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考えるべきはルカさんを生かす理由でしょうか?
どう足掻いてもルカさんが取った行動を正当化する事は出来ませんので、その線での弁解は不可能とみていいでしょう。
普通に考えれば上司からの電話に出て、そのまま自慰行為を続けるなんて異常な行動を取る者はおりません。
自慰行為をするなとは言いませんよ。人間であり、生物である以上そういった欲はありますからね。でもね、するならするで電話には出ないでいいじゃないですか?
仮に電話に出るなら止めましょう。なんでそのまま自慰行為を続ける選択を選ぶんですか? 明らかに異常な行動ですよ。
電話の相手は上司であり、かつ異性の相手です。気心の知れた相手でもドン引きの行為をさも当然のように行うのでしょうか?
私以外の男性に行っていたら即通報からの逮捕です。元の世界を参考に男女逆にすればどれだけ気持ち悪いかが分かるでしょう。
そういった行為がしたいのであれば、夜の専門店に通うのをオススメします。今の世界でそれが可能かどうかは分からないですがね。
話が逸れました。
珠魅さんはルカさんが嫌いだから殺そうとしている訳ではありません。……いえ、嫌悪感丸出しの顔を見ると嫌ってはいますね。
それを踏まえても、彼女たちは私情ではなく組織を───ボスである私を思って行動してくれています。
そんな彼女たちに、ルカさんを生かす理由を突きつけなければいけないのですが……些か不利すぎやしませんか?
どんな凄腕の弁護士でもこの件の擁護は難しい気がします。それでも私はやらなければならない。
やはりアビス教との戦いを想定した場合のルカさんの重要性で攻めるしかないでしょうか?
今や世界最大の宗教となったアビス教はちょっとやそっとじゃ揺らがないほど大きな存在です。そんな相手に百数名の小さな組織が立ち向かうのは無謀の一言に尽きます。
真正面からやり合えば虫のように潰されるのは関の山です。実力者を揃えた自負はありますが、それでも数には勝てないのは歴史が証明しています。
正攻法では決して勝てない。
策を講じても簡単ではない。
僅かな可能性すら浮かび上がらないほど強大な敵。その唯一の対抗手段がルカさんが持つ魔道具───『腐心』なのです。
ある特定の条件下で『腐心』を使用すれば、如何に強大な組織であっても綻びが生まれる。その小さな綻びを私たちは狙って突崩す。
裏世界に台頭してきたある組織に対してシュミレーションと称して、策を講じて実行しました。その結果で得たものは私たち想像以上の成果でしたね。
『腐心』によって理性のストッパーを壊された者は欲に突き動かされるままに組織の事をなど度外視して行動し、次々と警察や守護戦士によって捕らえられました。
求心力が無くなれば無くなるほど『腐心』はより力を発揮します。あらゆる組織で組織として形が成り立つのは一つの確固たる芯があるからです。
宗教であれば『救い』。社会人であれば『お金』あるいは『地位』。私の組織で言えばそれは『アビス教への怨恨』または『ボスへの好意』がそれに当たります。
所属する者が求める者を与えてこそ、組織はより強い結束を持つ。逆を言えば、それさえ奪えば組織は容易く瓦解します。シュミレーションで潰した組織が正にそれです。
『裏世界を牛耳る』なんて野望を掲げて台頭してきた組織にはボスへの異常なまでの狂信がありました。それを『腐心』によって崩しました。
まず手始めにボスに対しての忠誠心の低い者をターゲットとし、欲を刺激して行動を起こさせる。それを繰り返すと僅かですが、組織のボスでも心が揺らぐ。
『腐心』は心が強い者にはあまり効力を発揮しませんが、心が弱い者には効果絶大です。なにせ自制心がありませんからね。欲を抑える事が出来なくなります。
心が揺らいだボスは『腐心』によって欲を刺激され皆の理想像と違う姿を取ってしまった。強く気高いボスの姿は消えてなくなり、女を漁り麻薬に手を出すほどに落ちぶれた。ちなみに世界が変わる前の話です。
そして組織に所属する者たちは夢から醒める。ボスへの狂信はなくなり、このまま付いていっていいのかと迷ってしまう。
一度懐疑の目を向けてしまえばその時点で『腐心』のターゲットです。心が弱い者ほど欲は刺激される。
欲のままに組織を裏切る者が出てくれば、所属する者は組織に対する懐疑の目を向けてしまう。そうすればまた……裏切り者が裏切り者を生み出し続ける現象となる。
『腐心』によって欲を刺激された者は怒りや憎しみすらコントロール出来ず、その感情のままに行動します。裏切りを許せない者も突然出てくる訳で、そうなれば殺しに発展するのは時間の問題でした。
組織の者同士で殺し合いが行われれば誰もが信じられる者を失います。あっという間に組織は疑心暗鬼となり、仲間同士で激しく殺し合い、最後は公の力で多くが逮捕されて消滅しました。
その結果を見て私たちは確信しましたね。この方法であればアビス教であっても通用すると。
全ての要はルカさんが所持し、現状は彼女のみが使用できる魔道具『腐心』。
やはり攻めるならコレですね。
「せやけど、そこの猫殺してもええの?あの魔道具使えはるのはそこのクソ猫だけやけど」
「問題ないやろ。ミリーはんによると魔道具との相性が重要らしいけど、今の組織にいないだけで探せば見つかるって話やで」
「なら、大丈夫やね!」
そうこうしている間にも壁に追い詰められたルカさんに双剣を構えたお二人がにじり寄ります。
さて、困りましたね。説得する為の材料を目の前で取り上げられました。
まさか、うちの研究者であるミリーさんがそのような答えを出していたとは……。私に報告が上がってないところをみるとまだ確証は得ていないのでしょうけど、珠魅さんに話したところを見ると自信はあるのでしょう。
なるほど……ルカさんの代わりは別にいるかも知れない訳ですね。なら無理に救わなくてもいいのでは?
