やってしまった。
最強の呪術師五条悟は自分がしでかしてしまった失態に思考停止している。
沖縄旅行2日目も念入りに変装をして2人の和やかな旅行を遠目から眺める予定だった。
それがなんということだ。
無量空処を解き岸辺に目をやるとそこにはキラキラと紫色の瞳を輝かせた愛する娘、唯愛の姿がそこにあった。
朝5時前のまだ空が暗い時間だったため完全に油断していた。
時は遡ること数時間前。
伊地知からの鬼電が鬱陶しく全て拒否した。
LINEに『おちんちんびろーん』とだけ送って仕事用のスマホの電源を切り、明日の為にベッドに横になる。
だが就寝中、かなり強い呪力を帯びた呪霊の気配を察知したのだ。
場所はここからかなり近い海の上。
このままでは2人が危ない。
僕は同時に気配を感じて起きた傑に速攻で祓って来ると伝えバルコニーから術式で移動した。
呪霊は海岸からたった50m付近で発生していた。
この呪力は確実に特級相当だ。
僕は1秒でも早く呪霊を祓うために領域を展開する。
特級相当ではあるが僕の敵ではない。
メキメキと音を立てて潰れた呪霊は反転術式をする余裕も無く跡形もなく消えていった。
領域を解除し早めに戻ろうと宙に浮いたまま後ろを振り返った時、思わぬ人物の姿に目を見開いた。
「え?」
「え?」
そして冒頭に戻るという訳だ。
唯愛は目を丸くして驚いた様に口を開けている。
そして僕も多分今怖いくらいに六眼をかっぴらいていると思う。
そもそもなんで幼い唯愛がまだ薄暗い岸辺に1人でいるんだ?
もしかしてあの呪霊の術式で唯愛がここまで呼び寄せられた?
僕は不安に駆られ急いで岸辺に戻り、しゃがんで唯愛に声をかけた。
「君大丈夫?なんでこんな所に1人でいるの?」
話しかけても依然口をあんぐりと開け、瞬きもせずに目を見開き続ける唯愛にますます不安が募る。
しかし六眼で見たところ先程の呪霊の呪力を感じない。
他の呪力の残穢も無いので何故固まっているのだろう。
「ごめんねー。もしかしてびっくりさせちゃったかな?君のママが心配しちゃうだろうから僕と一緒に帰ろうか。」
ホテルの部屋まで送ろうと唯愛の事を抱っこした。
うわあ唯愛の事抱っこできちゃったよ!
僕めっちゃ今パパじゃない!?
唯愛軽いな〜これが7歳児かあ。
出来ることなら生まれた時から君のこと抱っこしたかったよ。
はあかわいいなあ、その紫の瞳も僕と紫苑との繋がりを感じられるからずっと見ていたいよ。
僕が年甲斐も無くはしゃいでいるとようやく正気を取り戻したのか、唯愛が何やらぶつぶつ喋り出した。
「ん?なんて?お兄さんに聞かせてごらん?」
傑がたまたま唯愛と出会った時みたいに2人で楽しくおしゃべりしながら紫苑の元まで返せると思っていた。
「…った…」
「た?」
「オシガシャベッタアアアアーー!!!」
紫苑の元に帰すまで仲良くお喋りデートを期待していた。
しかし唯愛は謎の言葉を発しながら大絶叫をしてそのまま気絶したのだ。
何が起こったか分からなかった。
え?待って待って何?僕そんな怖かった?
傑みたいに親しみ易く声掛けれたと思ったんだけど…どうしよう自分の娘に絶叫されるとかパパ辛い…。
この感じだと1、2時間は起きなさそうだな。
とりあえず気絶させちゃったもんはしょうがないから僕が責任もって送り届けよう。
唯愛のルームウェアのポッケにルームキーも有るし、紫苑に見つかる前に急がなきゃね。
でもこうして唯愛がまだ幼いうちに抱っこできるなんて思ってもいなかった。
僕が唯愛に本当の父親だと告げる時どんな反応をするのかな。
腐ったミカン共を一掃するのにもう少し時間が必要だからね。
その時には多分この子は思春期真っ只中で僕の事を拒絶するのかな。
パパだなんて呼んであげないぞって。
「それでも僕はお前のパパになりたいんだ。」
そう言って唯愛のまんまるな額にキスをした。
唯愛の部屋の鍵を開けると紫苑はぐっすり眠っている様だった。
彼女の心地いい寝息が聞こえてくる。
唯愛を起こさ無いようにそっとベッドに寝かせるが、むず痒かった様でモゾモゾと動き出してしまった。
やべ…起こしたか??
