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まなこ〜友
117
#ますしき
T
5,800
─────五年後
咲人が生まれてから二年後に娘の結愛が誕生し、今では咲人が六歳、結愛が四歳になった。咲人は小学校へ、結愛は保育園へと通う日々だ。
「結愛ー! 咲人! いつまで寝てんの!」
咲人は雅にそっくりの天使のような顔立ちで、結愛もどちらかと言えば雅寄り。気の強さこそ私に似たけれど、印象的な目のパーツは完全に雅。
二人とも気まぐれでマイペースなところまで雅にそっくりで、毎日手を焼いている。仕事の準備もあるのに、全く動こうとしない二人の布団を力ずくで剥ぎ取った。
「起きなさいってば!」
「うるさい! ママ!」
「お母さん、お父さんがそんなに怒ると血圧上がるって言ってた……」
あのクズ余計な言葉を教えるな。
屁理屈をこねる咲人と結愛の額をぴしゃりと弾くと、二人は額を押さえてようやく身体を起こした。
その諸悪の根源であるクズは、相変わらず夜の仕事の疲れで、綺麗な顔をしてベッドの中で眠っている。
起きてきたら絶対に一発入れてやると、そう心に決めながら、愛おしい我が子達をリビングへ促し、朝食を出した。
朝のタスクをこなし、咲人を小学校へ送り出し、結愛を保育園へ預ける。急いで家に戻り、今度は自分の仕事の準備に取り掛かる。
正直、息つく暇もないほど大変だけれど、二人の可愛い子供達の成長を考えると、まったく苦にならない。
雅も、仕事の翌日は深く眠っているが、休みの日は早起きして家事の多くを担ってくれる。仕事に行く前にも、洗濯や軽い掃除を済ませておいてくれるからかなり助かる。
生活リズムが合わないことを、子供たちは少し寂しく思う時もあるみたいだけれど、私達は協力をしあいながらなんとか仲良く暮らしている。
メイクを済ませ、出勤前のバタバタとした時間を過ごしていると、ようやく雅が寝室から出てきた。
「あれ、咲人達もう行った?」
「時計見なさいよね。行ってるに決まってるでしょ」
壁の時計は既に八時半を回っている。私も九時には家を出なければならないから、二人の子供を送り出した後のこの三十分で用意をしなければならなくてかなり忙しい。
「今日は結愛の飛び乗り無かった……」
「結愛は髪結んでも気にいらなくてイライラしてた」
「我儘だよな、俺が結んだらこの間パパへたくそ! って怒鳴られた」
「ああ、完全に私似……」
こんなところで強烈な遺伝を感じるなんて、かなり不服だけれど、あのわがままで言葉に遠慮がなさすぎるところは、間違いなく私の遺伝だと思う。
子供達の前では雅への言葉遣いに気をつけているつもりだけれど、無意識に雅をディスっているのが漏れているのかもしれない。
少し、気をつけなければ…。
「でもさ、変な話かもだけど俺結愛に怒られるの好きなんだよな」
「はあ?何それ。結愛が聞いたらもっと怒るわよ」
「可愛くね? ちょっかい出したらその時の反応夏帆そっくり」
「……複雑な気持ちになる様な言い方やめてくれる?」
怒っている姿が似ているなんて言われて、喜んでいいのかかなり複雑だ。
「同時に俺に似てる所見るとちょっとおかしいんだよな。顔もそこそこ似てる上に、たまに俺みたいな事するし、言う」
「マイペースなのとか完全に雅だけどね。私せっかちだし」
「まあ自由だよな。てか、咲人はまた美乃ちゃんと学校行ったの?」
「そう。美乃ちゃん毎朝迎えに来てくれるのよね。咲人も何だかんだ学校嫌がっても美乃ちゃんの顔見るといってくれるから助かる~!」
|美乃《しの》ちゃんとは、保育園の頃からずっと一緒のご近所の女の子だ。人見知りなところがある咲人だが、美乃ちゃんにだけは懐いていて、いつも彼女が咲人を引っ張ってくれる。 いわゆる幼馴染というやつで、あの幼い二人の関係性が可愛くて、私はいつもひっそり癒されている。
