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莉子と芽衣コンビ。
凄まじい速さで第9層まで下りてきていた。
「よぉし! この階層に六駆くんがいるはずだよ! さあ、探そー!!」
「みみっ! 芽衣も頑張るです! 六駆師匠を見つけて、パーティーの平穏を取り戻すです!!」
2人とも、クララの事も探してあげてくれ。
さらに付言すると、既に六駆とクララの姿はこの階層にはない。
彼らは時間にして30分前に次の階層へと下りて行った。
これはイドクロア持ちのモンスターを発見して叩きのめしていたため、六駆にしては進行速度が遅くなったのだ。
なお、莉子と芽衣は第6層から第9層までだいたい2時間程度で駆け下りている。
これは通常の探索員のレベルで考えると、ちょっと異常なスピードである。
しかも彼女たちは現在2人体制。
それだけ師匠に会いたい弟子の感情が暴走、もとい、爆発、やっぱり暴走した結果なのだが、とりあえずクララの事もたまにでいいから思い出してあげてください。
「みみみっ! 莉子さん、莉子さん! 大きなゴリラみたいなのが出たです!!」
「え? あ、うん。ただのジェネラルコングだね!」
ジェネラルコングは先月までダンジョンのモンスターランキング100に入っていた、凶悪な怪物である。
「ただの」で片づける手合いではない。
4本の腕からは強力な殴打が繰り出され、動きも素早く、なおかつ硬い。
特に強力なのは4本の腕を重ねて撃つ風の砲弾。
その形状は逆神流の『旋風破』に近いものがあり、威力も充分な欲張りセット。
「もぉぉ! 邪魔しないで! せぇぇぇのっ! 『苺光閃』っ!!」
散々「こいつ強いですよ」と説明したジェネラルコングを一瞬で焼き払う莉子さん。
『苺光閃』はジェネラルコングの胴体に風穴をあけて、ついでにその後ろにある外壁に叩きつけられた体を十字に焼き切った。
莉子の動きは師匠そのもの。
ついにそんなステージにまでやって来てしまったか。
「みみっ……。芽衣は莉子さんの指示に従うです。姉弟子の強さを再確認したです」
芽衣が勝手に心を折ってしまった。
モンスター相手にならば彼女の性格を考えれば納得も出来るが、相手は莉子である。
芽衣の中で「モンスターよりも莉子の方がヤバい」と言う単純な方程式が確立されていた。
さすがは木原監察官の姪。
実戦の中でも常に学び、知り、発見する。
「さあ、芽衣ちゃん! 六駆くんたちを見つけるよー!! きっと今の衝撃で、六駆くんもこっちに向かって来てくれてるはずだもん!!」
莉子は聡明な女の子である。
そこに豊富な知識と情報を加える事で、極めて正確な予測を算出する事が可能になる。
それを踏まえた上で、彼女に伝えてあげたい。
全部間違っていますよ、と。
◆◇◆◇◆◇◆◇
こちら、六駆とクララのウキウキ前進チーム。
「むっ。激しい煌気の揺らぎが! これは莉子のスキルですね! 『苺光閃』かな?」
「良かったにゃー。莉子ちゃんと芽衣ちゃん、ちゃんと無事に下りて来たんだー!」
「でも、上の方ですね。真上の階層ではなさそうです」
「うへぇー。だから一旦待とうって言ったのにー」
彼らは今、どこにいるのか。
現在2人は第11層にいた。
何をしているのか。張り切り過ぎもいい加減にしろ。
莉子と芽衣の第9層に到着するスピードを褒めた舌の根の乾かぬ内にこのような表現をするのは甚だ不本意だが、六駆とクララの進行速度はその比ではなかった。
理由は2点ある。
まず、諸君もご存じの方から。
六駆が最強の男だからである。なんとシンプル。
どれだけ強力なモンスターが襲い掛かって来ても、彼にとっては躾けのされていない野良犬程度にしか感じられない。
ついでに彼は犬が大好きだった。
もう1点。こちらは六駆おじさんのうっかりミス。
