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小谷くんと、ルームシェアする。
そう決まってから早々に新たな住まいを決めた私たち。
どうにか夏休み中に引越しまで済ませようと数軒内見しただけで決めてしまった新居だけど、前のアパートに比べれば何百倍もよく見える。
「やっぱりいいね、お風呂付いてるって」
「普通はあるだろ」
「まあ、そうだよね」
「トイレも洗濯も共用じゃないから楽だよな」
「だよね!」
夏休み最後の週末、私たちは新たな住まいへと越してきた。
お互いそこまで荷物があった訳でもないから引越しもそれ程大変ではなく、業者の人は早々に引き上げて行った。
「丁度いい物件があって良かったな」
「うん。時期が良かったのかな? まぁ駅から少し遠くなっちゃったけど、セキュリティの面では安心だし」
「あのボロアパートに比べれば全てが良く見える。ただ、家賃が高いけど折半だからまだ何とかなるしな」
「……本当に、色々とありがとう。小谷くんが居てくれて良かったよ」
「まだあの件は解決してねぇんだから、油断だけはするなよ?」
「分かってます」
前のアパートからは離れた場所が新たな新居だし、今回は人や車通りも多くて賑やかな場所にあるアパートを選んだ私たち。
リビングはそこそこの広さがあって、洋室も付いている1LDK。そして何より、お風呂とトイレが別れている。何とも魅力的な物件だと思う。
ただ、家賃はやっぱり高いけれど、二人で折半だから良いかと決めた。
本当は洋室が二部屋ある方が良かったのだけど、そうなると家賃は更に跳ね上がってしまうので断念。
小谷くんはリビングで過ごすからと1LDKにして洋室は私の部屋として使わせて貰う事になった。
「……引っ越しても変な手紙が来たらどうしよう……」
「まぁ、後を付けられれば場所は特定されるから避けようがないな」
「だよね」
「お前さ、居酒屋のバイト辞めたら?」
「え?」
「俺が思うに、居酒屋に来てる客に狙われてたりするんじゃねぇの?」
「そうかな?」
「ああいうとこは酔っ払い相手だし、時間も深夜になるし、女はリスク高いんじゃねぇの?」
「うーん、言われてみれば確かに」
彼の言う通り、勤務中に口説かれたり、裏口で待ち伏せされたりという被害を受ける女性従業員もいたりするけど、私の場合はそんな事は無かったし、夜に働けるところは時給も良いから辞めるというのは少し迷ってしまう。
「でも、私は特に被害は無かったけど……」
「付け狙われたり、変な手紙入れて来たりってのが被害かもしれねぇじゃん」
「た、確かに……」
「まぁ関係なしにしても、日付変わらない時間に終われるとこで働いた方が良いと思う」
「でも、やっぱり深夜の方が稼げるし」
「確かに金も大切だけど、危険なリスクを犯してまでやる事じゃねぇだろ?」
それは分かってる。でも、やっぱりお金はあればあるだけ困らないし、引っ越して家賃も上がる今、これまで以上に稼がなくてはいけないのが現状だ。
そんな葛藤をしていた私を見兼ねてか、小谷くんがこう言葉を掛けてくれた。
「俺たちは家族でも恋人でもねぇけど一緒に住むにあたって、それに近い存在になる。助け合えばいいんだから、一人で無理すんなよ」
そんな、優しい言葉を。
「バイト減らす分、由井には家の事をやって貰えると助かるんだけど」
しかも、私がこれ以上お金の事で気を遣わないよう、そんな提案までしてくれる。
そこまで言われてしまうと、私はもう自分の意見ばかりを押し通す訳にはいかないから、
「……分かった。居酒屋は辞めるよ。それと、家事は基本私がやる。金銭面では少し迷惑掛けちゃうけど、よろしくお願いします」
居酒屋のバイトは素直に辞める事に決めた。
彼の『助け合えばいいんだから、一人で無理すんな』という言葉が、凄く嬉しかった。
私は一人だし、他人に頼らずに生きる力を身に付けるのが普通だと思ってたから。
(でも、居酒屋は辞めるとして、本屋だけじゃ困るから短期でやってるファミレス、このまま雇ってもらえるか聞いてみよう)
今後の事を考えながら、途中だった作業を再開させた私たち。
陽が暮れる頃まで各々作業をした後、今日は疲れたし新居での生活初日という事で、普段は絶対頼まないピザのデリバリーをして二人での新生活をお祝いした。