頭の中にこれまでのルカさんの失態の数々と、それに伴う損失、その度に様々な場所に足を運んでは頭を下げる光景を思い出しました。もう、いいんじゃないですかね?
「そんにゃところです突っ立ってないで、にゃーの事を助けて欲しいにゃ、ボス!!!」
このまま傍観者のまま成り行きを眺めていようかと思っておりましたが、どうやらルカさんに気付かれていたようですね。
部屋の隅で壁をバンバンと叩きながら声をあげる姿は生きる為にに足掻く生物の生存本能を見ているようです。
「ボス!!!」
「来てはったんですか!」
ルカさんの声でようやく私の存在に気付いたのか、ルカさんの視線を辿るように私へと顔を向けます。
珠里さんは私がこの場には来ないと思ってたようですね。確かに彼女に送った文脈ではそう捉えられても仕方ないものでした。
とにもかくにも、傍観者ではいられなくなったのでしたくはありませんがこの場の仲裁役になると致しましょう。
「剣を納めてくれますか?珠魅さん、珠里さん」
「 「でも!」」
「お願いします」
双子らしく息のあった声で渋りましが、私が強くお願いすれば渋々といった感じで剣を納めました。お二人の気持ちはよく分かりますよ。
二人が剣を納めた瞬間に勝ち誇った顔をしているルカさんを見れば誰もが殺してやりたいって思います。本当に調子に乗ってますね。
「ありがとうございます」
「いいですか、あの猫放っておいて」
「ボスの為にならないと思うで」
腰に手を当ててふんぞり返っているルカさんを見れば、お二人の懸念も理解出来ます。このまま好きなようにさせていれば、いずれ取り返しのつかない事態に陥るでしょう。
「その時は殺しますよ……私の手で」
「にゃー!!」
本気の殺気を込めてルカさんを睨みつければ部屋の隅で頭を抱えて縮まってしまいました。お尻を突き出すように出していますが、微塵もエロく感じませんね。
「という訳で今は抑えてください。私からのお願いです」
「分かりました……。せやけど、あの猫の代わりが見つかったらかまんよな?」
「うちも探すからその時は許可欲しいんよ」
汚らわしいモノでの見るような視線がお二人からルカさんへと注がれていますね。ルカさん以外に『腐心』を使える者が見つかれば……問題児である彼女に拘る必要はありません。
「その時は構いませんよ。処理してください」
「よっしゃ!言質とったで!」
「その時は殺してやるから覚悟しとき!!」
双子からの殺気を浴びてルカさんが子鹿のように震えています。その手に持つアダルトグッズがぐにゃぐにゃと動いているのはシュールですね。
「にゃー!!!!」
「殺されたくなかったら日頃の行いを反省しなさい。私は別にルカさんの事を嫌っている訳ではありません。どうか私に貴女を殺させないでください」
「にゃー」
ピタンと力なく倒れる尻尾と垂れた猫耳から彼女が本気で落ち込んでいるのが分かりました。その姿を見て溜飲が下げったのが双子は満足そうに笑っておられます。
無事にこの場を治める事が出来たようで何よりです。
「終わったのかい?」
「ええ」
事の成り行きを役目を真っ当しながら見ておられたレヴィ様から声がかかったので、彼女の元まで歩み寄ります。
レヴィ様に抑え込まれた女性は既に抗う気配はなく、疲れきった表情で寝転んでいました。
「お話はこの後しますか?」
「いや、またの機会の方がいいと思う」
私に向けられる同情の眼差し。そして視線が部屋の入口へと向けられている。
レヴィ様の視線の先を追うように振り返るとそこには見覚えのある女性の姿がありました。
「これはいったいどういう状況なのかしら?」
大きな胸が特徴の妙齢の女性───桐生院様が額に青筋を浮かべながら申します。その姿を、声を聞いた瞬間に蓄積していた胃のダメージがいっきに押し寄せてきて気持ち悪くなりました。
これがボスとしての責任ですか。
荒れ果てた惨状は既に言い訳のしようがありません。
「ワタシからの話はこの手紙に全て書き写してある。時間がある時に読んで欲しい」
「レヴィさま?」
私の肩にポンと手を置いたレヴィ様は私に分厚めの封筒を渡すと手を振りながらその場から離れていきます。関係ないから帰るおつもりですか? あ、桐生院様もそのまま通すのですね……。
そうですよね。お目当ての相手はレヴィ様ではなく私ですもんね。
「説明してくれる、夏樹君?」
「はい」
いつか胃に穴が空いて倒れる未来を幻視しました。
「緑茶が胃にしみますね」
窓の外に浮かぶ月を見ながら口にした緑茶の温かさが胃全体に広がっていくのが心地よいです。今のところこの緑茶だけですね。私の胃を労わってくれるのは。
「本当に今日は色々とありました」
昨日のダンジョンの探索が薄く感じるほどに、今日は濃い一日を過ごしました。ここまで胃に優しくない一日というのも久しぶりですね。
ルカさんと初めて会った時もこんな感じでしたっけ?
