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春になり、実家から離れた街の中心部にある高校へ入学した。俺は地元に思い入れがあったわけでもないので、新たな学校生活と初めての1人暮らしに少しだけ心を躍らせるのだった。
「ふぁあ……ねむ…」
目を擦りながら外を見る。入学した時の勢いは、夏になった今では薄れてしまった。特に楽しいことも無く、俺は別に喋る方でもなかったから今日も1番後ろの席でぼーっと授業を受ける。
部活にも委員会にも所属していなかったが、クラスの図書委員が用事があるとかで俺に手伝って欲しいと言われてしまった。まあ断る義理もないため、快く受けてやった。
そうして言われた通り昼休みに図書室に向かった。何気に初めて入った。ほえーと周りを眺めると、窓辺の席の机に突っ伏している男子生徒を見つけた。深い青色が風に揺られ、カーテン越しに透ける優しい光が、髪の毛を照らす。
綺麗だな、と思った。
それと同時に、彼の顔を見てみたいとも思った。 元々図書室を使う生徒は少なく、受付にいても暇だったので、寝ている彼の近くの席に座る。
腕の隙間から見える顔は、まつ毛が長くとても綺麗だった。
しばらく眺めていると、彼が欠伸をしながら猫のように伸び始めた。こちらに気づいたのか、俺の方を見ると
「ぇっと、……はじめまして、?」
と優しい笑顔で挨拶してくれた。傍から見れば、赤の他人が近くに座って寝ていた自分を眺めているという意味のわからない状況なのに、そんなこと気にしていませんよというように声をかけてくれた。
「……はじめまして、あなたはいつもここにいるんです、か?」
突然話しかけられたことと、笑顔を向かられたことに驚いて辿たどしくなってしまった。高校では、少しでも自分を変えようと、優等生を演じている俺は、キャラブレしてしまったのでは…と内心ヒヤヒヤだらけだ。
「ははっ、そんなに気取らなくていいよ。きみ1年生だよね。俺は3年のらっだぁって言うんだ。よろしくね?」
「…俺は1年のぐちつぼって言います。よろしくお願いします。」
話すとしてもクラスの人だけだった俺は、初めて上級生と話した。
我が校は、ネクタイの色で学年がわかるので、挨拶された時点で先輩だと言うことはわかったが、まさか3年生だとは思わなかった。
俺の挨拶を笑顔で聞いているらっだぁ先輩…?はやっぱり綺麗で、声も落ち着きがあって、癒される。
「うん、よろしくね。ぐちつぼって呼んでもいい?」
「っはい!」
先輩に呼び捨てで呼ばれることが嬉しくても声が大きくなってしまった。そんな俺が面白いのかくすくす笑いながら会話を続ける。
どうしてここにいたのか、とか先輩が何部に入っているのかとか、知らないことを知るのは楽しい。
2人で話に没頭していると、午後授業の始まりを合図するチャイムがなってしまったので、ありがとうございました。と挨拶して急いで退出する。
また会えるといいな
少しだけ退屈だった日々が彩る予感がした。
♢♢♢
俺がいつも使っている図書室の窓際、俺だけの特等席。疲れた時とか眠い時はいつもあそこで仮眠を取る。図書室は、人もあまり来ないため、俺にとってはどこよりもゆっくり出来る快眠スポットなのだ。
いつも通り特等席で眠ろうと、瞳を閉じていた時だった。俺の方に足音が近づいてくるのが分かり、寝るにも寝れないな…とどうしようか考えていた。足音は俺の近くで止まり、椅子を引いた音がするので、多分近くに座ったのだろう。集中出来ず、目を開けると、ネクタイの色的に1年生らしい。深緑の短髪で、黒縁の眼鏡をかけている。
「ぇっと、……はじめまして、?」と俺を見つめる紅色に挨拶する。
見ているものを魅了するような綺麗な赤、俺と真逆の色。綺麗だと思う。初心で、何も知らなそうな顔で。一目惚れと言えばそうかもしれない。だから、俺色に染め上げたいし、俺のものにしたい。
これからはもっと頻繁に図書室に来よう。俺が初めて手に入れたいと思ったモノを見つけてしまったから。