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「分かった、帰りますよ。それじゃあ円香ちゃん、コーヒーご馳走様でした」
「いえ……」
伊織が不機嫌なのを察した雷斗はそそくさと立ち上がると、円香に声を掛けて玄関へ向かって行く。
伊織はその場を動かずノートPCを広げて何やら調べ物を始めたので、円香は一人で玄関まで行き雷斗を見送った。
部屋を出てマンションの廊下を歩く雷斗は思う。
(何だよ、伊織の奴。話と違うじゃねぇか)
伊織の話では円香と付き合っているのはあくまでも駒として使う為、雪城家が情報収集に役立つかもしれないという事。
けれど、伊織の円香に対する態度を間近で見た雷斗の見解は全く違うものだった。
(つーか、円香ちゃんみたいな女を彼女に選ぶとか、正直びっくりだな……。これまでの女と真逆じゃんか)
これまで伊織が駒として付き合っていた女は大抵男遊びが激しそうな女や水商売関係の女ばかりで、男慣れしているかプライドの高い女が殆ど。
それが今回は円香のような男慣れも恋愛慣れもしていない、真面目で一途そうなタイプは伊織が一番避ける女だと思っていただけに、雷斗は酷く驚いていた。
(それに伊織のアレ、無自覚なのか? 彼女との時間を邪魔されて不機嫌って顔に書いてあったし……)
二人の今後が少しだけ気になった雷斗は定期的に探りを入れようと心に決め、エレベーターで下の階まで降りていった。
時同じく、雷斗の見送りを済ませた円香はというと、無言でPCに向かう伊織の邪魔をしないようカップを片付けてからソファーに腰掛けたけれど、
(……何だか、伊織さん少し不機嫌そう……)
少し重苦しい空気が漂う室内に居心地の悪さを感じた円香は立ち上がり、
「あの、伊織さん……先にシャワーを使ってもいいですか?」
寝る支度を整えてしまおうと考えた円香は控えめに声を掛ける。
「ああ、構わねぇよ」
「それじゃあお先に使わせて貰います」
伊織の了承を得た円香は持って来たバッグから下着類を取り出すと、一人風呂場へと向かって脱衣場に入り扉を閉めた。
(する事なくてお風呂を選んじゃったけど、どうしよう、色々と心の準備が……)
この後の事を思うと急に恥ずかしさが込み上げ、心がザワつく中でそれを静めようと無心でシャワーを浴び、そして、
(……この下着……やっぱり変かな? 気合い入ってるみたい? 私には似合ってないような……)
勝負下着……という訳ではないが、お泊まりと言えばやはり下着には気をつけた方がいいというネットの情報に踊らされた円香は新しい下着を身に付けながら、不安な気持ちでいっぱいになっていた。
円香が今付けている下着はショーツがハーフバックショーツと呼ばれる物。
Tバックとプレーンショーツの中間、お尻を覆う布面積が少し少なく、更にはレース地なので若干透けて見えるところと、何よりもサイドが紐タイプになっているので、解かれたらすぐに脱げてしまうところがポイントなのだろう。
そしてブラジャーはフロントホックタイプという事もあって、元々大きめのバストがより強調されているせいか更に大きく見えている。
何よりもセクシーよりキュートな下着を選びそうな円香が黒いセクシーな下着を身に付けていると言うところが一番重要な事なのかもしれない。
(……黒い下着なんて初めて着たけど……何だか変な感じ……それに、このショーツ、サイドが紐っていうのも落ち着かない……)
いつも淡い色の下着しか身に付けない円香自身も、初挑戦した黒い下着や紐タイプのショーツに慣れず、一人そわそわしていた。