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けほっ、けほっ


自身の耳障りな濁った咳が病室に響き渡る。

咳をする度に軽く頭痛がする。つい最近まで腕に点滴を刺され、食事だってままならなかった。全く困ったものだ。


どうしてここまで弱くなってしまったのだろう____





俺の名は爆豪勝己。前世でプロヒーローを職業にしていた。

突然“前世“など言われてもよく分からないと思うが、前世は前世なのだ。それに、自分でもまだよく分かっていないのだ。


職業柄、身の危険はいつも側にあった。ヴィランに殺られるのは全く持って不本意だったが、守りたい命も守れたことだしそこは良しとしよう。もっともっとヒーローとして活躍して大勢のヴィランに勝って人命を助けたかった節もあるが。


それはそれとして、俺でもよく分かってないとのことだったが、それもそのはず。ヴィランに殺されたと思った直後、赤ん坊としてこの世に生を受けていたのだ。


おぎゃーおぎゃーとやけにうるさく聞こえる泣き声が、己から発せられていると気付いた時は驚いた。まさか自分が“転生“とやらをするとは思ってもみなかった。

非科学的なことは嫌いだが、こればっかりは理屈を説明しようが無い。出来たとしても“個性“が原因だというこじつけのみだ。


そういえば、もう一つ驚いたことがある。


「勝己。」


そう、少し前に病室に入ってきたと思ったら、ベッドの横に居座っている金髪の妙に凝った髪型の男。

前世でプロヒーローをしていたベストジーニストこと袴田維だ。もちろん今世でもプロヒーローとしての仕事を全うしている。前世今世共に俺の尊敬する人だ。


そんな彼だが、今世では俺の父親にあたる立場にいるのだ。


厳密にいうと父親ではなくて義父の立場にあたる。

実は俺の本当の両親は俺が幼い頃に事故で亡くなっている。ヴィランが関わっていたらしいが、よくは知らない。

もし関わっていたとしたらすぐにでも張り倒してやりたいが、こんな体では無理だ。


そんなことがあって孤児になった俺を引き取ってくれたのが、維だった。

初めは驚いた。物凄く驚いた。でも、どこか胸の辺りが暖かくなる様な感覚もあった。

一緒にいる時間が増えれば増えるほど違和感薄れていき、胸の温かさが増大するばかりだった。


ちなみにだが、俺は彼を“維“と呼んでいる。

毎度、毎度『パパと呼べ!』とか色々うるさいが、癪なので希望通りの呼び方はしてやらない。

それもそれで『維もい゛い゛!!』というのだから若干引いてしまう。


どんなとこでポジティブ発揮してんだ、馬鹿。




「調子はどうなんだい。」


目の前の馬鹿が話しかけてきた。

これでも父親なのだからきちんと俺の体を心配してくれる。やっぱり胸の辺りが暖かくなるので、『平気。』と返しておいた。


「そうか。良かった。」


目に見えてほっとしたのがわかる。全くお人好しなヤツだ。

それでも俺はこんなお人好しを好いている。なんでなのかよく分からない。もし俺の親父がエンデヴァーとかホークス、なんかだったら絶対に嫌だっただろう。先生に関しては前世生徒と教師という関係であった以上、言うまでもない。

この馬鹿だからこそ、俺は心を許せているのだ。少し癪だがな。


「でも辛い時はきちんと言いなさい。私は勝己が心配だ。お前は一人で溜め込む癖がある。それに「はいはい。分かったから。」・・・・・・本当か?」


少しは息子を信じろっての。耳にタコができるほど聞いたセリフを呆れながら遮る。

それでも維は心配そうな目で俺を見つめている。


はぁ、どこか過保護な彼に思わず太い息を漏らす。

そんな俺に維ぐはビクッと肩を揺らし、『本当に大丈夫なのか?』と問うてくる。全く心配性なヤツめ。


この小言さえなくなれば完璧な人なんだけどな。


完璧な人間なんていない。そう分かっていながら期待してしまう。

彼の一体どこがこれをこんな気持ちにさせているのだろうか。いくら考えても答えは思い浮かばない。










* * *


生まれ変わって俺の身の回りで変わったことは主に2つある。


まずは1つめ。俺の実の両親が事故死し、維が父親になったことだ。

これは数ヶ月前にも言ったと思う。初めはやっぱり違和感はあったものの、日を追うごとにその違和感は薄れていった。


そして2つめ。俺の体が前世と比べて弱くなったことだ。

ここ数年病院から出ていない。

今は年齢も二桁に上がり落ち着いてきているものの、熱を出しやすいのに変わりはないし、未だに喘息持ちだ。

アレルギーもいくつかあるし、冬なんて地獄だ。

とにかく俺は世で言う“病弱“の部類に入る人間になってしまったのだ。


どうして俺が、と恨み言を言っても変わることなど無い。

もちろん俺は今世でも勝って救けるヒーローになるつもりだ。ならないなんて有り得ない。

自分の身体は自分が一番分かっている。俺は自分の限界を理解し、その限界を越える。そうすれば自然と身体も元気になっていくと思う。もちろん節度を持ったトレーニングを心掛けるのは変わらないが。

