第22話
テストが終わって数日。
答案が返ってきた日、夏江は机に突っ伏していた。
「うぅぅ……あと2点……たった2点差……!」
「惜しかったな。」
黒瀬が淡々と声をかけてくる。
「うるさいっ!あんたが地味に努力家すぎるのが悪いのよ!」
「地味言うな。」
(……でも、ちゃんと悔しい。
夜遅くまで頑張ったの、ほんとに無駄じゃなかったのになぁ……)
すると、黒瀬が少し笑って言った。
「で、約束。俺が勝ったから、言うこと聞けよ。」
「うっ……覚えてたんだ……。」
(くっ、クールキャラに限ってこういう時だけ抜け目ない!)
「な、なにさせるつもりよ。変なのだったら——」
「俺と、帰れ。」
「……は?」
放課後。
並んで歩く二人。
いつも通りの道が、やけに静かだった。
「……それだけ?」
「それだけ。」
「なんか……もっと、こう、ムチャ言うと思ってた。」
「俺がそんなキャラに見えるか?」
「うん。見える。」
「……否定できねぇ。」
二人で笑う。
その空気が、少しだけ柔らかくて。
「……で、本当の願いごとは?」
「ん?」
「“一緒に帰る”のが願いなわけないでしょ?」
黒瀬は少し歩を緩めて、
夕焼けを見上げながら言った。
「テスト頑張ってるおまえ、ちゃんと見てた。
……だから、今日はそれ、ちゃんと褒めたかっただけだよ。」
一瞬、言葉が止まった。
胸の奥が、じんわり熱くなる。
「な、なによそれ。ズルい……。」
「何が。」
「そーゆーとこだよ、黒瀬。」
彼が小さく笑って、横を向く。
「じゃあ、もう一個願い事。」
「はぁ!?勝手に増やさないでよ!」
「次のテスト、また勝負な。」
夏江も笑って、拳を突き出した。
「望むところ!」
夕焼けの空の下、二人の影が並んで伸びる。
——もう、誤解も、迷いも、全部風の中。
(……でもやっぱり、勝ちたいな。
次はちゃんと、笑って“おめでとう”って言えるように。)
──終。
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