ざくっ、ざくっ、と音がする。
誰かが草を踏んでいるようだ。
僕もさっき踏んだ時音がしたからだ。
だからわかるんだ。
だんだんと音が近づいてくる。誰だろうと思っても僕は振り向かなかった。ただ、海が眺めたかったから。
杉田「隊長、寒いですよ。早く戻ってきてくださいよ」
聞きなれた声、杉田の声だった。
優しくって、滑らかで聞き心地が良い声だった。
菅野「すまない、杉田。もうちょい見たいんだ、冬の海がね」
杉田「…珍しいんですね、初めて聞きましたよ。冬の海が好きな人なんて…」
砂利、砂利、と砂浜を踏んでいるようだ。
菅野「俺は海が好きなんだ。どの季節でも色褪せないほどに綺麗だからな」
杉田「そうなんですか……」
杉田「俺も海は好きですけど、その倍…俺は憎いです」
憎い。
その言葉に僕は目をかっぴらいた。
そうだなぁ…と僕は呟いた。
憎い、本当に憎い。だって、仲間を殺した場所だから、仲間の血が流れ、遺体が奥深くに沈んで眠っている場所。
墓場みたいな所だ。
でもその反面に夏になると綺麗なんだ。
太陽が輝くばかりに海を照らし、宝石の様に綺麗なんだ。仲間の死なんてなんにもなかったかのようにね。
菅野「そう…だな」
杉田「……隊長、いつか死んじゃうんですかね、俺たち」
僕はびっくりした。杉田がそんな弱気な事を言うんなんて
菅野「そんなこと言うんじゃない、死なないさ」
杉田「…でも、たまに怖くなるんです…あははっ……恥ずかしいですね」
苦笑いをした。僕は少し黙った。
菅野「………きっと、みんなそう思ってるさ。だから、大丈夫だ、杉田」
杉田「…はい…」
杉田は寂しそうにそう言った。
もしかしたら、
この会話が最後になるかもしなぁ…