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大造じいさんとガン
著:椋鳩十
五
大造じいさんは、残雪を、自分の家へ連れて帰りました。
そして、傷口に薬を塗り、包帯を巻いて、毎日、たいそう親切に、看病してやりました。
じいさんの、厚い看病のおかげで、残雪の傷は、日に日に、よくなっていきました。
春が近づき、暖かい南の風が、吹き始めるころには、残雪は、すっかり元通りの元気に、なりました。
ある晴れた朝、じいさんは、残雪をカゴに入れて、あの、いつもの沼地へ、連れていきました。
カゴのふたを、開けてやると、残雪は、ゆっくりと、外へ出てきました。
そして、青空を、じっと、見上げました。
北の国へ帰る、ガンの群れの声が、遠くから、聞こえてきます。
残雪は、大きく、つばさを広げました。そのつばさの、白いまじり毛が、朝日に映えて、まばゆいほどに、光っていました。
じいさんは、残雪に向かって、こう語りかけました。
「おい、残雪。おまえのような、りっぱな鳥を、わしは、これまで、見たことがない。おまえは、ただの鳥ではない。ガンの英雄だ。
わしは、もう、おまえを、だまし討ちにするようなことは、絶対に、せんぞ。
来年の冬、また、おまえが、仲間を連れて、ここへやってくるときには、わしも、堂々と、男と男の勝負をしようじゃないか。」
残雪は、じいさんの言葉が、わかったかのように、一度、
「クワーッ。」
と、高く、力強い声で、鳴きました。
そして、力いっぱいに、地面をけって、大空へと、飛び立ちました。
残雪は、みるみるうちに、小さくなっていき、やがて、北の空を飛ぶ、仲間の群れの中に、吸い込まれるようにして、消えていきました。
大造じいさんは、その姿を、いつまでも、いつまでも、まぶしそうに、見送っているのでありました。
大造じいさんとガン 終わり