「将来的に結婚したりして~! 可愛い!」
「美乃ちゃんが可哀想。あいつあのままだと厄介な幼馴染みになるだろうな」
「え、どうしてよ?」
「美乃ちゃんに他の同級生が近付くと嫉妬して手掴んでんの見た事あるから?」
「か、可愛いけど……、流石に今だけでしょ」
「どうかな」
雅は肩をすくめると、棚に飾ってある咲人と美乃ちゃんの写真に目を向けた。
咲人が将来、どんな恋愛をするのかはまだ分からないけれど、どんな形であれ、二人が幸せになってくれたらいいと思う。
…たとえそれが、父親譲りの少し歪んだ愛だったとしても。
「……あ、そろそろ行かなきゃ。行ってくるね」
「あ、夏帆。ゴミの日じゃねぇの? 今日」
「そうだった……! それも持っていく!」
相変わらずバタバタと慌ただしく玄関へ向かう。靴を履き、鞄を整え、振り返れば、そこにはいつものように私を見送る雅の姿があった。
「あ、と言うか明日お義母さん来るんだっけ……。部屋の掃除しなきゃ……」
「良いから。やっとくし……、てかうちの母親如きにそんな気遣うなよ」
「そんなわけ行かないでしょこのおバカ!」
雅の母親は、時々遠方から遊びに来ては、一週間ほど滞在して咲人と結愛の面倒を見てくれる。子供達も義母にすっかり懐いていて、彼女も孫達をこれ以上ないほど可愛がってくれていた。
私の実家の両親も雅を気に入っていて、長期休みには家族で帰省するのが恒例だ。雅の実家の方は「こっちのことは気にしなくていいから、時折遊びに行かせて」と言ってくれ、今のスタイルが定着している。
「あ、母さんがこの土日どっか泊ってきたら? って」
「え?」
「結愛と咲人は見とくからたまには夫婦揃って過ごしてこいって言われてんだけど、夏帆さえ良ければどっか手配しといてもいい?」
急な提案で、それは嬉しいけれど、雅にとって土日は一番忙しい日だ。職場的にも問題が無ければ甘えるけれど。
「……雅は大丈夫なの?」
「颯が代わってくれるって。玲からも許可は昨日得たし、どう?」
あの颯くんは、大学卒業後に玲さんのバーへ就職し、今では立派なバーテンダーとして働いている。玲さんに必死に頭を下げて雇ってもらったらしい彼は、今やお客様からも、そして玲さんや雅からも信頼される店に欠かせない存在に成長していた。
温かい人達の協力を受け、ようやくそこで頷いた。
「おっけ、どっか行きたい所は?」
「バー! バーに行きたいです!」
「勢いすご。その近くで良さそうな泊まれそうな所探しとく」
私が何度も食い気味に頷くと、雅は少しだけ笑って、私の額に優しく口付けを落とした。
子供たちが成長し、ようやく最近になって作れるようになった、ほんのわずかな二人きりの時間。この時間が、私はたまらなく好きだ。
「……遅刻する、行ってくる」
「行ってらっしゃい」
見送ってくれる雅に手を振り、私は玄関のドアを開けた。
週末のデートに浮き足が立ったまま、会社に向かう。
執拗に愛されたあの記憶も、今抱えているこの愛おしさも、忘れずにこれからを家族四人で幸せに過ごしていきたい。
『執拗に愛されて、愛して』End.
コメント
1件
おおっ…最終話、読了したわ! もうね、五年後の家族の風景が温かすぎて泣きそうになったよ…。 特に雅が「結愛に怒られるの好き」って言うシーン、あのクズが!って思わず笑っちゃった(笑)でもちゃんと父親してて、夏帆との関係もすごく落ち着いてて、本当に良かったなあって思う。 咲人と美乃ちゃんの幼馴染エピソードも可愛すぎでしょ…! 将来が楽しみすぎるわ。最終話、お疲れ様、陽瀬さん! 最後まで素敵な物語をありがとう😊