しかし、やはり7歳児の睡眠は深い様でそのままヨダレを垂らしながら夢の中へ誘われる唯愛。
可愛いなあ。僕に瓜二つだけどこうやって近くで見ると紫苑の面影も見えてくる。
隣で寝ていた紫苑の寝顔に顔を近づけた。
少し酒を飲んでいるようで寝息からはアルコールの匂いがした。
夜の店で働いていたということはそれなりに酒が強いのだろう。
もし紫苑がまだ高専に残っていたら、硝子や七海と行った酒豪メンバーで仲良くやっていたのかな。
でもそこに僕が入れる隙は無いからちょっぴり寂しいかも。
ああ、こうして2人が寝静まった時でないと五条悟として会えないなんて、本当にとんでもない罰だよ。
外を見ると明けの明星が東の空で輝きだしていた。
さて、そろそろ僕は行かなきゃね。
アイマスクで瞳を覆い、2人を起こさない様にそっと部屋を後にした。
「おかえり悟、唯愛が無事でよかっ…て何その顔。」
「…僕は悲鳴を叫ばれた上気絶されたのに、なんでお前は仲良く話ができたんだよ。」
「うーん、まあ日頃の行いじゃない?」
「…あとで伊地知の電話かけ直してやろう。」
「っは!?推しがああ!?」
「あ!唯愛起きた。おはよう!」
「あへ…ママ?」
あれ…おかしいな。
確か私は夜明け前に起きちゃってバルコニーから外眺めてたら、急に海上で帳が下りたのにびっくりしてその場所まで行ってそしたら五条悟がいてしゃべってだっこしてなんかして…。
いやなんか自分でも何言ってるか分かんないんだけど。
普通にベッドの上ですっきりさっぱり目覚めてるから多分夢だったのかもしれない。
うん、だってこんな都合良く推しに会えるわけないもん。
今まで散々ご都合主義信用して裏切られて来たからな!!
もう私は信じないぞ!!
「唯愛ったら寝惚けてるのー?」
ママに笑われちゃったぜ。
まあでも推しの夢見れただけでも最高の目覚めだよね!
この世界に推しは存在してるからどこかで絶対会えるはず。
その時まで女としても呪術師としても磨きに磨きをかけて必ずや五条悟を落としてやる!!
さあ切り替えて沖縄2日目。
今日も聖地巡礼で美ら海水族館とマングローブの森のボート体験だ。
でっかいサメとひっろい森で懐玉玉折にひたるぜ!
そんなわけでまずは超豪華朝食ビュッフェだ。
ここは特にスイーツの種類が豊富みたい。
朝から推し活!!朝から推し活!!
せっかくなら推しのアクスタと共に食したいが、生憎持ち合わせていないので脳みそフル回転で偶像の五条悟アクスタを生み出すとしよう。
さあスイーツ全種類制覇だ!!
うぷ…きもちわるい…。
スイーツ食いすぎた…。
いやてか冷静に考えてみれば朝からスイーツ爆食いはシンプルにアホだと思う。
もっと他にご飯系で美味しそうなのいっぱいあったのに、推し活を理由に甘い物しか食べなかった私頭悪すぎ。
でも推しってあれ以上の量をいつも食べてるんだよね。
私1つずつ取ってこれだよ。
推しの血糖値は正気か??
「唯愛大丈夫?あそこにコンビニあるから一旦寄ろっか。」
「うん…ママごめんね。ありがとう…。」
せっかくの旅行なのに申し訳無さすぎる。
吐くのは勿体ないからなるべく下から出る方向に持ってくとしよう…。おぇっ。
結局きらきら星になっちゃったぜ…。
口の中気持ち悪すぎて歯磨きしたい。
スイーツは朝ドカ食いするもんじゃない。
そう改めて認識し、手を洗っていると男子トイレのドアが空いた。
「あ。」
「あ…。」
トイレから出てきたのは昨日ナマコの犠牲者となったヤーさんもどきの一人だった。
ちなみに髪黒くてグラサンかけてる方。
そういえば私この人達に謝らないとじゃん。
え、どうしよう。なんかこの人近くで見たらさらにでっけえんだけど。
めちゃくちゃボコボコにされたりする?
