パンッ!!
パンッ、パンッ!!
ガシャンッ!!
「ふぅ、全然ダメだ。頭がスッキリしない」
俺はいつも、悩み事があるとここでサンドバックを叩いている。何故か、空手の道場の敷地内にボクシングの練習場所まで作り出した父親を、頭がおかしいんじゃないかと思ったこともあった。しかし、今では親子でどっぷりとキックボクシングにハマっていた。
いつもなら、悩みも忘れて打ち込めるのに。今日に限っては、全く頭の霧は晴れず、胸のつかえも取れなかった。
集中出来てないな。
それにしても、アイツらなに覗いてんだよ。
香織はいつものことなので、あまり気にしていないが、今日は一匹増えていた。アイツら暇人かよ。
その後、しばらく視線を感じていたが、どうやら帰ったようだ。俺は、その後も雑念を振り払うように、一心不乱にサンドバックを打ち続けた。
しかし、その日、俺の気持ちが晴れることはなかった。
ーーーーーーーーーー
「ハルくん、今日はコンビニ寄ってから学校行くよ!」
「昼飯買うのか?」
どうやら見当違いだったようで、香織は人差し指を前に出し、チッチッチッと左右にふる。
「違うよハルくん。今日はなんと、雑誌の発売日だよ!」
「あぁ、そういえばそうだった」
「思い出したかね、国宝級イケメンくんよ」
では、行くぞー!!
そう言って、コンビニへと向かった香織は、雑誌コーナーである人物を発見した。
「あっ、綾乃ちゃん。おはよう!」
「おはよう香織、晴翔」
「おはよう、綾乃」
とりあえず、俺はざわつく気持ちに蓋をして、いつも通り接することに決めた。きっと、時間が解決してくれることもあるだろう。
「綾乃ちゃんは、朝からどうしたの?」
「私はこれ」
綾乃は雑誌を一冊手に取ってみせた。
あ、俺が載ってる雑誌だ。
「綾乃ちゃん、情報が早いねー。さすが、ハルくん親衛隊」
「まぁ、晴翔が昨日SNSに投稿してたから」
「恵美さんから、宣伝頼まれたからさ。必ず顔と雑誌を一緒に
写真撮って載せるようにって」
・・・。
「お、おい、どうしたんだよ二人とも。顔怖いぞ」
何故か突然、静寂が訪れ香織と綾乃からすごい圧を感じる。俺は何かしてしまったのか??
「ハルくんや、恵美さんとは誰かしら?」
「そうそう、誰なんだ?」
さっさと言えとばかりに、二人は迫ってくる。
「えっと、安藤さんのことだよ。昨日電話あってさ、苗字で呼ばれるのが好きじゃないって言うから、恵美さんって呼ばせてもらってて」
「あの泥棒猫め」
「私がやっとたどり着いたポジションにこうもあっさりと」
「「躾が必要ね」」
ガシッとお互いの手を取り合う二人。
本当に意気投合してるな。
実は、次回の撮影日が決まったため、二人に教えようと思ったのだが、恵美さんに失礼なことをしたら申し訳ないからな。今回は黙っておくか。
関係者以外を職場に、連れてこられても、恵美さんも困るだろう。うん、一人で行こう。俺はそう決心した。
そんな時、香織があるものに気が付いた。
「綾乃ちゃん、その鞄のキーホルダーって、巷で話題の『ぶさ猫さん』だよね?」
「う、うん。晴翔がくれたんだ」
「ほぅ、ハルくんのことだから、詳しくは知らないんだろうけど、グッジョブだよ!」
「そ、そうか?ならよかったよ、ハハハ」
理由がわからないため、笑って誤魔化す。
そういえば、香織はもうつけてないんだな。
「香織もつけてたよな?ぶさ猫さん」
「うん、もうお役御免さ」
「私のぶさ猫さんはいつ旅立つんだ?」
チラッ。
「それは、ねぇ?」
チラッ。
「なんだよ、ぶさ猫さんは旅立つ物なのか?」
「「鈍ちんめ」」
はぁぁぁぁ、と2人は大きなため息を吐いた。
いやいや、ため息吐きたいのはこっちだからね。
「とりあえず、学校行こう。そろそろいい時間だ」
「それもそうだね、綾乃ちゃんも一緒に行こー」
「うん」
俺達は三人で学校へ向かった。
学校へ向かいながら、中間テストの話になると、香織はいつも通り俺と勉強すると言っていた。その流れで綾乃も一緒に勉強することになった為、放課後図書室で行うことになった。
さらに、俺と香織の通学途中に綾乃の家があるらしく、登下校は一緒にということになった。
俺としては構わないが、美少女二人と登下校なんてしてたら、男子から何言われるか。はぁ、考えただけでため息が出る。これは身体に悪いと思い、俺は深く考えないことにした。
ーーーーーーーーー
私は晴翔と香織と別れ、自分のクラスへと向かった。どうせなら二人と同じクラスがよかったなぁ。
そうすれば、晴翔ともっと一緒に居られるのに。そうだ、お昼はお弁当持って隣のクラスに行こう。
そうすれば、授業以外は一緒にいれる。