なんでもかんでもがむしゃらにやればいい、なんてことを言っているヤツは馬鹿だからな。


そんなことを考えると病室のドアをノックする音が聞こえた。そして俺が返事をするまもなくドアが開き、維が入ってきた。

返事を聞く前にドアを開くのは意味ないだろ・・・と思ったが、声には出さずに胸の内に秘めておいた。


「勝己。大事な話がある。」

「大事な話・・・?」


ああ、と維が相槌を打つ。

大事な話とは一体なんだろうか。まさか新しい病気が見つかったとか?はたまた退院できるとか。


な訳ないか、と雑念を払う様に首を横に振る。最近は安定してきているものの、病院を出れたことは入院してから一度もない。そんなことあるはずもないのだ。余計な希望を抱くのはやめよう。


だが、そんな勝己の予想に反して、物事は順調に進んでいた。


「退院するぞ。」


は、と思わず口から漏れた声は泡の様に消えていった。


















『ここが勝己の新しい家だ。遠慮なく過ごすといい。』


そう言って連れてこられた家は思ったより広くて、それでもモダン基調でどことなくシンプルでとても綺麗だった。流石プロヒーローと言ったところか。給料が一般人とは格段に違う。


でもやっぱり病院から久しぶりに出れたこともあって違和感がとてつもない。この違和感もいつか消えるのだと分かっていても初めはやっぱり気持ち悪い。


病室と違って勉強机などの私物があるのが救いだ。きちんと自分の家、と言う感覚がする。

それでも物を散らかしたりはできない。いくら自分の家や部屋だと言えど、物を散らかすことは前世今世共に出来ない。整理整頓、掃除はできる限り毎日やるべきだろう。


「勝己ー。そろそろいくぞー。」


はーい、と一応返事はしておく。

今日はお散歩に行くらしい。越してきたばかりだ。近所に何があるかぐらいは把握しておいた方がいい。

俺の体力が保てば公園にも行く予定だ。今世だとうん年ぶりの公園になる。走り回ることはできないと思うが割と楽しみだ。


久しぶりのお散歩に高揚する気持ちを感じながら靴を履きに玄関へと向かった。






* * *


「勝己、本当に大丈夫かい?」

「おう。」


散歩も終盤に差し掛かり、公園に行くか行くまいかの話になった。

俺はもちろん行きたいが、目の前のジーパン野郎は俺が心配でならないみたいだ。何度も言うがこいつは本当に心配症なのだ。いくら俺が病に弱いからといって・・・でもその優しさに甘えてしまう自分もいて、なんだがやるせない気持ちになる。


「・・・わかった。でも無理は絶対にしないでくれ。」

「わかってるつーの。」


ならいいが、と呟きながらも、目は不安げに揺れている。

久しぶりに公園に行けるからと綻ぶ気持ちと、維をいつまで経っても不安にさせている情けなさとそれに甘えてしまうやるせなさに板挟みされる。


それでもやっぱり高揚する気持ちがあるので思わず唇が緩む。

身体が幼いからか、感情や表情が表に出やすい。申し訳ない気持ちに駆られながらも笑ってしまう自分に苛立つ。


そんな勝己の思いは露知らず、久しぶりに微笑んだ息子をみたジーニストは不意をついたように目をぱちくりと瞬かせた。





「ついた・・・。」


うん年ぶりの公園。実はこの公園には前世、足を運んだことがある。

記憶と余り差異がないのにまたも口元が緩む。


生い茂る木、風に吹かれて舞い上がる砂。子供のはしゃぎ声に揺れる遊具。


中身は大人の筈なのに、公園に来ただけの筈なのに、何故か涙ぐんでしまいそうになる。

病院をなかなか出られなくてうんざりする毎日を過ごしていたからだろうか。


維を心配させまいと涙を拭う。

それから何をしようかと思案していると斜め後ろあたりから声をかけられた。


「こんにちは。」


どこか聞いたことのある女性の声だった。

思わず振り返った先に居たのは見知った二人の顔だった。


デクだ。


厳密にいうとデクと引子さん。デクは今世でも人見知りなのか、若干俯いている。そして口元からぶつぶつと耳障りな音を発している。

デクに会えた嬉しさもあるが、前世の記憶がなさそうな立ち振る舞いに少しがっかりする。それでもナード気質なのは相変わらずで、それに安心してしまう自分がいるのも確かだ。


