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「ねぇ……」
「なに?」
もう一度時雨に声をかけた。やはり彼に慌てた様子はなく、この状況の異様さを全く気に留めていない。
時雨に馬乗りになられたままなので、必然的に下から見上げるような態勢になってしまう。薄暗い室内に目が慣れてきたのか、先ほどよりも彼の表情が鮮明に分かるようになった。
相変わらず時雨は笑っている。その笑顔に嫌味や嘲りのようなものは感じられない。楽しそうな……いや、どちらかといえば嬉しそう?
変わった人であると常々思っていたけど、今回ばかりはライン越えではないだろうか。悪意は無く、ただのイタズラだったとしてもタチが悪い。
「時雨さん。俺めちゃくちゃびっくりしたし、寝てる人に対して酷いんじゃないかな。イタズラだとしてもやり過ぎだよ」
「イタズラ? 透が怒ってる……どうして?」
時雨は首を傾げた。その後、視線は斜め上に向かい、思考を巡らせている様子。俺……そんなに悩ませるような事を言っただろうか。
「……僕の中では随分前から確定事項だったから当然の流れだと思っていた。そうか、そうだよね。説明をしてないんだから、透は驚くし……怒るのも仕方ないんだ」
今度はひとりでぶつぶつと喋りだした。一応俺の言いたいことは伝わっているみたいで、時雨はゆっくりとベッドから降りた。
拘束されていたともいえる体勢から解放され、俺の口からは安堵の溜息が溢れた。また同じような事をされるのを防ぐために、すぐさま上半身を起き上がらせる。
「透、ごめんね」
「分かってくれたならいいよ」
楽しそうだった彼の表情が一転する。自分よりも歳上の大人に対して思うには不適切かもしれないが、まるで叱られた犬みたいだった。
この行動にも彼なりの理由があって、ちゃんと謝ってくれた。それならばこれ以上責める必要はない。
「それで、時雨さんはこんな真夜中に何をしようとしてたの?」
「うん……透に僕が契約してる幻獣をあげようと思ったんだ。でも、手順がちょっと面倒くさくて……時間もかかるかもしれなくて……。透が寝てる間にやってしまえば負担にならないだろうって……」
「……なんて?」
さらっととんでもない事言ってないか……この人。言われた内容の突拍子のなさから聞き間違いではないかと疑ってしまう。半裸で馬乗りになられた事さえどうでもよくなってしまうくらいの衝撃を受けた。
「もっと丁寧に段階を踏んでやる予定だったんだけど、状況が変わってしまった。あいつら……本当にろくな事をしない。とにかく、試験までもうあまり時間がないから……」
「ちょっ、ちょっと待って!? 時雨さん。なんていうか支離滅裂過ぎて……。最初から……いや、もう俺が質問するからそれに答えてくれる?」
時雨の中では筋が通っていて、今の状況もなるべくしてなったものなのだろう。しかしだ。俺には知らない情報が多すぎて説明されてもついていけない。
以前俺の家でやったのと同じように、知りたいポイントをひとつひとつ確認して理解していった方がいくらかマシな気がした。俺の提案に時雨は頷いてくれた。
「えっと、まずは一番気になるとこなんだけどさ。俺に時雨さんの契約してるスティースをあげるというのはどういう意味かな。契約済みのスティースを他人に渡すなんて出来るの?」
「ごめん。これは僕の言い方が悪かった。あげるんじゃなくて共有と言った方が正しい」
「共有……同じスティースの力を使わせてくれるってことかな?」
「うん。二次試験では実際にスティースと契約して魔法を披露しなければならなくなるはず。君は僕の推薦であり青持ちだ。今回の試験で誰よりも期待されるのと同時に粗探しもされる。だから、高ランクのスティースを余裕で使いこなして、意地の悪い試験官たちの度肝を抜いてやろう!!」
「度肝って……時雨さんのスティースを借りたらズルになっちゃうんじゃないの?」
「ならない。魔道士の間でスティースの貸し借りをするのはたまにだけどある事だよ。試験の期間だけ自分のスティースを弟子に使わせる推薦人もいるし、そこは気にしなくていい。スティースの持つ能力をどれだけ完璧に近い状態で引き出せるか……大事なのはそこだよ」
契約をしているのは時雨でも実際に力を貸すかどうかを最終的に判断するのはスティースなのだ。時雨の契約してるスティースなんて絶対凄そうなヤツじゃん。成功すれば確かに試験の評価は高そうだけど、逆に失敗したら目も当てられない諸刃の剣ではないか。
俺のクラスがブルーとはいえ、経験と技術は初心者以下だ。自分の身の丈にあったスティースと契約して無難に乗り切る方が確実ではないだろうか。
「時雨さん……気持ちは有り難いんだけど、俺にランクの高いスティースなんて手に負えないよ。契約を結ぶならもっとこう、初心者向けの優しい感じのヤツにして欲しいな」
「……透。君は自分を過小評価し過ぎだよ。この僕がこんなにも透のポテンシャルに期待しているというのに……」
「いや、でもなぁ……」
「でもじゃない。やる前から諦めないの」
自信の無い俺の態度が気に入らなかったようで、時雨は頬を膨らませた。時雨は料理の事といい、俺に対しての評価が甘い。だからあまり間に受けてはいけないと予防線を張ってしまう。
「はいはい。それじゃ、次の質問ね。時雨さんのやりたい事は分かった。でもそれと、半裸で俺にのし掛かったのはどういう関係があるのかな?」
この話をしている最中もずっと時雨が半裸状態のままなので気になって仕方ないのだ。