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『この世界には「呪空」と呼ばれている
ものが流れている。
呪空は練ることで様々な形にできたり
固められたり、薄めて柔らかくしたり
生地のようなものだと言われている。
そんな特性からメリットにばかり目が行く
ことが多いが、「呪空」は500年前の
とある学者により、本来は存在しない
世界の自然規律を無視したものである
とも言われていて、その説を後押しする
ように、呪空が動物や、物体に様々な
異常をもたらすことは頻繁にある。
「禁忌生命管理局」は
呪空による突然変異の影響を受けた
生命、物体を迅速且つ、安全に
収容、処理を行うことを目的とした
組織である。
禁忌生命管理局としての最終目標は
以下のものである。
・呪空が人体に及ぼす影響全てを
明らかにする。
・呪空による自然被害を15%以下に抑える
・既に収容済みの1域以上の異常生命
(アブノーマルライフ)を駆逐する。
・禁忌生命体(人間)を保護、または安全、
プライベートの尊重を土台とした監視を
行う。
組織創立から146年も前から立てられていた
目標であるが、どれも達成できずにいる。
また、危険な仕事な上、業務量も過酷と
言われる禁忌生命管理局だが
正社員になることさえ出来れば、将来の
安泰は約束されたようなものであり
兵士のような誇らしい名誉とも言える
そのため現代になるにつれ
禁忌生命管理局への就職希望の増加は
止まることを知らない。』
4番目に発展している都市である
ヴァーデンドルトの小さな家に住む
少女は、可愛らしげに
目を輝かせて
可愛げのない禁忌生命管理局の紹介本
を集中して読んでいた。
「…お母さん、禁忌生命管理局って」
そう言いかけた時
ドンッ!
母親の掌が机を叩き揺らす。
「うるっさいのよ!なんであなたは
そんなに可愛くないの!?」
「か、可愛くない…?」
「そうよ、お父さんが事故で殺されてから
なによ、禁忌生命管理局やら、呪空やら
頭おかしくなったんじゃないの!?」
「いや…それな関係な」
「あるわよ!!あぁもう!!あの人の事
思い出させないで!!どこまで私を
苦しめるつもりなの…!!!」
「…」
「大体ね、そんなんだから幼稚園でも
友達が少ないのよ、楽しく過ごしたいなら
そんな本さっさと燃やしなさい?」
「あっ…!」
そう言って母親はウナの本を奪い取り
暖炉の炎に放り投げた。
「……」
「ふん…」
満足したのか、母親は寝室へ行った。
何がダメなのか、どうして可愛くある
ことが正しいのか。当時のこんな
デタラメな育児では、何も精神的に
成長する糧は得られなかった。
幼稚園の中では孤立していた。
たぶん、周りと頭脳が違ったから
よく昼休みの時間帯に男子数人に囲まれて
いじめられていた。
「お前って、なんでそんなに気持ち悪い
んだよ?」
「…」
「なんか言ったらどうなんだよ」
「何が…気持ち悪いの….」
「は?聞こえない!」
ボソボソと喋る私に腹を立てた男子が
私の頬を叩いた。
「うっ…」
「だいたい、何が禁忌生命管理局だよ。
あそこは選ばれしエリートしか行けない道
であって、お前みたいな泥沼アタオカ女が
目指していいものじゃねぇんだ!」
本来はこんなことを言われれば
腹を立てて言い返すのが筋なんだろう
けど、私はそれすらもする度胸を
持ち合わせたなかった。
ただ、それで良かった。
無駄な労力を消費するような人間になれば
禁忌生命管理局を目指す人間として
務まらないと思ったから。
ただ、目標へ
いつもそうやって自分に言い聞かせて
乗り越えてきた。
目標へ我武者羅に走り抜けば
そのうちこんな所から抜け出せると
脳に思い込ませていた。
脳と心は繋がっているけど、完璧に
連動することない。
私はその考えを利用して
苦痛を
苦難を
悩みを
痛みを
悩みを
その全てを乗り越える
筈だった。
とある冬の日だった。
マフラーを巻いて幼稚園に向かっている
最中のこと
いきなり後ろから重たい体が
飛びかかってきた。
「ぐっ…!?」
飛びかかってきたのは、いつも私なんかと
話をしてくれた大人しい男の子
「お、おい!!」
そう男の子が叫ぶと、物陰から
また数人のいじめっ子が姿を現した。
「みんなで殺すぞ、こんなやつがエリート
を目指すことなんか、あっちゃダメだ!」
「おい、そいつの首を閉めて殺せ!」
そう命令された大人しい男の子は
「え?いや、殺すなんて聞いてな」
そうおどおどしながら言い返すと
「邪魔だ!どけクソ!!」
いじめっ子のひとりがその子を突き飛ばして
私の首を締め始めた。
「うぅ…」
苦しい
こんな所で私の人生って終わるの?
お母さん
助けて
苦しい….
本格的に死を覚悟した。その時
ドスッ
鈍い音がした。
それと同時に私に馬乗りになっていた
男子がのたうち回る。
「ぐがぁぁぁ!!
何すんだよクソ女!!!」
「ぁぁあ…え?ぇ」
私の手には血塗られた氷の塊が握られていた
その瞬間、私は本能的に咄嗟に行動した
のだと悟った。
「嘘だろ?こいつ…そんな」
「は、早く行くぞ、遅れる…!」
その光景をみた男子は全員逃げるように
幼稚園へと走り去って行った。
「はっ….はっ….はっ….」
私は不格好な呼吸をして固まった。
けど、正気に戻った
私はなんてことを…
こんなことをするようなら、禁忌生命管理局の人間になんてなれるわけが無い。
そう思っていた時だった。
「…ご、ごめん!!本当に!!!
本当にッごめんなさい!!!」
大人しい男の子が私に全力で頭を下げた
「…気に病まなくていい」
私のその言葉に男の子はハッと
顔を上げた。
けれど
「ただ、二度と私に話しかけないで。」
自分でも驚いた。
そんな言葉、かけるつもりはなかったし
そもそも誰も恨んじゃいないから。
男の子の顔は絶望に豹変した。
その日は、幼稚園を休んだ。
ずっと家でこの無意識の正体を
考えた。
だけど、考えれば考えるほど
謎は深まるばかり
結局、命が危険にさらされたから
本能的にやってしまったことだろう
と結論づけることにした。
だが、それだけでは
説明が浮かないような出来事が、この先
沢山起こるのであった。