そう考えている俺の上では引子さんと維が世間話をしている。

先日越してきたんですよ、とか、あそこの茶屋が美味しいですよ、とか。

ごく一般的な会話だ。そんな中、デクが俯きがちだった顔を上げ、口を開いた。


「あ、あの!じ、ジーニストさんですか!!!?!?」


デクの大声が公園中に響き渡った。


急いで辺りを見回す。変にネットニュースにでもなったら困るからだ。

みた限り子供が4,5人、その親が2,3人程度少し離れた場所にいるだけだった。

ほ、と息を吐く。態々大声にしなくても・・・と思ったが、こいつはそういうやつだった。


「いかにも。私がジーニストだ。」


そういってわざとらしく決めポーズをとる。いい歳して何やってんだか。

呆れる俺の目の前で引子さんは驚いたように顔を歪めたと思ったら、頭をぺこぺこと下げ始めた。


「す、すいません!私し知らなくて!先ほどはご無礼を・・・!」

「気にすることはない。私だって君たちと同じ一人の人間だ。頭を下げる必要はない。」


流石自称紳士。対応が大人だ。

同じ人間だというのに、勝手に神格化されて頭を下げられるのは正直困る。

ヴィラン顔のヒーローとして名を連ねている俺でさえあたまを下げられたことがある。世には物好きなヤツがいるのだ。

俺はその時軽くあしらうことしか出来なかった。自称紳士とは訳が違う。なんだが過去の自分が情けなくなってきた。


それはさておき、デクに話しかけようと思う。こいつにはヒーローになってもらわないと困る。

その為には俺がこいつに近づき、親睦を深め、物凄く癪だがヘドロヴィランに襲われる必要がある。本当に癪だが。


「お前。名前、なんていうんだ。」

「へ!?あ、え、えっと・・・」


急に話しかけられたせいか、焦ったように視線を動かす。

子供なんだからもっと元気に応えればいいのに、と自分のことを棚の上にあげておきながら不満げに唇を尖らせる。


「み、緑谷出久・・・。」

「ふーん。」


(自分から聞いてきたくせになんだそのつまらなそうな態度は!!)


などと緑谷が思っているとは微塵も考えずに、勝己は手を前に差し出した。


「俺は爆豪勝己。よろしくな。」


緑谷の元々大きな目が更に大きく見開かれた。

緑谷はこの歳になっても、未だに友達と呼べる仲のやつがいなかった。

元々地味で話しかけられにくいのに加え、人見知りが故に自分から話しかけることもできない。

流石に1年世の頃は仲良くしてくれるやつがいた。だが、2年生になってクラスが別れたっきりになってしまった。


それから今まで緑谷はひとりぼっちだった。

今日はパソコンに齧り付く毎日を送っていた緑谷をみかねた引子が、『久しぶりに公園でもどう?』と言って腕を強く引っ張ってきたのだ。


この引子の行動が、緑谷の運命を大きく左右することになった。



目の前に差し出された手をまじまじと見詰める。

本当に僕がこの手を取っていいのだろうか。この手を取るのは僕以外の人間ではないのか。


手を差し出してくれた少年の髪は光に透けて美しく輝いている。そして、強い意志を孕んだ赤く澄んだ瞳はとても神秘的で、思わず引き込まれそうになる。

白い肌も通った鼻筋も整った眉も全てが美しい。

こちらに伸ばされている手でさえ、まるで神の手とでも言う様な艶やかさを放っている。


「おい。」


つい見入ってしまって、返事をするのを忘れていた。

未だに手を受け取っていいのかわからなくて、またも口籠る。


そんな僕を見兼ねてか、美しい彼ががこちら側に身を乗り出してきて、僕の手を無理やり取った。


「ちょ、えっ・・・!?」

「うるせぇ。」


いきなりの暴挙に思わず声が漏れる。

そんな僕を気にせず美しい赤い瞳は僕を射抜く様にじっと見据えてくる。


彼は男なのに顔を近づけられると何故か頬をが赤く染まってしまう。何故だろう。


「今日から俺たちは友達な。」


それは僕を驚愕させるのには十分すぎるほどの言葉だった。

目の前の彼は、その美しい顔にまるで天使かと思う様な笑顔を浮かべている。


「本当に、いいの・・・?」


そんな天使の様な神の様な彼に自分は不釣り合いだと思い、身を引こうとする。

でも彼は器も広いのか、


「俺がそう言ってんだから当たり前だろ。」


と言ってせた。

今度は笑ってくれなかったが、こちらをみつめる瞳からは優しさが滲み出ていた。


そんな彼の優しさに応えないわけにはいかない。

僕も負けじと口を大きく開けて笑ってみせた。


「うん!ありがとう!!」

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