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最悪の目覚めだった。雪村と一緒に寝ればマシにはなったかもしれないが、10も下の恋人にそんな醜態を晒したくはなかった。
「寝汗ひどいな…」
春の北海道の朝は寒いくらいなのに、まるで運動をした後のような汗をかいていた。これも全て昨日の悪天候のせいだ、と吹雪は青空を見つめた。
「吹雪センパイ?朝ごはんできましたけど…」
「ちょっと待ってて。今着替えるから。」
時計を見ると普段よりも30分ほど遅く起きていた。なのに寝た気がしないし、目の下のクマも酷い。雪村になんて言い訳しようかな…まぁ結局バレるのだろう、と溜息をついた。
「おはようございます…ってクマひどいですね。眠れませんでしたか?」
「そう?昨日遅くまで書類片付けてたからかなぁ…」
えへへ、と苦笑いをし、席に座る。僕の好きなおかずばかりだった。
「そうなんですか。センパイ肌白いんで目立ちますね。」
あれ、普段よりも返事がそっけないような気がする。普段の雪村なら大丈夫ですか!?と吹雪本人よりも焦るのに。
「雪村なんか怒ってる?」
「別に怒ってないです。さっさと朝ごはん食べてください。」
吐き捨てるように言うと、雪村は自室に篭ってしまった。これは本格的に怒っている。しかし吹雪は身に覚えがないのだ。仲直りしようにも何に怒っているのかわからないのでできそうにない。
「…何で怒ってるんだろう?」
呆然としながらも目の前にあるご飯を食べなければ、と吹雪は半ばかき込むようにして朝食を終えた。
「センパイの馬鹿…」
一方雪村は自室のベットで枕に顔を埋めていた。理由は吹雪が雪村に隠し事をしたからである。
「悪い夢見たなら言ってくれればいいのに…そんなに頼りないのかよ。」
他人には全く興味のない雪村だが、吹雪の表情の変化には誰よりも敏感である。吹雪が自分を頼ってくれないこと、自分はまだ恋人扱いではなく子供扱いをされていること、その両方で怒っていた。
「くそっ…!!!センパイの馬鹿やろー!!」
行き場のない怒りを鎮めようと枕を乱暴に叩く。暫く叩いているとドアがノックされ、聞き慣れた声がした。
「雪村…?凄い音するけど、入っても平気?」
「入ってこないでって言ったら入ってこないんですか。」
我ながら子供っぽい返し方だ、と雪村は思う。もう少し冷静に返すことは出来ないのかと自分自身に悪態をつくが、雪村にそんな器用なことは出来ない。
「…でも入らなかったら雪村怒るでしょ?何に怒ってるか分からないけど謝るから部屋入れてよ…」
しまった。この猫のような甘え声に雪村は滅法弱い。いや、吹雪が関わることは大体はいしか言わないのだが。
「はぁ…もういいですよ。入ってきても。」
これは折れるしかない。というか、この声でお願いをされて雪村が断れるわけが無いのだ。でも怒っていることはわかって欲しいので精一杯の怒り顔を作った。
「…で、センパイは俺が何に怒ってるのかわかってるんですか?」
「うぅ…わからないけど、俺のことに関して怒ってるのはわかってる…」
なるべく声を低くしてセンパイを睨みつけると飼い主に怒られた子猫のように身を縮めてしまった。滅多に見ない吹雪の様子に笑みが溢れてくるが、一応本気で怒っているので睨むことはやめない。
「センパイ、今日も夜中の天気悪いらしいですよ。」
「えっ、雪村それ本当?」
「はい。雷雨らしいです。春だからですかね。」
そういえば、と朝のニュースで今日の夜も天気が悪くなると報道していたことを伝えると、わかりやすく吹雪の肩が跳ねた。誤魔化しきれないのに我慢する理由は何なのだろう。眉間の皺がより深くなると、とうとう吹雪が白旗をあげた。
「雪村…僕が悪かったから!!!ごめんなさい!!」
「何に対して謝ってるんですか!!」
「僕が悪い夢を見たけど雪村に言わないで我慢したこと…変なプライドが邪魔しちゃったんだ。雪村の前ではかっこいい僕でいたいって思っちゃって。」
返答に雪村は目を見開いた。まさかプライドだったとは。同時にそんなくだらないことで…と呆れ半分で小さく笑った。
「まぁいいですよ。許してあげます。センパイに免じて。」
「ありがとう雪村!!それで…今日は一緒に寝てくれる?」
そんな可愛い顔をされたら返事は1つだ。
「はい!一緒に寝ましょう!!」
センパイが悪い夢を見ませんように。と願いを込めて雪村は吹雪を抱きしめた。