いやママ助けてくれたからそれは無いか。
「おーい、私も行きたいから早くし…。」
「あ…。」
今度は茶髪の人も来た。そんでめっちゃでっけえ。
ええ気まずい…。
ナマコに顔射されて死ねとかめっちゃ暴言吐いちゃったし。
もういっそ術式使って逃げたいけど、九十九さんが非術師には使っちゃダメって言ってたしなあ。
くっ…猿め…。
「あれ、もしかして昨日助けてくれた方達ですよね?」
ただならぬ空気感の中でママという一筋の光が差し込んだ。
ママ、ナイスタイミング!!
「やあどうも。昨日ぶりだね、あの後変な男とか大丈夫だった?」
あれ昨日みたいなヤクザ口調じゃないぞ。
なんかどっちかって言うと推しの喋り方に似てる気がする。
てか声もろ推しじゃね?なんか脳みそバグってくる。
まあ昨日は昨日で高専時代の推し感あったけども。
「奇遇ですね。これからどこか観光に行かれるんですか?」
こっちはめっちゃ傑くんだ。
え、もしかしてアニメたまにあるあるの主要キャラの声優さんがモブの声も担当してるやつ?
まさか呪術廻戦にもあったんだ。
声優さんも色々大変だなあ。
「今から2人で水族館へ行くところなんです。」
「奇遇だね、僕たちも今から水族館に行く予定だったんだ。」
え、野郎2人で??
いや待て私、性別で判断するのは今のご時世1番やっちゃいけない。
そうだ、この2人もジンベイザメ見たいだけだ多分。
てかこの2人ならジンベイザメの1匹や1000匹余裕で捕ってこれそうと思うのは私だけ?
いやダメだダメだ私!!見た目でも判断するのは良くない!!
もしかしたら2人は握力5キロしかないかもだし!
脱いだらほぼ紐みたいなTバック履いてるかもしれないし!
いや待てまじで何言ってるんだ私。
色々混乱している私を察してか、茶髪の方がしゃがんで話しかけてくれた。
「昨日は驚かせちゃってごめんね。君のお母さんに酷い事しようとしてた訳じゃないから安心して欲しいな。」
「え!あ、えと、私こそごめんなさい…早とちりしちゃって酷い言葉言っちゃいました。ナマコ臭かったですよね…。」
まさかの私が悪いのに彼から謝ってきてくれたのだ。
いやまじで傑くんもどきいい人過ぎ。
理子ちゃんにやったみたいにめっちゃねじっていいんだよ。
「あはは、大丈夫。私たちのことは気にしなくていいから。こっちのお兄さんも顔は怖いけど優しい人なんだよ。」
「お前に言われたくはねえよ。」
はうっ、この絡み方めっちゃ推しと傑くんだ。
尊い…尊い…全然知らないモブキャラなのになんなんだこの感情は。
「お兄さんも酷いこと言っちゃってごめんなさい…。」
「僕も平気だから大丈夫だよ。ちゃんと謝れるの偉いねえ。」
うぉおあ!!!cv中村氏の頭ポンポンだ!!
すっごい破壊力。モブのアテレコまでしてくれてありがとうございます…。
はあ2人のこの声ずっと聞いてたい。
…あ、そうじゃん!!!
「ねね、お兄さん達も一緒に沖縄旅行しよーよ!水族館一緒に回ろ!」
これぞ私が見出した最善策だ。
それに男2人じゃ寂しかろう。
美人親子に癒されるが良いぞ。
「え…いいの?」
「うん!いいよねママ?」
「もちろん!昨日助けて貰ったので、是非お礼させてください。」
ママさすが!!懐とおっぱいがでかい!!!
あと2日間このイケボ達を聞き続けられるの最高すぎる。
そんなわけでジェネリック親友コンビとの聖地巡礼ツアーが開幕した。
「いや、まさかコンビニで鉢合うとはね。」
「まーじであぶなかったよ。トイレでカラコン入れといてよかったあ。」
僕たちはまさかのコンビニで2人と鉢合い、その後唯愛の提案で残りの2日間を共に行動する事になってしまった。
2人が水族館に行くことは九十九さんから聞いていたので把握済みだったが、まさかトイレ休憩のために立ち寄ったコンビニでたまたま会うとは。
つい朝方2人の寝顔を見たばかりだし、唯愛に至ってはビビらせて気絶させちゃったからなあ。
単に人見知りなだけなら良かったのに、僕のこの見た目には一切動じず普通に接してくれている。
ますます僕辛すぎるじゃん。
グッドルッキングガイなパパそんないや?
