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3.強がり上手な男の子
病院に駆け込むと待合室に居た潔に駆け寄る。
辛いのは、今一番辛いのは俺のはずなのに潔があまりに苦しい顔をするからどうにも涙が出なかった。
昔から強がりな子供だったんだ。
人と一緒に感情を共有できない強がりで負けず嫌いな性格だった。
だから自然と潔の頭を撫でていた。
一緒に凪の眠る病室へと向かった。
扉を開けた先に眠るたくさんのたくさんのたくさんのチューブに繋がれた凪。
医者によると肺に穴が空いている為無理矢理に酸素をチューブから送り込んでいるらしい。
「ごめ…、買い物の帰りに人だかりが見えて、駆け寄ったら凪が倒れてた…」
「…お前のせいじゃねぇよ。ありがと、俺に電話くれて。」
きっと潔の背中をさする俺の手は震えていたと思う。
凪の動かない表情を横目にただ潔に寄り添っていた。
不安と後悔で胸がいっぱいだった。
「凪、ごめんな。俺が迎えに行ってれば…」
「あのさ、玲王。凪が運ばれた時に…」
「?」
潔がやっとの思いで小さく口を開いた。
でもすぐに目を背けて首を振る。
「ごめん…何でもない。」
嘘をつくのが下手な潔だ。
昔からそうだったから分かりやすい。
だが言及する力も残ってなかった。
「そうか。」
ただ弱々しくそう吐き出しておいた。
「坊ちゃん、一度お帰りになりましょう。心配なのは分かりますがまずは坊ちゃんが正気に戻るべきです。」
凪の眠るベットのシーツに顔を伏せながらばあやの声を聞いていた。
「ばあや、もう少しだけ居させてほしい。まだ離れたくないんだ。」
ばあやがどんな表情をしたのか、俺は見てなかった。
でもきっとばあやの事だから微笑んで帰ってくれたんだ。
人の辛さが分かるばあやに憧れていた頃が懐かしくも思える。
「坊ちゃん、私は帰りませんよ。坊ちゃんが彼をどれだけ愛したか、大切にしてらしたか、私は把握していません。」
帰ったと思っていたばあやはまだ部屋にいた。
顔を起こしてばあやの声に向く。
「教えて下さい、ばあやに。坊ちゃんは今、何を望んでいますか。」
ばあやの目は落ち着いた。
ばあやの声は好きだった。
ばあやのシワシワな手が暖かかった。
ばあやの言葉が支えになった。
でも俺はばあやの事を何も知らなかった。
同じように俺は凪をしらない。
どうして凪は俺を選んでくれたのか。
握っていた凪の手をそっと離すとばあやの横を通って病室を出た。
凪を見るのが今は辛かった。
もしこのまま凪が目覚めなかったら…。
俺は凪を知らないまま生きることになる。
その現実と向き合うのは勇気がいる。
その勇気を俺はまだ覚悟できてない。
俺は、どこで間違えた?