テラーノベル
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明太子に食われる鈴木
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小夜曲(セレナーデ)
親しい女性や恋人に贈る、夜の窓辺で演奏する曲。
セレナーデは、主にドイツのあたりでの名称であった。
「…はあ。」
私は読んでいた本をぞんざいに閉じて、窓の外に目をやった。
今日の天気は憂鬱な雨模様。
バルカン半島のうちの____さらに内陸部の夏は、じっとりしけっていた。
世界は薄暗い青緑に染まって、家の暖色の光と不協和音を作り出していた。
窓の桟にもたれかけて、手をぴたりとガラスに貼り付ける。
暇。とっても暇。外に出かける訳にはいかないし、ゲームは飽きたし…
太ももに触れる冷たい床の感触。雨が地面まですっかり冷やしてしまった。
こういった日は、決まって頭が痛くなるのだ。
国の化身に決まった体質があるなんて馬鹿げている…
が、どうにも私は偏頭痛持ちのようだった。
事前に薬を飲んでおいた方がいいんだろうけれど、そんな気力、今は無い。
私は固くて冷たい床に直接横たわった。
フローリングの感触が体に染み込んでくる。
何もせずにぼんやりと天井の、質素なシャンデリアを模した灯りを見つめていた。
せめて誰かと話でもできたら気くらいは晴れるのだろうけど、
ここには私しかいないし、知り合いの家も遠い。
しばらく寝転がっていたけれど、結局体が痛くなって起き上がった。
放置していた本をもう一度開く。
…私はこれを、何回読み返しているのだろう。
内容を全てそらんじられるくらいには、ページを幾度もめくったはずだ。
別にこれしか持っていない訳ではない。
部屋の隅には私の背丈に合わせた書架に、本が何十冊も整頓して置かれている。
じゃあ、なんで。
それは私にも分からなかった。…ただ、大切な人からもらった物なのだ。
「あーし、これ好きだから君にもあげたいと思って。」
いまだに鮮明に声が蘇る。
夏でも滑らかに黒光りするゴシックのコートを着込んでいて、
自分のことを吸血鬼だと言い張っていた女の子。
私は彼女と、今日の夜に会う約束をしていた。
彼女は吸血鬼だからか昼間はずっと寝ていて、
私達は夜にしか会ったことがなかった。…国際会議を除いて。
私はそれを少し億劫に思っていた。眠たいし、夜は大体のお店も閉まっているし…
でも今日は良かった。夜でよかった。
夜は人の時間ではない。誰も来ないし、いない。
『逃げる』には最適の時間だった。昔から夜逃げって言葉もあるくらいだし。
私は立ち上がると、部屋の真ん中に放置してあった旅行鞄に目をやった。
それは少し古典的なデザインで、茶色いなめし革で作られていた。
あの子から貰った本を今度は丁寧に閉じる。鞄に入れると、しっくりきた。
今日の夜、これだけを持ってここを出る。
ここの近くの坂を下った先の街頭で、あの子と待ち合わせる約束をした。
だから今は、暇でたまらないのだ。