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十二月十九日。


帰省のための荷物を持ったまま鞍馬と合流した私は、鞍馬の車の後部座席に荷物とコートを置いて助手席に乗り込んだ。


ぎりぎりまで京之介くんが私の家にいたため家に迎えに来させるのはさすがにまずいということで京都駅の八条口に来させたが、鞍馬は四十分ほど遅れて来た。


車が混んでたとか言ってるが、多分女の家にいたんだろうなという予想はつく。


寒い中待たされるのが嫌いな私は正直イライラしたけれど、乗せていってもらう身なので文句は言わないでおいた。



「こうやってちゃんとデートするの久しぶりじゃない?夏ぶり?」



言われてみれば、いつもホテルにしか行っていないのでどこかへ出掛けるのはあの花火大会以来だ。


セックスフレンドの模範みたいな関係性だなと思った。



赤信号になると鞍馬は私のニットワンピースの裾を捲くりあげ、ライトブラウンのストッキングの上から私の太腿に手を置く。



「またこんなん履いてきたの?破きたいんだけど」

「ストッキング高いからダメ」



短く断ると、鞍馬が「じゃあこれ入れてよ」と笑って座席の後ろにかかった荷物入れの中から大人の玩具を出してくるから素で驚いた。


車になんてものを乗せているのか。何が“じゃあ”なのか。


遠隔操作型のそれをおそるおそる受け取ると同時に青信号になり車が走り出す。


こんなものエロ同人誌でしか見たことがない、とまじまじ見てしまった。



「前から思ってたけどあんたってなんか……」

「うん?」

「ちょっとノーマル性癖から外れてるよね」



こんなことをいつも女としている男が日々同じキャンパス内のどっかの講義室で真面目に授業を受けているなんて信じられない。



「俺はただヤリチンなんじゃなくて、性的探究心が強いんだよ」

「真顔でそんなこと言われましても」

「女の子と色んなことして遊びたいの。普通のセックスばっかじゃなくてね」



車が近くのコンビニの駐車場に止まり、「煙草買ってきていい?」と鞍馬が聞いてくる。



「いいよ、待ってる」と特に欲しいものもないので返事すると、鞍馬がじっと私の手元を見てくる。


私の手の中にはどう触れていいか分からない物体があった。



「入れられないの?仕方ないな、俺が入れてあげる」

「え、」

「足開いて、ストッキングおろして」



その目付きと声のトーンで、鞍馬のスイッチがもう入っているのが分かった。


逆らっちゃいけないやつだこれ、と感じて大人しく受け入れた。



結果として嵐山付近の有料駐車場に着くまでに二回達した私は、暗くなるまで車内で鞍馬のものを存分に舐めさせられた後で、いい時間帯にもなったので動き始めることになった。



「お散歩しよっか、瑚都」



あんたライトアップが見たかったんじゃなくて、こういうプレイがしたかっただけでしょう。


そんな文句すら直接言えないくらいには思考がドロドロに溶けだしていた。




さすが観光イベントなだけあって、比較的早い時間帯だというのに人がごった返している。


私と手を繋いでその手を自分のコートのポケットに入れたまま橋を渡る鞍馬がもう片方の手で何気なくスマホを操作し、途中で「うわっめんどくさ」と呟いた。



「どうしたの」

「彼女の友達が今来てるっぽい。人こんだけいるしバレないとは思うけど。でも俺目立つからなー……」



鞍馬が表示しているのはインスタのストーリーで、“綺麗~!”なんて言葉と共に嵐山の写真があげられている。



「大丈夫なの?帰る?」

「いや、いいや。バレたらその時だし。なんか言われたら開き直るわ」

「……最低」

「それ瑚都が言うの?俺の手離す気ないくせに」



鞍馬が意地悪くそう言って、私の中に入っている玩具のスイッチを入れた。スマホで遠隔操作できるなんて厄介だ。


鞍馬のポケットの中の手と私の手は、未だに繋がれたまま。



「この橋を今そんな状態で歩いてるの瑚都だけだろうね」



そりゃそうだろうよ、と心の中でツッコミを入れた。



ライトアップ自体は昼間来るのとはまた違う美しい景色なのに、それを何故こんな形で楽しむことになっているんだろう。




優しい光に包まれる嵐電の嵐山駅に着き、そこで軽く晩ご飯として唐揚げを食べた。


食べている時はさすがにスイッチを切ってくれた鞍馬は、「んま~」なんて年下であることを思い出せるような子供っぽい笑顔を見せた。


食べ終えた後ゴミ箱にゴミを捨て、いざ竹林という前に、ふと鞍馬が言う。



「あ、俺ちょっとトイレ行ってきていい?」

「う、うん」

「じゃあまた」



鞍馬が手を振ってトイレへ行くと同時に、私の中の玩具のスイッチを入れた。



「――……ッ」



突然刺激を与えられたまま人前で放置されて、すごく不安な気持ちになった。




……私は何をしているんだろう。


こんなこともうやめた方がいい。



大好きな京之介くんを裏切ってまで、鞍馬となんかもう会わない方がいい――――でも。






「俺の見てないとこでイっちゃったの?悪い子だね、他の男にその顔見せて」



子宮がこいつを求めてる。








「ぁっ……あ、あ、鞍馬、」

「今日めっちゃイクじゃん、どうしたの?」



特別拝観の時だけ拝観できるらしい庭園でスカートをたくし上げさせられて写真を撮られたり、夜景の見える展望台で玩具を動かしたまましつこいくらいキスをされたり、きっとその辺のカップルが絶対にやっていないようなことをしてから辿り着いた先は、結局はいつもと同じような場所だった。