私は考えただけで、自然と笑みが溢れた。
『おい、大塚さんが笑ってるぞ!?」
『珍しい、あのクールな大塚さんが』
『何かあったのかな!?』
なんだかクラスがうるさかったが、特に気にならなかった。私、あんまり友達居ないから関係ないし。
このまま本でも読んで時間を潰そうとしたが、クラスの女子につかまってしまった。
「ねぇ、ねぇ、大塚さん。それ『ぶさ猫さん』だよね!」
「それつけてるってことは、あれだよね!?」
「う、うん、まぁそうだね」
「「「きゃぁぁぁぁ」」」
「「「嘘だぁぁぁぁ」」」
女子からは黄色い悲鳴が、男子からは絶望の叫びが聞こえてきた。巷で有名な『ぶさ猫さん』。このストラップは、意中の男子と結ばれるという縁起のいい物として、女子中高生の間で噂になっていた。
そんなキーホルダーを、綾乃がつけているということは、好きな男子が居ると言うことだ。それを確認すると、恋バナ好きな女子達は盛り上がり、男子達は絶望した。
「くそー!!西城さんだけでなく、大塚さんまで誰かのものに!?」
「い、いや、まて!ということは、町田とは付き合ってないってことか!?」
「そうか、お前天才だな!!」
「俺達にもまだチャンスはあるぞ!」
「「「「おぉぉぉ!!!」」」
勝手に盛り上がる男子をよそに、綾乃はもうお昼のことで頭がいっぱいになっていた。
ーーーーーーーーーー
教室に入ると、私とハルくんは基本ベッタリはしていない。何故ならば、教室ならどこにいても目が届く位置にいるし、誰もハルくんに近づかないからだ。
中学までは、何人か友達が居たみたいだが、高校ではバラバラになったらしい。今のハルくんに話しかけるのは、町田とか勘違い野郎どもくらいだ。
さて、私はこの時間に国宝級ハルくんを堪能しようじゃないか。私は鞄から例の雑誌を取り出すと、机に置いた。
すると、周りの女子達が一斉に反応した。
「あっ、それ、私も買ったんだー」
「うそ、私も買ったー」
他にも数名名乗りを挙げた。
どうやらみんな、ハルくんのツイッターをフォローしているようで、朝から買ってきたようだ。
最早、女子高生バイブル。
さすが私の彼氏。にゃはぁぁぁ、自分で言っててむず痒い。
彼氏だって。やだ、ニヤけちゃう。
私は頬を両手で挟んで、悶えていたが、その空気を一瞬で壊す奴らが現れた。
「お、西城さん、買ってくれたの?その雑誌。嬉しいなぁ、俺の載ってる雑誌買ってくれるなんて」
そう言って、意気揚々と町田が近づいてくる。
そして、今日はその取り巻きの男子達も一緒だった。
「流石だな、慎也」
「西城さんが気にかけるなんて、やっぱり流石だぜ」
この二人は・・・。
そうだ、佐々木健二ささき けんじと成田優希なりた ゆうきだ。朝から面倒くさいのに捕まったなぁ。
そういえば、町田もモデルの仕事をしてるとか、してないとか、噂で聞いたかも。一緒の雑誌に載ってるなんて最悪。
「俺はどの辺だったかな?ちょっと貸して?」
そう言って、町田が手を伸ばしてくるが、私は華麗に避けた。なぜ私のお宝本を他人に触らせなければならないのか。意味がわからない。私はニコニコしたまま、雑誌を抱え込んだ。
それを見て何を勘違いしたのか、テンションが上がる町田。そして、自分の鞄から雑誌を取り出して、私達に見せてきた。
てか、自分で持ってるなら最初から出しなさいよ。
私は渋々雑誌を覗き込むと、10人くらいが1ページに載っている中の端っこに小さく町田が載っていた。
自慢げに見せてくる町田の姿が面白くて、つい吹き出しそうになったが、私は自分の彼氏を自慢してやることにした。
「本当だ、町田くんも載ってたんだね」
「そうだろ。ん?俺も?」
私はハルくんが載っているページをみんなに見せた。なんとハルくんは、4ページにわたって特集が組まれているのだ。どやぁ。
「これ、私の彼氏」
「・・・は?」
町田はどうやらまだ知らなかったらしい。
変な声を出して、固まっている。
しかし、女子達はちゃんとSNSでチェックしていたのか、私の彼氏だとちゃんと認識していた。
「本当に格好いいよね、西城さんの彼氏!!」
「私達も、彼氏さん目当てで買ったんだぁ」
「どこで知り合ったの?こんなイケメン」
女子だけで盛り上がっていると、いつの間にか町田とその取り巻き達は居なくなっていた。
ふふふ、ハルくんに畏れ慄くがいいわ。
その後もハルくんの話題で盛り上がり、もう私のご機嫌は最高潮で、しばらくの間クラスメイトに、だらしない顔を見せてしまったが、機嫌が良いので今日はよしとした。
ハルくん、さいこー!!
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