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葉音/東方Loveなのだ
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月が、綺麗ですね。
たった一言が、まだ私の中に残ってる。
口に出さないままここまで歩いて来た。
淡い月明かりが湿った地面を照らす。
キノコが怪しい緑色に光る。
影を落とす灰色の雲。
全部包み込む紺色の空。
どこまでも綺麗な風景なのに、私の心は曇ったままだった。
『大嫌いだ』
『私も嫌いよ』
『顔も見たくねえな』
『さっさと失せて』
あの日、月の下で交わした言葉。
アイツからの言葉に傷ついちゃいない。
傷つくわけない。
だって、好きだから。
私が言ったのは全部嘘だって。
伝えそこねてしまった。
もう、とっくに仲直りした。
アイツも多分覚えてないと思う。
ほんとはね。
あの時、霊夢に言おうと思ったんだ。
月を褒めるあの言葉。
月じゃなくてお前が欲しいんだって暗示する、日本語の難しいところ。
言えなかった。
嘘ばっかの口喧嘩が、それを流してしまったから。
言いたかった。
お互い意地っ張りな私達を、月だけが見ていた。
霊夢。
私は、別に霊夢が嫌いなんかじゃない。
天邪鬼だって、知ってるでしょう?
霊夢も、天邪鬼だ。
だけど、霊夢は私みたく単純じゃないからな。
霊夢の考えてること、難しいから分かんねえ。
そうやって言い訳を重ねて幾星霜。
もう霊夢はいない。
老衰だ。
穏やかに逝ったわこんちきしょう。
…月の下では、どんな嘘も綺麗に見えてしまう。
私は綺麗な嘘をつきたい。
告げなきゃいけない真実も、そりゃあるだろう。
苦しまぎれの嘘なんて、あん時の喧嘩でもう十分だ。
まだ、一緒に居たいと。
まだ、帰りたくないと。
ずっと好きでいる、と。
沢山の思いを、月への褒め言葉へ織り込んで。
魂を込めたその言葉を。
今、捨ててみせよう。
手の中に、赤いリボン。
離さず身につけていた、あの。
霊夢が死んでから、ずっと私が持ち続けていた。
それを空へ飛ばす。
僅かな魔法の補助。
後はもう、風に任せて。
いつか…霊夢に届きますように。
ひらひらと飛んでいくリボンを見つめる。
手の内にあったそれは、もう届きやしない。
月光に照らされた鮮やかな朱色。
さよなら。
もう過去に戻りたいとは思わないから。
せめて、お前も笑っててくれよ。
大きな大きな月を、褒める言葉。
大好きなあの人に、届かなかった言葉。
私が私であるために、ずっと持っていた言葉。
「…月が、綺麗ですね」
あともう少しだけ、お前のことを思ってるよ。
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