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爆豪勝己夢小説
ちょっとだけ大人です
昔、月が照らす中ブランコを漕ぎながら公園でいつも話していた彼のことを思い浮かべる。
あぁ、あの時は幸せだったなと、私に今覆いかぶさってるお客さんと彼を重ねて見つめていた。これが彼だったら良かったのに。彼だったら幸せなのに。そんな願いも虚しく、私は今日も見ず知らずの初めて会った人と夜を過ごす。多分明日も明後日も1年後も変わらない。
公園でいつも一緒にいた彼。彼は公園にいた時と性格はあまり変わってないけれど、姿を変えて今は日本を引っ張っていくヒーローとなっていた。ヒーロー名は『大・爆・殺・神・ダイナマイト』本名は爆豪勝己。彼のことは尊敬してるし凄いと思ってるけれども、ヒーロー名のセンスは壊滅的だと思う。いつもテレビで見る彼、暴言を吐きまくっているけれど強いのは確からしい。あの時公園にいた彼と私は対等だった。確かに彼は中学の時から有名だったけれどそれでも対等だった。今は変わってしまった、天地の差だ、私は落ちぶれて彼は活躍している。
仕事に集中できないほど脳内が彼でいっぱいになっていた。会いたい、話したい、抱きしめたい。9年ほど会っていないけれど、彼への思いは変わらなかった。ただただ思いが強くなっていくだけだった。
仕事に集中しようと頭を振る。私の仕事は見ず知らずの初めて会った人と1晩過ごす事だった。夜を買ってくださった人と一緒に寝たり一晩話したり大人な事をしたりする仕事だ。周りの人には嫌がられる仕事だけれど私にはこれしかなかった。どうしたのと優しい声で喋りかけてくる男性はメガネをかけて知的な見た目の割に女性の一夜を買うというギャップの強い人だった。いや別にと答えて彼の首に手を回す、互いの唇を重ねようとしたその瞬間だった。 ドンッと爆発音が聞こえてドアが吹き飛んでいた。おい、と声をかけられる。どこか聞いたことがあるような、懐かしいようなそんな声だった。
「おまえ、ンなとこで何やってンだ」
目が涙で霞む。会えた嬉しさと、こんな所を見られた恥ずかしさと。頭がいっぱいいっぱいになっているころ腕を引っ張られ彼に抱き寄せられていた。お客さんは首を振って俺に罪は無いんだと命乞いをしている。多分ヴィランだったのだろう。優しい顔してなんて極悪非道なんだ。そう思ったけれど、ヴィランを相手している私が言えることではなかった。
足音が沢山聞こえる。警察が大・爆・殺・神・ダイナマイトの後を追って入ってきたようだ。私が今晩過ごすはずだった相手は手錠をされて歩いていった。私も事情聴取をされに警察署へ向かった。
警察署に行く道中を私は変な気持ちでずっと過ごしていた。会えて嬉しいけれども会いたくは無かった。思いが報われた気がしてすっきりしたけれどもまた悩みが増えた。そんな感覚。
事情聴取が終わって帰っていいと言われた。
警察署を出れば出入口にいるのはとあるヒーローだった。口の悪いヒーロー。おい、乗れと言われて彼の車に案内された。嫌だと言ったけれども彼の手は私の腕を掴んで離してくれなかった。握られた場所は少し痛く、彼が強く握りしめたことが分かってしまった。
「わ、私後部座席座りたい」
「前も後ろも変わんねーよ」
「後ろふわふわじゃん!!」
昔と変わらない感じで話す。
気まづさなんて何も無かったかのように。
この空白の9年間が無かったかのように。
夜は毎日外で過ごしていたため、自分の家で夜を過ごすのは初めてだった。見慣れてるけど見慣れない家に今日はまた見慣れない人が居る。
お茶でも飲ませようかと用意するけどいらねェと断られた。
「おまえ、ンなとこで何やってたんだ?」
「仕事だよ。」
ほーんっと興味無さそうに言った。ここまで興味を持たれないのは逆に悲しいなと思う。
「ていうか、帰らないの。仕事疲れてるでしょ、帰った方がいいよ。」
「おれに早く帰れって言ってんのか?それ」
「誰かいたら寝れないの!仕方ないでしょ」
「誰も居なくても寝れねェくせによぉ」
バレていたらしい。やっぱりコイツは勘が鋭い。そうだ私は寝れない。朝も夜も昼も寝れない。隈は化粧で隠しているけれど、毎日毎日寝れなくて困っていたのだ。
「おまえが寝るまでおれも寝ねェ」
えぇ、困ったものだ。寝ようとしても寝れないものは仕方ない。じゃあ話してよと言ってテーブルを挟んだ2人の雑談ははじまった。中学の話、高校での話、ヒーローになったあとの話。沢山話したけれど眠気はやはり来なかった。
「仕事って、どんな仕事だ」
やはりきた、この質問。なんと答えるか悩んでいた。どんな仕事か正直に答えたら嫌われてしまうだろう。それだけは避けたかった。
「お客さんと一晩過ごす仕事だよ」
「一晩なにすんだって聞ぃてんだろ」
「それは、頼まれたことを色々と」
