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キーン、コーン、カーン、コーン。
午前中の授業の終わりを知らせるチャイムが響く。高校生達が待ちに待つ、お昼休み。
いつもは香織と2人で食べていたが、今日から綾乃も入れた3人で食べることになった。
俺と香織は食堂へ移動すると、食券を購入し列に並ぶ。俺は食堂を利用するときは、必ず唐揚げ定食だ。
俺の大好物、鳥の唐揚げ。
朝昼晩、3食唐揚げでも全然いけると思う。
俺は、食堂のおばちゃんから定食を受け取ると、空いている席を探す。えーっと、確か先にいるっていってたけど。
辺りを見渡すと、こちらに向かって手を振っている綾乃の姿を見つけた。良かった、見つかって。
「席取っといたよー」
「ありがとう、綾乃」
俺が席に座ると、程なくして香織もやってきた。
「綾乃ちゃん、助かったよー」
「いいえ、私も今度食堂でなんか頼もうかな?」
綾乃はいつもお弁当を持参しているらしい。
俺と香織は、食堂で食べるか、コンビニで買ってきてしまうので、手作りは実に魅力的だった。
「お弁当は綾乃が作ってるの?」
「そうだよ?両親朝早いんだ。起きたらもういないから、自分のことは自分でやらないと」
「ほへぇ、綾乃ちゃん女子力、いや主婦力高すぎ」
「そんなことないよ。香織は料理は?」
何気ない綾乃の問いかけに、この場が凍りついた。なんてことを聞いてしまったんだ、綾乃!!
容姿端麗、文武両道の香織の唯一と言っても過言ではない、弱点。それが料理だ。
これはまだ、中学生の頃の話。
『ハルくん、今日はお母さん居ないから、私がご飯作ってあげるからね!』
『うん、ありがとう!』
遠目に見ると、凄く手際の良いように見える。この時の俺は凄く期待していた。中学生が作るものだから、卵焼きとかウインナーを焼いたとか、そんな程度でも十分だと思っていたから。
『はいどうぞ、目玉焼きとタコさんウインナーだよ!』
そう言って、目の前に現れたのは、真っ黒な物体エックスだった。真っ黒な円盤、きっとこれが目玉焼き。じゃあこの、まっくろくろすけが、タコさんウインナーか。
俺は意を決して、タコさんウインナーを箸で持ち上げると、サラサラっと、黒い霧のように崩れていき、俺の箸にはもう何もなかった。
そんな出来事があって以来、香織は料理を作らなくなった。
「き、聞いちゃまずかったか?」
「えっと、そうだ!今日の勉強会は何をしようか!」
俺は無理やり話題を変えた。なんとなく察してくれたのだろう、綾乃も勉強会の話にシフトしてくれた。
「そ、そうだなぁ、私は文系が苦手なんだよ。だから現国と英語あたりを教えて欲しい」
「なるほど、じゃあ今日はその辺をやろうか」
「いいねー、賛成ー」
お、香織が帰ってきた。
もう気にしてないようだが、料理の話はしないように、後で綾乃にはちゃんと言っておこう。
ーーーーーーーーーー
俺達は、荷物を持って図書室へと向かっていた。
「へぇ、私図書室初めてだ」
「そうなんだ、私達は何度か使ってるよね」
「あぁ、思ったより人が来なくていいよな」
ガラガラガラ。
図書室に入ると、今日は誰も居なかった。
当校の図書室は、図書委員などはおらず、貸出の際は、自分でパソコンを操作して行う。
このパソコンからリクエストなども全部できるので、結構便利である。
俺達は、一番奥の窓際のテーブルを確保した。このテーブルは4人掛けなので、3人でやるならちょうどいい。
座席は俺の隣に香織、俺の前に綾乃が座った。
俺達は早速教科書とノート、それから授業で配られたプリントなどを取り出し、テスト対策を始めた。
まずは、テスト範囲の確認を3人で行い、その範囲の問題を片っ端から解いていく。
俺、香織、綾乃の3人は、全員成績優秀者のため、解けない問題は少なく、質問されることも少なかった。
ほぼ自習してるだけに近いが、自宅で1人より誘惑は少なく、より短時間で効率の良い勉強が出来ていた。
「晴翔、この英文なんだけど、なんでこう訳すの?」
