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これが意味するものは一体何なのか分からないけれど、今まで以上に身の危険を感じてしまう。
「何でそんなとこで突っ立ってんの?」
「こ、小谷くん……」
「また何かあったのか?」
「こ、これ……」
部屋着に着替えた小谷くんが部屋から出て来ると、先程の写真を手渡した。
「何だよ、これ。どこにあった?」
「ドアの間に挟まってて……」
「わざわざアパートの中に入って来たって事か」
「写真まで撮られてるなんて……」
「完全にストーカーだな」
「どうしよう、警察に相談した方がいいのかな?」
「この程度じゃ、取り合ってはくれなさそうだな」
「……そっか」
「とりあえず、中で話すぞ」
「う、うん」
小谷くんに促された私は鍵を開けて小谷くんと共に部屋の中へ入った。
「正直、このままだと相手の行動はエスカレートする一方だと思う」
中に入り、買って来た食材をしまい終わった私が小谷くんの向かいに座るや否や、彼はそう口にする。
「どうすれば……いいのかな」
そんな事を聞かれても困るだろうに、私の言葉を聞いた小谷くんは本気で悩んでくれる。
「……まず一番に、セキュリティの良いアパートとかマンションに引っ越すか、実家に戻るのがいいと思う……けど、それは無理だろ?」
「……うん」
確かに、こんなボロアパートでは鍵を閉めただけでは安心出来そうにないし、アパートの周りは暗くて危険も伴う。
でも、金銭的に引っ越す余裕なんてないし実家に頼る事も難しい。叔父さんに理由を話せば金銭的な援助はしてくれるかもしれないけど、叔母さんはいい顔をしないだろう。
「……そこで、俺に一つ提案がある」
「提案?」
「ここを出て別のアパートを借りて――」
彼の提案とは一体どんな事なのか、次に小谷くんの口から出た言葉は予想外のものだった。
「俺と一緒に住むかだ」
「え? 小谷くんと、一緒に?」
あまりに予想外過ぎて、頭が追いつかない。
「ああ。まぁ、ルームシェアってヤツだな」
「ルームシェア……」
確かに、ルームシェアと言えば今どき驚く事でもないのかもしれない。
(え? でも、同棲……っていうか同居? そりゃ、二回小谷くんと夜を共にしたし、部屋を行き来する仲ではあるけど……)
たまに部屋を行き来するのと毎日生活を共にするのでは全くの別物で、ましてや私たちは異性同士。
「で、でも、小谷くんはいいの? このアパートで困る事はないのに」
「まぁそりゃそうだけど、今のお前の状況知ってて放っておけねぇだろ?」
小谷くんのその言葉に、私の胸はキュンと鳴る。
どうしてこの人は、こんなにも私の事を心配してくれるのだろう。
「このアパートの部屋が広くて部屋がいくつかあればここで一緒に暮らしてもいいけど、それは無理だし」
確かに見知らぬ仲ではないし、関わってしまった以上見て見ぬふりが出来ないだけかもしれないけど、だからって私なんかと一緒に暮らしてもいいだなんて。
「……あの、本当に私と一緒でいいの?」
「俺は構わねぇけど。お前はどうなの?」
そんなの、決まってる。
私に、断る理由なんてないもの。
「私は全然! 寧ろ、有難いです」
「じゃ、決まりだな」
「小谷くん……巻き込んじゃって、本当にごめん」
「お前のせいじゃねぇだろ」
「でも……」
「明日、午前中時間ある?」
「うん。バイトは午後からだから」
「じゃ、部屋探しに行こうぜ。早い方がいいだろうし」
「うん、そうだね」
まさかこんな事になるなんて思いもしなかった。
戸惑いもあるけど、正直嬉しさの方が大きいし、見知らぬ誰かに敵意を向けられている事に恐怖はあるけど、小谷くんが側にいてくれるなら大丈夫な気がした。
「あ、一つ言い忘れてたけど、一緒に住むにあたって絶対に守って欲しい事がある」
「何?」
「無いとは思うけど、絶対、俺の事は好きになるなよ? 相手が誰に限らず俺、恋愛する気ないから」
「な、ならないよ!」
「だよな。お前なら大丈夫だと思ったから提案したんだけど、一応な」
「そ、そっか……」
好きにならない事、そんなの当たり前だと思っていたけど、その言葉を聞いた時、胸の奥がチクリと痛んだ。
だけどその理由は、やっぱり全く分からなかった。