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ふなの🍬
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NARI
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付き合い始めて一週間が経った。
ヨンスと菊の間には、妙なぎこちなさが生まれていた。
付き合う前の方が距離近かったんじゃないか、というくらいには。
「……菊」
「なんですか」
「なんでそんな離れて歩いてんだぜ?」
放課後の帰り道。
ヨンスが不満そうに言う。
対する菊は、一歩半ぶん距離を空けたまま目を逸らした。
「別に普通です」
「普通じゃないんだぜ。付き合う前の方が近かった」
「…それはあなたが近すぎたんです」
付き合ってしまったせいで、逆に全部を意識してしまう。
手が触れそうになるだけで緊張するし、“恋人”という単語を思い出すだけで顔が熱い。
ヨンスはそんな菊を見て、むぅ、と頬を膨らませた。
「菊、最近冷たくね?」
「冷たくないです」
「冷たい」
「冷たくない」
「目合わせないし」
「…ちゃんと見てますよ」
「今逸らしたんだぜ!?」
うるさい。
けれど、その騒がしさに少し安心する自分もいた。
コンビニに寄り、いつものように店横のベンチへ座る。
周辺はいつの間にか人通りが途絶え、束の間
、まるで世界に二人きりになったみたいだった。
夕方の風は少し涼しくて、隣に座るヨンスの肩が時々触れた。
そのたびに菊は落ち着かなくなる。
「なぁ」
「はい」
「付き合ったのにさ」
ヨンスが缶ジュースを揺らしながら言う。
「全然恋人っぽくなくね?」
どく、と心臓が跳ねた。
「……いや、じゅうぶんだと思いますが」
「えー」
「これ以上何を」
「いやなんかこう……」
ヨンスは言葉を探すみたいに視線を上げた。
「もっといちゃいちゃしたくない?」
「ぶっ」
菊は危うくお茶を吹きそうになった。
「あなたは突然そういうことを…!」
「だって彼氏だし」
「だからって!」
顔が熱い。
ヨンスはそんな反応を見て笑っていたが、ふと静かになった。
「……俺、さ、」
その声色に、菊は少しだけ目を瞬く。
「ほんとは今、めちゃくちゃ緊張してる」
「…え」
予想外だった。
ヨンスは照れ隠しみたいに笑う。
「菊のこと好きすぎて、逆にどうしたらいいかわかんないんだぜ」
その一言が、まともに胸へ刺さる。
菊は完全に黙り込んだ。
ヨンスはそんな菊をちらっと見る。
「…引いた?」
「ひ、引いてません…」
「よかった」
そう言って笑ったあと、ヨンスは少しだけ真面目な顔になった。
「なぁ菊」
「…はい」
「キスとか、してみたいって思う?」
一瞬、思考が止まる。
周囲の音が遠くなった気がした。
「………」
「………」
ヨンスも、聞いてから急に恥ずかしくなったらしい。
「あーいや、今のなしでも」
「…思わなくは、ないです」
「え」
今度はヨンスが固まる番だった。
菊は俯いたまま、小さく続ける。
「一応恋人、ですし…」
そこまで言ってから、自分で恥ずかしくなる。
消えたい。
だが隣から、やけに静かな声が落ちてきた。
「…菊」
「……」
「今、俺の顔見て」
「無理です!」
即答だった。
ヨンスが吹き出す。
「無理ってなんだぜ」
「無理なものは無理です」
ヨンスの声がやけに近い。
「ちょっとだけ」
「嫌です」
「…お願い」
その言い方が妙にずるかった。
菊は恐る恐る顔を上げ、隣を向く。
するとすぐ近くに、ヨンスの顔があった。
「っ!?」
思わず肩が跳ねる。
ヨンスも緊張しているのか、珍しく真っ赤だった。
「……ほんとにしてみる?キス…」
「い、今さら聞くんですか」
「だって嫌だったらやだし」
その言葉に、菊は少しだけ目を見開く。
ああ、この人は。
こういうところでちゃんと待ってくれる。
だから、ずるい。
「……嫌では、ありません」
小さく答えると、ヨンスが息を飲んだ。
そして。
そっ と。
触れるだけみたいなキスが落ちてくる。
ほんの一瞬だった。
なのに頭が真っ白になる。
離れたあと、二人とも数秒固まる。
「………」
「………」
先に限界を迎えたのはヨンスだった。
「無理!!!!」
突然頭を抱える。
「心臓やばいんだぜ!?」
「大声を出さないでください…!」
「いやだって今の!」
「〜〜〜っ」
菊も顔を覆った。
熱い。
恥ずかしい。
でも。
嫌じゃない。
胸の奥がじわじわ熱くて落ち着かなかった。
するとヨンスが再び顔を近付けてきて、そっと菊の袖を引く。
「…あのさ」
「…はい」
「もう一回していい?」
菊はしばらく黙ったあと、真っ赤なまま小さく呟いた。
「…一回だけですよ」
「やった」
ヨンスは嬉しそうに笑った。
*
帰り道。
並んで歩く二人は、さっきまでより ほんの少しだけ距離が近い。
しばらく歩いたところで、ヨンスが隣から声をかけた。
「…菊」
「なんですか」
「帰るまで、手ぇ繋いでていい?」
「……」
また顔が熱くなる。
けれど、今度は逃げなかった。
「…仕方ないですね」
差し出された手に、素直にそっと自分の手を重ねる。
ヨンスが顔をほころばせた。
「へへ。恋人っぽいんだぜ!」
「…声大きいですって」
そう言いながらも、菊は手を離さなかった。
夕暮れの帰り道。
付き合い始めて一週間。
二人はようやく、少しだけ恋人らしくなった。
fin. (…for now)
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