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「……以上で手術を終了します。」
執刀医の一言とともに、張り詰めていた手術室の空気がふっと緩んだ。
海外大学の教授たちから拍手が起こる。
「Excellent.」
「Beautiful technique.」
英語と日本語が入り混じる賑やかな声が、静かだった手術室へ戻ってくる。
私も小さく息を吐いた。
見ていただけだというのに、肩には思っていた以上の力が入っていたらしい。
「白藤先生、どうでした?」
隣にいた脳神経外科医が笑いかける。
「非常に勉強になりました。」
それだけ答え、私は手術室を後にした。
手術室を出ると、冷房の効いた廊下がやけに静かに感じられた。
ポケットからスマートフォンを取り出す。
電源を入れてすぐに仕事の事務的連絡がスマホのロック画面を埋め尽くす。
それから逃げるように電源を消してまたポケットに戻した。
時刻は午後四時二十分。
思ったより長時間だった。
「…疲れた。」
誰にも聞こえないように呟く。
その瞬間。
コン、と何かが落下する音が静かな廊下に響く。
見れば、胸ポケットに差していたボールペンだった。
手を伸ばして拾おうとする。
―届かない。
指先が急に重くなる。
「…え?」
視界がくらっと大きく傾き、廊下の白い照明が、水面のように滲んでいく。
遠くで誰かが私を呼ぶがその声すら遠くなる。
何を言ってるか理解できぬまま、まるで床がなくなったように、身体が真っ直ぐ落ちていく。
―ぽつり。
頬に、冷たい雫が静かに落ちた。
雨特有の香りと青葉の匂いが鼻腔をくすぐる。
見慣れた灰色の空。
濡れた土の匂い。
静かに揺れる木々。
「……また来たか。」
気づけばここは思考の森だった。
「お疲れさん。」
聞き慣れた声がすして振り返ると、木にもたれて立つ朔がこちらを睨んでいる。
「お前のおかげで公開手術を見る羽目になった
ぞ。」
「悪かった。」
「しかも英語ばっかりだ。」
私は肩をすくめる。
「もう当分聞きたくないね。」
二人揃って笑ってしまう。
だが、その笑みは長くは続かなかい。
朔は静かに私を見つめる。
さっきまでの笑顔が、少しずつ消えていく。
「……なぁ。」
一歩。
また一歩。
雨に濡れた草を踏みしめながら、朔はこちらへ歩いてくる。
気づけば互いの距離は腕一本分しかなかった。
「澪から全部聞いた。」
私は息を止める。
彼に知られてしまったのかもしれない。
「全部、だ。」
次の瞬間。
胸元が強く引き寄せられた。
「っ……。」
朔の指が白衣を強く握り締めている。
「なんで一人で抱え込んだよ…。」
泣きそうなのか声も体も震わせて朔は呟いた。
コメント
1件
わあ…第15話、読み終わりました。手術室の緊張感から一転、廊下で倒れそうになる白藤先生の場面が本当に生々しくて、思わず息を呑みました。そして思考の森での朔くんとの再会。「なんで一人で抱え込んだよ」という声に、こんなに優しく詰め寄られて…私も胸がぎゅっとなりました。お互いを想う気持ちが静かに滲んでいて、とても好きなシーンです。雨鏡光さんの描く距離感の変化が、毎回本当に繊細で素敵ですね。続きが気になります🌷
#ブラフラ
なみゃ
72
skbn
11
て ぃ あ ら 。
2,084
8