「あぁ、これは前後の文章をちゃんと理解出来てないと上手く日本語で訳せないかも。前の文章から解釈が間違ってるね」
「あ、本当だ。なるほどね」
綾乃は本当に理解が早い。この感じなら、今回のテストは期待できるんじゃないかな。
「ハルくん、ハルくん。私も教えてー」
「えっと、香織はまず文法が間違ってるな。この文章の時、この単語はそのまま訳せないんだ」
「ほうほう、なんとなく理解した」
「なんとなくじゃダメだよ。今度はこの問題やってみな?さっきの類似問題だから」
「はーい」
俺達の勉強会は邪魔が入ることもなく、順調に進んでいった。テストまでの一週間、俺達3人は毎日図書室で勉強会を行っていた。
その甲斐あってか、俺達は今までで一番、テストに手応えを感じていた。
今回のテストから、廊下の掲示板にテストの順位が貼り出されることになるので、俺達以外の生徒もみんな必死である。
少しでも、上の順位を取れるよう頑張ったようで、今までで一番平均点が高かったらしい。成績を張り出して、競争心を煽った先生達の思惑通りと言ったところだろうか。
ーーーーーーーーーー
テスト週間が終わった翌週の月曜日。
ついに、結果が掲示板に貼り出された。
結果は、俺が1位、香織が2位、綾乃が5位だった。
トップ10以内はほとんど、点数に差はなく、誰が1位になってもおかしくない点数だった。
俺達3人は、今回の結果に凄く満足していたし、納得していたが、全然納得出来ない生徒も中にはいた。
そう、俺達のクラスの町田だ。
「おい、陰キャ野郎。西城さんが俺より上なのは納得だが、なんでお前が学年1位なんだよ!!」
町田はいつも、「俺が学年1位だ」と一年の頃からずっとみんなに言っていた。それが蓋を開ければ3位。余程プライドが傷ついたのだろう。言いがかりをつけてくる。
「どうせカンニングでもしたんだろう!?」
その一言に、周りもそんな雰囲気に包まれていた。
「そうだよな、俺があんな奴に負けるかよ」
「カンニングとか最低」
「そこまでして、良いところ見せたかったのかよ」
言われ放題の俺だったが、別に何も思わないのでどうでも良かったのだが、俺の両隣は今にも爆発寸前だった。
「香織、綾乃、大丈夫だから、な?」
周りには聞こえないように、2人を宥める。
しかし、未だに町田とその他生徒達を、呪い殺そうかと、言わんばかりに睨みつける2人。もう、どうすればいいんだよ。
ちょっと泣きたくなってきたが、そんな時、救世主が現れた。
「何をそんなに騒いでいるの?」
俺達の担任、田沢先生が現れた。田沢先生ならこの状況をうまく収めてくれるだろう。
「先生、この陰キャ野郎がカンニングしたんです!」
ニヤニヤしながらそう言い放つ町田。
そして、背後で「そうだ、そうだ!」と煽るクラスメイト達。
そんな光景を目にして、田沢先生は額に手を当て、深い溜息をついた。
「はぁ、そんなことで揉めていたの?齋藤君のカンニングはあり得ないわ」
「な、何故言い切れるんです!?」
思った反応が返って来なかったため、焦りを見せる生徒たち。必ず先生も賛同してくれると思っていた。
「齋藤君は入学試験も歴代トップの成績で入学しているし、その後のテストも、中間、期末、実力テスト全て一位を獲得しているの。そんな生徒がなんで今更カンニングをするの?」
先生から俺の成績を聞かされた生徒達は、ポカンと口をあけ、唖然としていた。
そして、そんな生徒達を尻目に、田沢先生が微笑みながら俺の方へ手を伸ばした。
すると、ガバッと抱き寄せられ、頭を撫でられた。
「よしよし、齋藤君は偉いわねぇ。これはご褒美よ?」
俺を含め、状況を理解できる者はおらず、ただただ静寂の時間が流れた。しばらく頭を撫でたあと、満足したのか俺を解放する先生。
「これはご褒美だからね。みんなも一位になったらご褒美あげるわよ?」
それじゃあねー。
そういって、颯爽と帰っていった。
・・・。
「「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」」」」」」
この日最大の叫び声が、学校中に響き渡った。