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#ざまぁ
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鷹槻れん

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「僕が留守の間、よろしく頼むよ」
銀色の髪が陽光に煌めき、彼の青い瞳はどこまでも澄んでいる。
大勢の人々が見守る中、ルイスは私に笑みを向けた。
初めて会ったあの日のように、完璧な王子スマイルを。
ほんと、憎たらしいほど絵になる男ね?
こちらも負けていられないと、私もシスティーナ王国仕込みの完璧な姫スマイルを返した。
演じることは慣れている。人々の注目が集まる今、夫を愛する献身的な妻を演じることこそがこの場における私の役割だ。
誰があなたの帰りを心待ちにしているものですか。
できることなら、ずっと帰ってきてほしくないくらいよ!
戦地へと向かう夫に対し、このようなことを考えてしまうなんて私は本当に酷い女だ。
それでも、新たな国で上手くやっていくためには面倒なことはできるだけ避けたいというのが本音というもの。
皇后の座に興味はないし、継承権の争いごとに巻き込まれて命を落とすなんて絶対に嫌。
皇帝や皇后が集うこの地獄の空気から抜け出したかった私は、戦地へと向かう夫を最後まで見届けたいと頼んだ。
息子を戦地へ送ることに何のためらいもない冷酷な皇帝から了承を得た後、すぐに自室へと走り、部屋に備えられているテラスから身を乗り出した。
ここからは、城を後にするルイスを含めた騎士団員たちの姿がよく見える。
暫くぼうっとしながら戦地へと向かっていく騎士たちの背を眺めていると、まるで野生の勘でも働いたかのようにルイスが振り返った。
確かに、彼と目が合った。
驚いて部屋に逃げようとしたが、それよりも先にルイスがひときわ目立つほど手を上げ、私に向かって敬礼をした。
一体、何のつもりなの?
私は気づいていないフリをして身を翻すと、部屋の中へと戻った。
突如、心の奥底から苛立ちが湧き上がってくる。
何が君を愛することはないよ。そんなの、こっちのセリフだわ!
愛していない男が戦場でどうなろうとも、私からしたらどうだっていいこと。死のうが生きようが、どうだっていい。私の目的はただ平和に、自分に与えられた役目をこなし、ただ死人のように息を殺して生きることなのだから。
そんなわけで私は、戦地へと旅立った夫を想い涙を流す日々を送る……なんてことはサラサラなく。
「ああー、アスタリアの皇宮って最高!」
今日も今日とてアスタリア帝国での暮らしを満喫していた。
「喉が渇いたわ。何か飲み物を持ってきて」
「かしこまりました」
「甘いものが食べたいの。ケーキを持ってきてちょうだい」
「すぐにお持ちいたします」
ふと周囲を見渡せば、周りには大勢の使用人。
私の言葉にすぐさま反応し、誰もが二つ返事で従う。
システィーナではいつも制限された生活を送っていたから、こんなにも自由で快適な日々は私にとってまさに天国そのものだった。
私が今暮らしているサファイア宮。聞けば、ここは元々ルイス皇子が使用していた宮殿らしい。
大国アスタリアの皇子が住む宮殿にしては、内装のあちこちに古びた部分が目立つ。使用人の数も、本宮に比べると明らかに少なかった。
そのうえ私に与えられた予算も驚くほど控えめだった。
もっとも、私はもともと浪費を好むような性格ではなかったから、そこまで気に留めることもなかったが……。
疑問が過ったものの、「彼がこういう細かいことに関心を持たない人なのだろう」と納得することにした。
面倒ごとにはとにかく関わりたくない。
「ロゼッタ妃、皇子様にお手紙を書かれてはいかがでしょうか?」
慎ましくも穏やかな日常が続いていた、そんなある日。
突然、メイドのエリーがそんなことを言い出した。
「手紙?」
エリーは私の問いに「はい」と答えると、シンプルなデザインの便箋と移動石を私に手渡した。
移動石――それは貴族や皇族が文通や贈り物をする時に使われる魔法がかけられた道具。
貴族でも中々手にすることができない高価な品だった。
「ロゼッタ妃からお手紙を送って差し上げれば、皇子様はきっと、とてもお喜びになられるはずです」