「なんで、ンな仕事してんだぁ?」
その質問には答えられなかった。理由を言ったら笑われそうで、嫌われそうで、離れていってしまうそうで嫌だった。『うーん』と悩んでいる時、目の前にお金が置かれた。これで足りんだろと言って置かれたそれにはお互い手をつけず、テーブルの上にぽつりと佇んでいた。
「今晩は俺が買うつってんだ。 客には嘘つけねェもんな?」
ズルい。嘘はつけなくなってしまった。全部話すしか無くなってしまった。
「分かったよ。でもこれは受け取れない。友達割りってことでどう?」
「…おう。」
そういって私はゆっくりと話し始めた。
私は誰かにこれ以上ないほど愛されたいこと。
私は誰かからの1番が欲しくてこの仕事を始めたこと。結局1番なんて貰えなくて寂しい毎日を過ごしていたこと。勝己に会いたかったこと。そんなことを話した。
「この数年間、おまえが何やってんのか考えてたけどよぉ、ンなアホみてェなことしてたんだな」
お叱りを受けたらしい。ちょっとだけ怒ってた雰囲気だった。アホみたいなことやってたのは本当だから反論する気なんて起きなかった。
「はは、本当にその通りですネー」
分かっていても否定されるのは少しだけ悲しかった。
「よし、!昔話終わりだよ。私眠くなってきたから大丈夫。また会お」
そういってぐいぐいと彼を玄関へ押そうとする。でも、男女の差なのかヒーローと一般人の差なのか分からないけれど身体はビクともしなかった。
「客に帰れっつーのはどーいう神経してんだぁ?それにおまえ寝れねェくせに嘘ついてんじゃねェよ。」
「…はは。嘘じゃないよ、疑うのはやめてもらっていいかな〜?」
「おれが金出して買ってんだわ、何しようとおれの勝手だよなぁ? 」
勝己ってこんな性格だったっけ。
自分にしか興味なくて誰かの為にとかそんなことしない人だったはず。経った年月が長すぎて性格は丸ごと変わってしまったのだろうか。
そもそも勝己がお金で夜を買うという事すらおかしいのだ。もしかしたら、少し私に興味があるのかもと期待して舞い上がってしまった。
「え、なにそれ。何する気」
「テメェが考えてる様な事はしねェよ」
「は、はぁ?分かってんですけど!! 」
こっち来いと言われて引っ張られてたどり着いたのは寝室。やっぱりコイツと思って睨むと、ちげェわ!と言われてベッドに座らされた。
「寝んだわ。お前も寝ろ」
「あ、ほんとに違うんですねー」
「たりめぇだわ。」
狭いベッドの上で二人逆の方向を見て寝ていた。勝己は体が大きくなっていて、成長を感じてた。シングルベッドで勝己と二人で寝るのは狭すぎて落っこちそうだった。それでもベッドからは出たくなかった。少しだけ沈黙が流れた。寝るには最適の環境だったけれども、この夜が終わったらまたはなればなれになりそうで、寂しくてずっと話していたかった。
「ねぇ、私に会えて嬉しかった?」
沈黙を切り裂いてそう質問したけれど彼は答えなかった。頷くぐらいして欲しかったけれどもそれすらしなかった。さっき抱いたあの期待はあっさりと崩れ落ちて言った。それから20秒後だろうか。それぐらい時間が経ったあと彼がこちらに向きを変えて言った。
「…おう」
そうぽつりと呟いた。涙が出そうだった。
あぁどれだけ時が経ってもどれだけ私自身が変わっても私を好きでいてくれる人はここに居たんだ。そう思った。涙が止まらなかった。
「なんでかは知らねェけどよぉ、今日ずっとおれらしくねェことばっかやってんだわ。」
「それ、私のこと大好きなだけじゃん。」
「ンなわけねぇだろ」
「間違いないし」
「…まぁ、勘違いしときゃァいいけどよぉ、
おまえあの仕事辞めろ 」
「え、なんで?」
「ヴィラン相手にすんのは危ねぇだろうが」
「それはそうだけど、収入源が。他にバイトも何もしてないし」
「おまえなんかおれが毎晩買ってやる 」
「…つーか、お前が他のやつに買われんのは、なんか気持ちわりぃんだよ。だから買わせろ。」
嬉しくなった。涙はやっぱり止まらない。逆に溢れ出るばかりだった。彼の鼓動が心地よく私の耳に届く。腐れてしまった私だけれど勝己のことを好きになっていいのだろうか。もう一度勝己と関わっていいのだろうか。きっと勝己はいいって言ってくれるに違いないと信じて私は勝己の方を向いた。小っ恥ずかしくてなったのか頭をかいていた。
「友達割りはなしだよ?」
「ずりぃ。」
「うそうそ、逆に私が買いたいぐらいだもん」
「そーかよ。」
「抱きついていい?」
「勝手にしろ」
私が抱き締めると、勝己も抱き締め返してくれた。強く、 でも柔らかくそんな抱き締め方。
その夜は勝己の優しさと匂いと腕と、色んなものに包まれ深い深い眠りに落ちた。
続くかも。
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