イドクロア持ちのモンスターの判別ができていないのだ。
クララもそれなりに知識を持ってはいるが、基本的には彼女も戦闘タイプの探索員。
特に馴染みのない有栖ダンジョンに出現するモンスターが相手となると、どうしても知らない事の方が多くなる。
その結果、彼らはイドクロア持ちのモンスターもお構いなしに蹂躙し、殺戮の限りを尽くしていた。
これを六駆に聞かせるとまた彼が「ちくしょう!」とか叫びだすので伝えないが、既に無為に殺したイドクロア持ちのモンスターは9体。
損失額にすると、おおよそ21万円ほど。
六駆くんが膝から崩れ落ちるには十分な額である。
もちろん彼は気付いていないが、潜在的なお金への本能の成せる技か、ちょっとだけ心の端にモニョっとした感覚を抱き始めていた。
「クララ先輩。もしかして僕たち、貴重なモンスターも倒してませんか?」
「うん。あたしは何回か言ったんだけどにゃー。特に、さっきのキラキラした羽の怪鳥とか、多分レアっぽいって言ったのにさー」
ちなみにそのモンスターはプラチナピジョン。
クララさん、ご明察。
羽を剥ぎ取るだけで約12万円になりました。
「仕方がありませんね! ここで莉子と芽衣を待ちましょう!!」
「ふへぇー。やっと決断してくれたにゃー。失って分かる、莉子ちゃんのリーダーシップの偉大さ!」
六駆は天井に手のひらを向けて、スキルを放つ。
「『粘着糸』と『星屑』を合わせて! 即興アレンジ、『粘着光源弾』!」
彼の撃ち上げたスキルの着弾地点から、一瞬で2人のいる辺りが光に覆われる。
なかなか幻想的な光景だった。
「おおー! これなら莉子ちゃんと芽衣ちゃんもすぐに気付いてくれるね!」
「僕としたことが、ここまでに大きなミスをしでかしていましたからね。合流を急がないと」
クララは「やっと自分を省みてくれたにゃー」と思ったが、そうではない。
「時計見て下さいよ! もう夜の7時なんですよ!!」
「えー? あ、うん。そうだねー。外はもう暗くなってるかなー」
「お腹空いたじゃないですか!! 食料メインで持ってるの、あっちなのに!!」
「六駆くんはねー。将来は絶対にしっかりした子と結婚するべきだと思うなー」
六駆とクララのコンビなら、適当にモンスター狩って食べたら良いじゃないかと思わないでもないが、不運な事に美味しそうな獲物と出会えずにいた。
有栖ダンジョンのモンスターたちにとっては幸運を飛び越えて僥倖であった。
「とりあえず、アクエリアスでお腹を満たしましょう。大丈夫です、トイレに行きたくなったら言ってください。僕がいつものように『石壁』で簡易トイレ作りますから!!」
急に明かされた、パーティーのトイレ事情。
六駆おじさんは乙女たちに対して紳士的であった。
これまでも個室が必要になる度に、彼は嫌な顔一つせず石の部屋をダンジョンに作り出している。
「六駆くんはさー。気遣いはできるけど、そこにデリカシーが足りないよねー」
アクエリアスを飲みながら、クララが彼に対して全ての者が抱いている感想を代弁してくれる。
さすがはこの間20歳になった乙女。
その調子で存在感も濃くなればいいね、と我々は願うしかない。
空腹で腹立ちまぎれに六駆が暴れるのが先か。
莉子と芽衣が合流すのが先か。
しょうもないチキンレースが幕を開ける。
コメント
1件
読了しました〜!今回は莉子&芽衣組と六駆&クララ組の迷走っぷりが最高でしたね😂 莉子さん、ジェネラルコングを「ただの」で片付けちゃうのもすごいけど、探してる相手がもういないっていうすれ違いがおもしろすぎます。六駆おじさんのトイレ事情の暴露シーン、笑いました。クララ先輩の「気遣いはできるけどデリカシーがない」って的確すぎる…!アクエリアスで腹を満たす展開に、この先どうなるんだろうと気になって仕方ないです🤍