「そうかしら? 面倒に思われるだけだと思うけど……」
戦地へ行っている夫に手紙の一枚も書かないというのは、世間的に印象が悪い。だから突然手紙を書けと言い出したのだろう。
しかし、改めて手紙を書けと言われても困る。私と彼は長い時間を共にしたわけでも、親密な関係な訳でもない。
ただ、政略によって結ばれた名ばかりの夫婦というだけ。当然、手紙で綴るような思い出もない。
だけど私も、こんなにも良い生活をさせていただいているのだから、妃としての責務を果たさなければならない。
「ありがとう。手紙、書いておくわね」
そうやって笑顔で頷いたものの、あの男が私の書いた手紙を読むとは到底思えなかった。
・ ୨୧ ┈┈┈ ⋯ ┈┈┈ ୨୧ ・
アスタリア帝国に来てから、あっという間に三カ月が経過していた。
未だに、ルイスは戦地からは戻っていない。
そんな中、私は十八回目の誕生日を迎えようとしていた。
第一皇子ルイスと婚姻を結んだ私はアスタリア帝国の皇族の一員としての扱いをされる。
そのため、今回の誕生日には、皇宮内で誕生パーティーを催すことが決定された。
そして数日前、従者伝いに誕生パーティーのすべてを私に任せるとの伝言が皇帝陛下から送られてきた。
もしも、私がとてつもなくポジティブな性格だったなら、皇帝陛下が私を信頼して任せてくださった! と、能天気に喜ぶことができたかもしれない。
けれど、現実はそう甘くない。「すべてを任せる」とは、裏を返せば丸投げであり、もし何か不備や不興があれば、それはすべて私の落ち度とされるという意味に他ならない。
もっとも、そこまでは百歩譲って納得できる。他国から嫁いできた私を試そうとしているのだと思えば、まだ筋は通っているから。
だからこそ、今私が本当に頭を悩ませている問題はこっちだ。
「予算が足りないって、どういうことなの?」
私はアスタリアの皇宮にふさわしくあるために、新しいドレスを新調しようと、いくつかの候補を選んだ。
そして、それに合わせたアクセサリーも、いくつか一緒に注文しておくよう侍女のエリーに指示を出した。
ところが、エリーは私の命令に頷かなかった。信じられないことに、困ったように眉尻を下げ、「そちらの品物は予算が足りないため購入できかねます」と口にしたのだ。
大国アスタリア帝国の第一皇子の妻として公の場に出るのだから、当然見合った品位のある装いが求められる。
だからこそ、選んだドレスや装飾品はそれなりに高価ではあったが、決して度を超した贅沢をしているわけではない。
むしろ、ヴィヴィアン皇后が身にまとう煌びやかな衣装と比べれば、私が選んだものなど雀の涙のような質素さだ。
「本当に申し訳ございません……」
エリーは深く俯いたまま、謝罪の言葉を繰り返すばかりだった。
「謝ってほしいわけじゃないわ。どうしてそんな事態になっているのか理由を知りたいの」
問いただすように強く言うと、エリーは一瞬だけ視線を上げたものの、またすぐに逸らしてしまう。
そして、絞り出すように謝罪の言葉を口にした。
まるで何かを隠しているかのような態度。
答える気がないのか、それとも答えられないのか。
どちらにしても、私の胸には、じわじわと冷たい不信感が広がっていく。
「……もういいわ。下がってちょうだい」
痛む頭を押さえながら言い放つと、エリーは深く頭を下げて部屋を出ていった。
答えてくれないなら……こっちから探るしかないわね。
そう決心すると、私はあの場所へと向かった。
この皇宮を管理するために欠かせない場所、アスタリア皇宮の財務部だ。
「……どちら様ですか?」
「部長、無礼な態度はどうかお控えください!」
大きくあくびをしながら乱れた髪をガシガシと搔き、皇子妃に向ける態度とは思えないほど無礼なふるまいをする男に、隣に立っていた男が慌てて叫ぶ。
「この方は、ルイス殿下の妃になられた、ロゼッタ皇子妃様です!」
すると、目を大きく開いた男が、驚いたように私の姿を凝視した。
「……この方が、ルイス殿下の?」
まるで品定めするかのように私を見つめる男。
彼が、アスタリア帝国財務部部長エンディミオン・ボルジアン。
栗色の髪は寝癖で跳ね、目の下には深い隈ができている。
だらしない印象だが、顔立ちは整っており、モノクルが妙に似合っている。
「あー、なるほど。あなたが夫が戦争に行ってるにも関わらず毎日贅沢三昧だというシスティーナの姫ですか」