「俺まだイってないよ?」

「……っ……ッ」

「先にイっちゃダメじゃない?もっと頑張ってよ」



もう声も出ない。目を瞑っているのに目が回るような感覚がする。イク時に足に力が入るせいで足がずっとガクガクしている。



川の奥底に溺れていくようだった。


水の中で藻掻くけれど、上に這い上がることはできない。





一通りやることをやってから一緒にお風呂に入って、お互いの体を洗いっこして、ローションを付けて遊んだ。



「ちゃんと流した?シャンプーはしっかり流した方がいいよ」なんて私の髪の洗い方にいちいち文句を付けてくるから面倒になって軽く蹴ったらその態度が気に入らなかったのか普通にぶちこまれた。


そんな流れでお風呂でもう何回戦目なのかも分からないセックスをした後、やたら髪の毛に詳しいのは美容師の女と付き合っていたからだと聞いた。



京之介くんとは日頃一緒にお風呂に入らない。


完全なるすっぴんを見られたくないからだけど、鞍馬相手だとすっぴんを見せるのに抵抗がなかった。


クレンジングしてどすっぴんのままお風呂から上がってドライヤーで髪を乾かす前に、鞍馬が「待って」と言って向こうからピンク色の容器を持ってくる。



「もうすぐクリスマスでしょ」



可愛らしい入れ物の中に入っているのは洗い流さないタイプのトリートメント。


しまった、クリスマスプレゼントなんて私は用意してない。



「それ俺が使ってるのと同じヤツ。」

「ふーん……ありがとう」



MILBON……知らないブランドだけどお洒落だし美意識も高そうな鞍馬が使っているトリートメントなら何だか無条件で信用できてしまう。


鏡の前で鞍馬にそのトリートメントを付けてもらいながら、お返しどうしよう……なんて悩んでいると、鞍馬が不意に聞いてきた。



「彼氏に何あげんの?」

「んー、それが決めてないんだよね。プレゼントは一緒に買いに行って決めるってタイプの人だから」

「俺の香水あげたら?」



その言葉に、しばらく絶句してしまった。



「…………あんた、何でそんな悪い考えできるの?」

「ん~?彼氏が俺の香水つけてたら瑚都は彼氏といる時も俺のこと思い出してくれるかなって」

「分かってるよ。それが悪い考えだって言ってるの」



色々と説教したかったが鞍馬がドライヤーのコードを差して私の髪を乾かし始めたので、私の声は鞍馬に届かなくなった。








結局二十日の朝までラブホでゆっくりした後、鞍馬にキスマークを付けられた状態で、電車で空港まで向かった。


昨夜遅くまで起きていた疲れからか飛行機の中では着くまでぐっすり眠ってしまった。


車で迎えに来てくれたお母さんに「どうしたの?それ」と首について聞かれて虫さされだのとベタな返しをしたが、おそらく誤魔化せてはいないだろう。



二人で空港内のレストランで食事をして、学校生活の話や今住んでいるマンションの話をした。


夏にコバエが出やすくて困っていると言うと生ゴミはさっさと捨てなさいとアドバイスされた。



家へ向かう車の中でいつまでこっちに居るのかと聞かれたので今年は年末年始をおじいちゃんの家で過ごすつもりであることを伝えると残念がられた。


そこでお母さんも京都へ来たらと提案すると、分かりやすく空気が変わり、お母さんが口を閉ざす。



やっぱりだめか、とある程度予想していた反応を受けて話題を変えようとした時、



「京都へはもう行かないわ。占い師さんが、私たち家族に関西の地は合ってないって言うんだもの」



お母さんが低い声のトーンでそう言った。


お母さんは昔は占いなんて信じる方ではなかった。お姉ちゃんの死がどれだけお母さんを追い詰めたのか分かる発言だ。



「……ただの占いじゃん。おじいちゃんたちもお母さんに会いたがってるよ」

「あの二人には、あの場所が合っているからいいの。でも、私たちには合っていないのよ。本音を言うならお母さん、瑚都には進学してほしくなかった。進学するにしてもこっちでしてほしかったわ」



それは、私が院試を受ける前からお母さんがオブラートに包みつつ何度も言ってきていたことだった。


私が実家を離れるのが寂しいから言っているのだと思っていたが、どうやら別の理由もあるようだ。



「あなたももう、大人だから言うけれど。凪津は事故で溺れたんじゃなくってね」



いつの間にか暗い夜道を雨が降っていた。


延々と前のワイパーが左右に揺れている。


車は車通りの多い大通りを外れ、私たちの家がある、少し田舎な住宅街へと向かう。






「自殺だったの、凪津は」


窓を打ち付ける雨音が

どんどん大きくなっていく気がした。






「……え?」

「自殺するような子でも、そんなタイミングでもなかったのよ。いつも明るくて元気で、そりゃあお母さんだってずっと傍で見ていたわけじゃないけれど、話を聞く限りでは学生生活も楽しそうだったし、結婚を約束している相手だっていた。高校時代からの恋人で良い会社への就職も決まってて二人とも大学を卒業したら結婚する予定だった。なのに凪津は何の前触れもなく――……あの夏京都で、自殺した」



頭が混乱して追いつかない。


だって私はずっと事故だって聞かされていた。


お姉ちゃんが何であんな時間に川に溺れて死んだのか、確かに不可解ではあったけど、家庭内ではお姉ちゃんの話がタブーになったからずっと聞けていなかった。



「待って、何でそんなこと言えるの?その占い師さんが言ったの?」



占い師が適当に言ったことを真に受けているんだと思ってそう聞くが、お母さんは静かに首を横に振った。



「凪津が遺書を残してたの。当時付き合っていたその男の子に宛てて。“ごめんなさい”って」



お母さんのハンドルを握る手に力が入ったのが分かった。







ごめんなさい


他の人との子を身籠りました


この子たちと一緒に死にます


本当にごめんなさい



って。





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