僕はハンドルを握りながらため息をついた。
「にしても、悟が免許持っていた事が一番の驚きだよ。」
「んーまあ、僕別にいらないからとってなかったけど、今日の為に一発試験で取得してきた。」
「はあ、運転の経験ないくせに受かるなんてさすがは君って感じだね。」
「まあねー、僕ほらなんでもできんじゃん。」
「唯愛にはビビられていたけどねえ?」
「それを言うな傑…。」
「はは、冗談だよ。」
うおおおお!!!
ついに着いた2つ目の聖地、水族館!!
あの理子ちゃんが同化前に色々思いに浸るシーンがなんともグッとくる。
あの時本当に辛かっただろうな…。
そういえばこの世界の理子ちゃんってどうなってるいるんだ?
やっぱりパパ黒に殺されちゃったのかな。
いやあの時殺されていなくても結局は同化する事になるから、どの道今は生きていないのか。
ううっ…!君にも会いたかったよ理子ちゃん!!
どうか天国で黒井さんといっぱい南を満喫するんだよっ!!
さあここからは2人の追悼も兼ねて満喫するぞ!…と言いたいところだけど。
「わあ、すごい人だね。唯愛はぐれないようにママと手つなご。」
「うん、ママのおててギュッてしてるね。」
見渡す限りの人人人。
7歳児の身長のせいでメイン水槽なんて見れやしない。
見上げても頑張るお父さん達の後頭部だけだ。
くそう、水槽の真ん前で理子ちゃん風にジンベイザメ眺めたかった。
このジェネリック親友コンビの身長が羨ましい。
思わずしゅんとしてしまった。
落ち込んでいるとジェネリック五条がまた私に目線を合わせてしゃがんできた。
「もしかしなくても全然見えてないよね?」
「うん、ジンベイザメ全然見えない…。」
「オッケー。唯愛ちょっと靴脱いで。」
「え?なんで?」
「いいからいいから」
そう促されたので靴を脱ぐと、ジェネ五条はそのまま私をひょいと抱き上げ自分の肩の上に座らせたのだ。
「アッヒョ。」
急に目線が2倍以上上がったのでびっくりして口から某グーフィーが出てきたが、これは俗に言う肩車というものでは無いか。
「どう?これなら見える?」
「うん、めっちゃ見える。サメでっかい!」
このジェネリック五条、身長まで推しのジェネリックなので私の目線は今2メートル以上も上だ。
ちゃんと支えてくれてはいるが、正直ちょっと怖い。
でもおかげで水槽がめちゃくちゃ良く見える。
なんならこの中で一番の特等席だ。
これで心置き無く推し活ができるぞ。
あ、サメ目の前に来た。
ジンベイザメは前世で1、2回程度しか見た事がなかったので、あまりの大きさに口がぽかんと開いてしまう。
ジェネ五条の方を見ると光の反射でママと同じ色の赤い瞳がキラキラと星芒のように輝いていた。
そういえばこのジェネ五条、モブキャラだと思って声しか聞いてなかったけど顔面綺麗過ぎないか。
少しつり上がった猫目を髪色とは違う白いまつ毛がえげつない長さと毛量で瞳の外枠を囲っている。
鼻も輪郭も絶対に純ジャパには居ないレベルで整っていて、どこぞの血を持ってきたらこうなるんだいってくらいにパーツも配置もいい。
少し大きめの口も全体のバランスを保っていて、少年の様なベビーフェイスを完成させている。
正しく黄金比率フェイスだ。
え、待って待ってこの人もしかしてジェネリックじゃない?
髪色と目違うけど色違いポケモン的な感じの色違い五条悟的な?
いやさすがに五条悟2人もおったら地球が終わるからそれは無いか。
とりあえず今は無駄に考えるのをやめてジェネリック五条の好意に甘えよう。
だんだんとこの高さにも慣れてきたし。
「唯愛肩車して貰えてよかったね!ありがとうございますお兄さん。」
「どういたしまして。せっかく来たのにジンベイザメ見れないのは可哀想だし。」
にこりと照れながら少女の様な笑顔をジェネ五条に向けるママとそれを見て少しだけ顔が赤くなるジェネ五条。
いや天啓…!!
まじかお二人さん、あの短時間でもうそんな感じ?
