アリアの報告を聞いた私は気分が高揚した。こんな何もない空間に人工物!気になるのは当たり前だよね。
「位置をマークして!確認に向かうから!」
『畏まりました。これよりナビゲーションを開始します』
私はセンサーに表示されるナビゲーションを頼りに“ギャラクシー号”を進ませる。逸る気持ちを抑えるのは大変だったけど、程無くしてその人工物がモニターに映し出された。これは!
「もしかして……ボイジャー1号!?いや2号かな。ちょっと分からないけど!」
そこに映っていたのは、地球から打ち上げられた探査機だった。
ボイジャー1号は1977年9月5日にNASAが打ち上げた探査機。私が生きている時は地球から最も遠い距離に到達した人工物でもあって、ロマンの塊だよ。
写真を穴が開くんじゃないかってくらい眺めたし、その旅路に想いを馳せて新しい発見に胸を躍らせたよ。
見間違える筈がない!これがあると言うことは、地球までそう遠くはない筈!
「アリア!航路を予測できる!?この人工物が来た場所に知的生命体が居るかもしれない!」
『可能ですが、なぜティナがこの物体の名前を知っているのですか?』
あっ、やっべ。そりゃ気になるよねぇ!
「えーっと、それは……」
『いえ、構いません。お話したくない様子ですし、何れ教えていただけるなら幸いです』
「……ありがとう、アリア。約束するよ」
今は無理だけど、アリアになら……いつか。
『航路の逆算を行いました。しかし、精度に問題があります』
「それは仕方無いよ。ナビゲーションお願い」
軌道修正なんかをした可能性はあるし、確実とは言えない。でも地球に近付ける可能性は高い!
『ナビゲーションを開始します』
「星間航行速度まで上げて!あっ、デブリには要注意だよ!」
確か太陽系の周りにはオールトの雲と呼ばれる小惑星帯があるはず。いや、まだ議論の真っ最中だったっけ?
まあ良いや。どちらにせよ小惑星に激突なんて事態は避けたいからね。
それから数時間、私はアリアのナビゲーションに従って宇宙を飛んだ。途中に小惑星が集まる場所を通過して、更に先へ進むと。
『恒星の光を検知しました』
よしっ!
「ナビゲーションを修正!その恒星を目指すよ!」
『ナビゲーションを修正します』
遥か彼方に見える光を頼りに私達は更に突き進む。小さな光だったけど、近付くにつれてどんどん明るくなっていく。
『進路上に天体を確認しました』
「アリア!その天体を光学探知!最大望遠でお願い!」
『畏まりました、光学映像を映します』
モニターに映し出されたのは。
「ああっ……ああっ……!」
『ティナ、どうしました?』
駄目、涙が止まらないっ!だってそれは、何度も写真で眺めていた太陽系外縁の惑星、海王星っ!間違える筈がないっ!
「っ……アリア、恒星系の惑星数は……?」
『恒星を除けば8。また大きな惑星が複数あり、衛星も多数確認できます』
「うんっ!うんっ!進路そのまま……惑星全部を……順番にっ!」
涙が止まらない。
『分かりました』
アリアはなにも言わずモニターに恒星系にある惑星を映し出してくれた。
「あははっ……天王星……大きな輪っか……土星……っ……木星っ……おっきいなぁ……」
見知った惑星が次々と映し出されて私は涙を止めることが出来なかった。あっ、でも待って。
「アリア、ストップ!」
木星まで映し出した映像をそこで止めた。
『どうしました?ティナ』
「この先は勇気が必要になるから。取り敢えず最後に映した惑星、木星近海まで行くよ」
『航路設定、木星近海まで移動します』
遠目に土星の巨大なリングを見て感動しながら、私は木星近海まで移動した。
「おっきいなぁ……」
音楽家のグスターヴ=ホルストが作曲した惑星組曲の木星は壮大で勇壮な音楽だけど、この星を見たら納得の貫禄だよ。うん。
『ティナ、次の指示を』
しばらく木星に圧倒されていた私は、アリアの言葉で正気に戻った。
「ごめんごめん……よし。アリア、恒星から三番目以外の惑星を見せて」
『畏まりました』
再びモニターに映し出されたのは、火星、金星、水星。うん、見たところ変わりは無さそう。天文学者じゃないから詳しい数値までは覚えてないけどね。
……さて、いよいよ地球だ。ここで地球が無惨な姿になってたら凹む自信がある。いや、ある意味諦めが付くかもしれないけど。
「アリア」
『はい、ティナ』
「三番目をお願い」
『覚悟が決まりましたか?』
「うん。ごめんね、遠回しで」
『いえ。それでは三番目の惑星を映します』
そして映し出されたのは……。
「……っ……うぅっ……ぁああっ……」
泣いちゃった。うん。だって、そこには変わらない青い地球が映し出されていたんだから。
『センサーによる簡易解析を開始……無数の生命反応を探知。海洋、河川を確認しました。また、人工物も無数にあり、知的生命体が存在している模様。また惑星を公転する人工物も確認できました』
見る限り、SFとかに出てくるコロニーの類いは無さそう。
「ありがとう……ふふっ」
帰ってきたんだ……地球に。
泣いてばかりはいられない。先ずは目的を果たさないといけない。
「アリア、現地の人たちと接触するよ」
『惑星へ向かいますか?』
「ううん、今回はメッセージを送るだけにしておきたい」
すぐに行っても混乱を招くだけだろうし、下手をしたら攻撃される。フェルのこともあるし、先にやらなきゃいけないこともあるから。
『畏まりました。現地のネットワークを確認……地球、ですか』
インターネットにアクセスしたみたいだね。
「言語は任せて良いかな?アリア」
私の今じゃ多国語なんて無理だし。
『畏まりました。これよりネットワークを通じて言語を習得します……統一言語はありませんね』
「取り敢えず英語、イングリッシュをお願い。それである程度は会話が成り立つ筈だから」
私も見てるけど、私が死んでから三十年くらいしか経ってないみたい。
地球連邦みたいな組織も無い。良かった、そこまで大きな変化も無いね。
『宇宙へ向けた信号を検知しました。惑星地球の事を発信している模様』
NASAかな?そこまでは分からないけど、発信だけは止めさせないとセンチネルに見付かる。
地球滅亡なんて洒落になら無いし。
「発信源にアクセスして、メッセージを送る。英語で翻訳をお願い」
『発信源を探知。現地名アメリカ大陸からです。言語は現地言語の英語を選択』
やっぱりアメリカかぁ。個人的には日本にも行ってみたいけど、先ずはファーストコンタクトを成功させないとね。
「アリア、メッセージ送信をお願い。あっちからのメッセージ受信には時間がかかるから」
此方は転移魔法の理論を応用した通信があるけど、地球にはない。地球が発信した電波が木星近海に届くまで時間がかかる。
『了解しました。では、ティナ。文章の作成をお願いします』
「うん」
さぁて、大事なファーストコンタクトだよ。
……ただいま、地球。
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