったようだ。
どうして、と聞いたところできっと本人にもよく分からないのだろう。
何でも1人でこなす彼にとって、僅かな拠り所なのかも知れない。
亜白は目を閉じる。
次に開けた時、彼女の瞳は凪いでいた。
しっかりと根を張った彼女と、軽く笑って飛び回る彼。
その目に未来を宿して。
強く聡い仲間を率いて。
歩みが止まることはない。
保科は振り返った。
廊下の窓から舞い散った桜の花びらが風に乗って入ってきて。
長い長い廊下に、人影が見えた。
ゲーム機を持って不機嫌そうで。
どこか満足そうな、その顔。
とっくに見飽きたと思っていたその顔。
見たこともないような、優しい優しい瞳。
柔らかく細められたその桃色の瞳には、進み続ける人間が映っていた。
保科が前を向き直す。
肩越しにちらりと後ろを見た時、もうその姿はなかった。
開いた窓から吹き込んだ、穏やかな春の風。
ほんの少し冷たく、泣きたくなるほど暖かい風。
また入り込んだ桜をつまむ。
壊れないように胸ポケットに仕舞う。
儚く、脆く、美しい。
ゲーム好きな青年に別れを託された花は、最も届いて欲しかった人の胸で咲いた。
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