フッ仕方ない。ここは空気呼んでやるよお二人さん。
「ねえお兄さん降りたい。」
「ん?もういいの?」
「うん、お兄さんはもういい。」
「エッ。」
「茶色い髪のお兄さん肩車してー。」
「私がかい?いいよ、おいで唯愛ちゃん。」
そう言ってジェネ夏油の肩に移る。
あ、待って。この人もすごくジェネリックだ。
肩に装甲車乗ってんのかいってレベルで筋肉ゴリゴリ過ぎる。
高さはジェネ五条よりも4、5センチくらい低いのでどちらかと言えばジェネ夏油の方が怖くない。
そしてゴリラ並の筋肉のおかげですごく安定感がある。
まじで戦車乗ってるみたい。
よし、では邪魔者は解散するとしますか。
「ねーお兄さん、2人であっちのクラゲ見に行こ。」
「いいけど…ママさん私と唯愛ちゃん2人で行動しても大丈夫ですか?」
「えっ、大丈夫ですけど…寧ろいいんですか?唯愛の事任せちゃって。」
「もちろんです。私、こう見えてもちっちゃい子の面倒見るの好きなんですよ。それじゃあ私らは向こうのクラゲコーナーを見に行くから何かあったら君のスマホに連絡するね。」
「あーうんオッケー。迷子になるなよー。」
ジェネ夏油の肩に乗りながら人混みからでも目立つ2人に手を振り、クラゲの水槽の方に歩いて行った。
かくして、私は空気を読みこのジェネリック夏油と2人で水槽を周っているのだが、この人の保護者能力ハンパじゃない。
父親が居ない私ですらも彼の事を思わず「お父さん」と呼びそうになる。
いやまじでこいつもジェネリックどころの夏油じゃない。
確実にミミナナ育ててるやつだ。
「見てご覧唯愛ちゃん、このクラゲ虹色にキラキラ光っていて綺麗だよ。」
「私靴持ってるから歩きたくなったら言ってね。」
「大丈夫?疲れていないかい?あそこに自動販売機とベンチがあるから少し休憩しようか。唯愛ちゃんはなにが飲みたい?」
そう言われてファンタを示すと、ボタンを押し蓋まで開けてくれた。
いやまじでただのパパ。保護者能力高すぎる。
どうしよう、脳内に存在しない夏油パパの記憶が流れ込んでしまう。
白も白だし黒も黒になりそうだ。
「ねえお兄さんって結婚してるの?」
「はは、残念ながらしていないよ。」
「そうなの?なんか凄いパパみたいだったから。」
「えっ、あー、実は結婚はしていないけど身寄りがない子どもを引き取って育てているんだ。」
何その夏油傑設定。
CV櫻井氏ってだけでそこまで設定被るの?
いやでも確かにそれは子どもの相手するの上手いわけだ。
この2、30分で何度パパと呼んでしまいそうになったことか。
「ねーお兄さんの事パパって呼んでもいい?」
「えっ、いやあせっかくだけど遠慮しておこうかな。君のパパに怒られてしまいそうだし。」
「大丈夫、私のパパ、ママを孕ませるだけ孕ませてどっか行った巨乳好きのドブカスだから。」
「どこでそんな言葉覚えたんだい唯愛ちゃん。」
可愛い女の子がそんな言葉使ったらだめだよ!と優しく諭すジェネ夏油パパ。
いいなあ、別に前世で親の愛に飢えていた訳ではないけども、いざ父親が居ない環境で約7年過ごすと子どもの本能なのか父性を欲している。
だからこんなにも父性たっぷりなジェネ夏油には7年分の構ってパパが発動してしまうのだ。
父親の顔も名前も全く知らないが、今世の私は母親にはほとんど似ていない。
恐らく大部分を消えたクズな父親から受け継いじゃったんだろうな。
いやそんなドブカスの生き写しをここまで愛情注いで育ててくれたママ聖人君子過ぎるだろ。
ドブカスには何かしらの天罰が与えられていればいい。
ちんこ壊死したとか、精巣が捻転したとか。
主に下半身だな、その汚い遺伝子をこれ以上ばら蒔いて被害者が増えません様に。
「でも、もしかしたら君のパパも唯愛ちゃんとママから離れちゃったこと後悔しているかもよ。」
「えー絶対ありえないよ。」
「どうだろうね…。お、2人がイルカショー見に行くって。私達も合流しようか。」
「うん行く。…お兄さんまた肩車して。」
「もちろん、落ちないように掴まっててね。」
ジュースを飲み終え缶をゴミ箱に捨てると、またジェネ夏油の肩車で2人が待つイルカショーへと向かった。