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2.伸びてく数値、変えてく笑顔
「玲王、ここの所調子がいいね。君が希望してたトラップ練習も再開しようか。」
給水しているとコーチに突然声をかけられてそう言われた。
ニヤけることを我慢できずに勢いよく頷き返事をしたことを今でも覚えている。
「君の能力的にトラップよりも他のを身につけたほうがいいと思うけど…なんでトラップ?」
「恋人もサッカーしてて、トラップが得意なんです。だから同じ景色も経験したくて。」
恥ずかしさはもちろんあったが恋人、凪の存在は知っていたからかコーチも納得した。
「凪、今大丈夫か?」
「うん、練習終わって今から帰るとこ。」
「お疲れ様〜」
「どうかした?玲王。」
できる限り格好つけて自然に話していたつもりだったが電話越しでも凪にはお見通しだ。
「やっぱ分かる…?笑」
「うん、いつもより弾んでる。」
今日電話をかけたのは嬉しかったこと、練習のこと、悔しいこと、来週のこと。
話したい事が次々と浮かぶからだ。
「そうだ、玲王。夏休みに入ったら互いに予定が会う日に海に行かない?」
「海?お前泳げんのか…?」
「多分ね。泳がなくてもいいからさ。玲王と行きたい。」
真っ直ぐになんの躊躇いもなく電話の向こうから凪の声が届いた。
素直で気分屋で愛情表現が苦手な俺の恋人。
会いたい気持ちは増すばかりだった。
〜当日〜
「ばあや、そろそろ行ってくる。」
「本当に大丈夫ですか。車を手配したほうが…。」
「大丈夫、免許あるんだから。」
ばあやに手を振って家を出ると車に乗り込んでエンジンをかけた。
大きな門を飛び出して向かう先は予約先のレストランだ。
スマホで時間を確認すると待ち合わせの30分前。
少し早すぎたかもしれない。
「いらっしゃいませ、ご予約されていた御影玲王様ですね。こちらへどうぞ。」
店は全体が大きな窓で囲まれており、上から街の明かりを見渡せた。
この景色を凪は見たがって居たんだと思うといくら凪でも納得はいくきもする。
先に席に座り凪の連絡、到着を待った。
浮かれる気持ちも緊張する気持ちもやっと会えるという開放感も全てを抱いて待った。
予定時刻の時間をすぎても、電話に出ない凪を気にかけながら待った。
店を出て探そうにも入れ違いになったらどうしようかと言う不安もあった。
痺れを切らして凪への電話を切るとすぐに潔から電話がかかってきたんだ。
すぐに出ると潔は息を切らして言った。
今でも忘れられない。
声を絞るようにして出して、苦しそうに泣きじゃくりながら言った言葉。
「凪が通り魔にあった。」
冗談にしては重すぎず、現実にしては急すぎる。
考えることをやめたくなったがすぐにはっとして荷物を手に指定された病院へと走り出した。
停めていた車に飛び乗り飛ばす。
凪の笑顔が脳裏に浮かんだ。
やっと手に入れた宝物をまた失ってしまう。
神様は時に残酷な運命を託すんだ。
君にもこの辛さが分かるか?