グラウンド・グリムの巨体が、軋む音を立てながらゆっくりとこちらに振り返った。
その足元には、レースの出場者たちの残骸――砕けた車体と炎上するパーツの山。
彼は操縦席で拍手でも待つように両腕を広げ、芝居がかった声で言いかける。
「いやぁ、実に――」
その声を掻き消すように、レナはトリガーを引き絞る。
荷電粒子砲が嵐のように連続射出される。
ズガァァァァァンッ!!ズガァァァァァンッ!!ズガァァァァァンッ!!
「ちょっ――!」
ギデオンは一瞬、目を丸くした。
ドガァァァァァン――!!ドガァァァァァン――!!
スタジアムが光で塗りつぶされ、
爆発の連鎖がグラウンド・グリムを飲み込んだ。コンクリートが割れ、観客席が震える。
粉塵が立ちこめ、視界のすべてが灰色に沈む。
「気に障んだよ、あんたの喋りは。」
その言葉に、ボリスとカイが同時に肩をすくめる。
「……おいレナ、もうちょい加減ってもんをだな……」
「いや、でも今のタイミングは……うん、怖ぇな。」
風が吹き抜け、粉塵のカーテンがゆっくりと剥がれていく。
「倒した……のか?」
カイが息を詰める。
ボリスは目を細め、煙の奥を睨む。
やがて――煙の幕が少しずつ剥がれていく。
そこに立っていたのは、傷一つついていない鋼鉄の大蛇。
焦げ跡すら、もう風に消されていた。
ギデオンが軽く首を傾げ、愉快そうに口を開く。
「話の途中だったのに、酷いじゃないか。」
「…今度はこっちの番だね。」
鋼鉄の大蛇が、うねる。
まるで大地そのものが生きているかのように、節が持ち上がり、金属の鱗が軋んだ。
巨体が砂煙を巻き上げながら迫る。
「来るぞ!」
カイがステアリングを切る。
ヴァルヘッドのタイヤが砂を蹴り、蛇行しながらスラロームで突進をかわす。
背後で、節の刃が地面を抉り取った。コンクリートが粉々に砕け、閃光が走る。
『回避――行くよっ!』
ラビの声と同時に、エリスが地面を蹴って空を舞った。
下を、蛇の節刃がすれ違いざまに薙ぐ。
「ミラ、あいつの関節の部分狙えるか!」
「……試してみます。」
スコープを覗き込むミラの声は冷静だった。
射角を計算し、蛇のうねりの周期を読む。
そして――
乾いた銃声。精密射撃が放たれ、弾丸が蛇の節と節の隙間に突き刺さる。
だが火花が散り、弾丸は弾かれた。
「……無効です。装甲、関節まで一体構造。」
ミラが息を呑む。
ボリスが舌打ちした。
「クソ、あの野郎、あれは“地殻装甲”だ――地上のあらゆる砲撃を想定して設計されてる。」
砂煙の奥で、鋼の大蛇がまた身をくねらせる。
ギデオンの声が、どこからともなく響いた。
「ほらほら、どんどん行くよ。」
グラウンド・グリムは、身をくねらせながらゆっくりと回転を始めた。
金属が擦れ合う不気味な音が響き、節ごとに埋め込まれた推進ローターが赤熱を帯びる。
「また潜る気か――!?」
カイが叫ぶ間もなく、
巨体は螺旋を描いて地面に突き立ち、地中へと吸い込まれていった。
轟音とともに、地面が波打つ。
砂と破片が跳ね上がり、コンクリートの地盤がうねるように盛り上がる。
地中を走るその巨体の動きが、まるで大地そのものを脈動させていた。
「真下だ!来るぞ――」
ボリスの警告と同時に、
地表が裂けた。
次の瞬間――
地中から、連なった節刃が嵐のように飛び出した。
螺旋の勢いを保ったまま、地を切り裂き、空気を焼き焦がす。
地面を薙ぎ払うたびに、破片が弾丸のように周囲へ飛び散った。
ヴァルヘッドはギリギリでその軌道を外れ、砂煙の中をスラロームで駆け抜ける。
しかし――別方向からの節刃が予想外の弧を描き、ヴァルヘッドの右舷側面へと迫った。
「っ、間に合わねぇ!」
カイが叫ぶ。
だがその瞬間――
「どっせーいっ!!」
エリスが横滑りするようにグラウンド・グリムの節刃を蹴りつけた。
鈍い金属音とともに、火花が散る。
その衝撃により刃の軌道がヴァルヘッドをギリギリで外れる。
「……助かったぜ、ラビ!」
「間一髪、成功だけどよ!でももう一回は無理だぜ!」
背後で節刃が地面を貫き、瓦礫が雨のように降り注ぐ。
再度レナの荷電粒子砲が唸りを上げ、光の奔流が蛇の胴体を撃ち抜く。
空間が歪み、爆風が巻き起こった。
グラウンド・グリムの巨体が一瞬のけぞり、節の連結がきしんだ。
だが、その金属の鱗は焦げることなく、すぐに体勢を戻す。
「うそ……最大出力だったのに……!?」
レナが驚嘆の声を上げる。
ギデオンの声が、笑うように響く。
「この装甲はね――どんな熱でも、圧でも、壊れないんだよ。」
グラウンド・グリムが再び地を抉りながら迫る。
今度はとぐろを巻くように、螺旋状に回転しながら接近。
その回転の輪がどんどん狭まり、中心にいるヴァルヘッドとエリスを囲い込んでいく。
「囲まれてる……!?」
「逃げ道が――ねえぞこれ!」
巨大な金属の渦が地上で形成されていく。
カイは歯を食いしばるが、この状況を打開できるかもしれないアイディアを思いついた。
「一か八か……やるしかねぇ!」
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