そう考えると私の胃痛の殆どはルカさんによるものですね。いやはや……|切り札《ジョーカー》でなければとっくに切り捨てているゴミ札ですよ、まったく。
「私らしくない……」
ついつい毒づいてしまいましたが、それもまた仕方のないこと。今回の騒動で及んだ被害総額は三桁億に届きます。組織の資金は潤沢ですので払えない事はありませんが手痛い出費となる……予定でした。
部屋の惨状を見て大変お怒りになっておられた桐生院様ですが、何を思ったのか唐突に怒りを治め私に一つの提案してきました。
『後日で構わないのだけど、お互いの日程が合う時に夏樹君の時間を一日くれないかしら?』
『一日ですか?』
『ええ。きっちり一日ね。朝から夜まで、わたくしと一緒に過ごしてくれません?』
その時の桐生院様が一瞬見せた、いやらしい顔が何を企んでいるのかを私に悟らせました。断ることは簡単で、その場合は被害総額が補填するだけで済むでしょう。
ただこの場合ですと、私と桐生院様との関係にしこりが残る結果になるでしょうね。今回の被害によって壊れた物品の中にはもう二度と手に入らないものもございました。
桐生院様のお気に入りの品も綺麗に壊れておりました。それに桐生院様にはお金は腐るほどあります。お金で解決なんてものは、彼女からすれば面白くないものです。
『分かりました。では、予定が合う日に一緒に過ごしましょう。桐生院様とは良き関係を築いていきたいので』
『しゃっ!おらぁ! ……っと。ではまたわたくしの方でスケジュールを調整しておきますね。夏樹君との約束……楽しみにしてます』
というやり取りの背景で双子がルカさんのお尻を蹴り上げていたりする、カオスの空間で桐生院様との約束は結ばれました。
ガッツポーズして喜んでいる桐生院様から邪な気配を感じましたが、受けざる得ない状況でした。
それを作り出した張本人は双子によって制裁を受けているので、ひとまずこの思いは心の奥底にしまうとしましょう。
というのが先の騒動の顛末です。事は無事に治まりましたので、今はこうしてゆっくりと月を見ながら緑茶を飲めているわけです。
「それにしてもこれは手紙と呼ぶには些か、量が多くはありませんがレヴィ様?」
湯呑みに入った緑茶をデスクの上に置いてから、無造作に置かれたレヴィ様の手紙に視線を落とします。
そこにあったのは手紙と呼ぶには些か分厚い書類の束。原稿用紙などと呼ばれた方が納得する分厚さですね。手紙じゃなくて直筆の作品か何かじゃないですか?
流石に読む気も失せる量ですが、レヴィ様が話したかった内容がこの手紙に込められているそうです。私の中に残る疑問の答えを出す為にも、この量の手紙に目を通す必要がある訳ですと。
「おや?」
手紙の字の癖からレヴィ様が書いたものであることは一目で分かりましたが、文章に違和感がありますね。普段とは明らかに口調の違う文面。
砕けた言葉遣いとでも言いましょう。普段のレヴィ様からすれば考えられないほど軽い口調で、彼女の言葉が並べられております。
最初の一文では先日の件の謝罪が。それからどうしてこのような手紙を書くに至ったかの経緯が長々と書かれていましたが、要約すると『レヴィ様の隠している事を話したい』的な内容でした。
そして、大事な話であると強調するように他の文字よりも大きく書かれた文章が私の目を引きました。
『信じ難い話だと思うけど、落ち着いて聞いて欲しい。オレたちが生きているこの世界はゲームの世界なんだ』