Kのキラキラコンテスト
素敵な企画に参加させていただきました
Kさん以外もたくさん見てくれたら嬉しいです
桃黄
Rなし
「何回言ったら分かるんだ!!」
その言葉、何回聞いただろう
もう数え切れないくらい言われた気がする
「ご、ごめんなさいっ、、!」
この言葉はもう何百回と口にした
頭を下げる、
慣れたものだ
頭をあげると先程怒鳴っていた上司が
眉間に皺を寄せ、こちらを睨んでくる
「はぁ……さっさとやり直せ」
「……はい、」
投げ出された紙の束
それを取り、自分の席へもどる
「またダメだったの?」
暖かいカフェオレを持ってこちらに近づいてくる莉犬
莉犬とは同期で
歳も同い年だからこの会社では1番仲がいい
「俺も一緒に考えようか?」
カフェオレを僕に渡してくれた
莉犬は制作組なので
僕ら作成組が考えたものを作る仕事
優しく尋ねてくれたのに
上司に怒られて、僕もいい気ではなかったから
「大丈夫です」
と素っ気なく返事をしてしまった
それでもにこっと優しく笑って
「頑張ってね」と言ってくれる莉犬は
すごくいい人なんだと思う
結局、あの企画書を却下されてから
約2週間が経った
締切は明後日
でも僕の前にあるパソコンの画面は
真っ白だった
あれからいいアイデアなんてなくて、
全然思いつきなんてしない
朝早くに来ていた僕
次に出勤してきたのは
この前、
というかいつも僕が怒らている上司だった
チラッと横目で見ると
いつもは無い挨拶が飛んできた
すごく機嫌が良さそうで、
気を悪くしたくないから小さな声で挨拶を返す
数分後、荷物を置いてこちらへ向かってくる上司
今この場所にいのは上司と僕だけ
「黄瀬くん」
あまり目にしない笑顔
僕からするとその笑顔さえ恐怖
「は、いッ……」
自分でも呆れるくらい小さな声で返事をする
いつもならもっと声を張れだの、
しっかりしろだの
めちゃくちゃな小言を口にするのに
今日は一切そんなことは無かった
「君に頼みたい仕事があるんだ」
「へ、?」
「どうせ、今さら企画書の作成をしろとは言わない、簡単な仕事だよ」
「どうせ間に合わないんだから、出来ることやってもらわないと、ね?」
何かと思ったら仕事を押し付けるためだったのだ
簡単、と言うが、
どんな仕事なのかは気にならないわけが無い
「やってくれるかな?」
そんな圧のある言葉
僕が断れないのを知っててわざと笑顔で言うのだろう
「わかりました」
もちろん、断れない
僕はまんまと上司の作った船に乗って流されるだけ
今の時刻は22時30分を過ぎていた
簡単とか言ってたけど
やっぱりすごくめんどくさい仕事で
めちゃくちゃ時間がかかる
これを押し付けられ、明日の朝には仕上げろと言われた
「こんなの無理じゃん、」
途中、莉犬がちょこちょこ
「大丈夫?」とか「手伝おうか?」
と声をかけてくれたが
手伝ってもらうなんてことしたら
上司になんて言われるかなんて
考えたくもなくて
大丈夫だと返した
すると突然
聞き覚えのあるサイレンが聞こえる
いきなり鳴ったこのサイレン
何かと思い、オフィスのドアを開けた
「う”ッ、、ゴホッゴホッ、、、なにこれっ、、」
ボワッと一気に入ってくる黒い煙
何も考えてなくて息を吸ってしまう
ヒリヒリと喉が痛む
火事が起きているのだと認識するのに数分かかった
それからあのサイレンは
家事を知らせるための音
理解した後はただ恐怖で
死ぬんだって思って
でもまだ生きてる
逃げないと行けないと野生本能で
ポケットに入っているハンカチを口に当て
逃げる
近くにあった非常階段を下に降りるが、
火元が下の階だったらしく、煙がどんどん上に上がってきていた
屋上に行こうと向きを変える
その瞬間息が苦しくなって倒れてしまった
トカゲのように這いつくばって
上へ上へと登る
意外と小さくて、ボロいこの建物
すぐに火も回っていくだろう
あぁ、死ぬんだ
でももういいな、
頑張ってこの仕事に就いたのに
何やっても上手くいかない
僕がいなくたって、別に誰も困らない
諦めかけた
ふとその時に視界にチラチラと人の影が見えた
誰、?
こんな時間にこのオフィスにいる人いるの、?
ていうか、なんで逃げないの、、?
そんなこと、考える余裕がなくて
僕の意識は途切れた
「んっ……」
次に目が覚めた時には
隣のビルの屋上にいた
なんで?
「起きた?」
「うわぁっ!?」
横から突然声が聞こえて、
情けない叫び声がこぼれる
「驚きすぎw 」
クスクスと笑うピンク髪の人
僕の知り合いにこんな人いない
「死神っ、、、?」
「なんでだよw」
「だって、、」
死にかけてた
てか多分あのままだったら死んでた
もしかしたらここは
天国と地獄の狭間なのかもしれない
もう死んでたりする?
それだったらこの人は誰、?
バチッ
「いたッ……」
突然デコピンをされる
おでこを押えながらピンクの人を睨みつけると
ニヤッとイタズラな笑顔で
「ちゃんと生きてるよ」
そう言った
「意味わかんないです」
「痛いんでしょ?夢でもないし、死んでもないから、現実だからな」
あぁ、そうか
この人、今僕が死んでるかもって思ったのに気づいたんだ、、、
だからわざと痛みを感じるようなことして……
「……誰ですか?」
「俺?桃井さとみだよ」
「さとみさん、、」
さん付けやだぁーとか
文句を言ってくるさとみさん
初対面でさん付けするのは礼儀だと思っていた
だけど、さとみさんはそんな様子は一切なかった
「で、るぅとはさ……」
「ぇ、」
「ん?」
「な、んで、、名前……」
「あぁw俺は、ぜーんぶ知ってるよ、るぅとのこと」
「は、はぁ?」
顔をゆがめてみせると
更に口角を上げてニコニコする
隣で黒煙が出ている中
僕達だけ違う世界にいる気分だった
「仕事も上手くいかない、後輩には先越されて、同僚にも迷惑かけて……だからかw死のうとしたのww」
「なっ、、、」
突然語り出したと思ったら全部僕の話
てか、、、
「なんで知ってるの!?」
「まぁ、天才だからな」
そう言ってまた笑う
笑顔が絶えない素敵な人なんだろうと感じた
「さとみさんは……」
「やめよーぜ?呼び捨てしてよ」
「……じゃあさとみくんで、」
「いいけど、、」
分かりやすく不貞腐れている姿に
クスッと笑ってみせると
笑うなーっと小言を言われた
上司に言われる小言とは全然ちがくて、
すごく心地が良い
「で、なに?」
「えっと……さとみくんは、結局誰なんですか、、?」
そう僕が聞いたら
煙で覆われてた空が
見えてきて
綺麗な満月が街を照らした
「んー、、、るぅとの守護神みたいなものなんじゃない?」
この短時間の中で、1番の笑顔でそう教えてくれた
言葉の意味なんてわからないし、
ほんとに非現実的すぎるけど
さとみくんと月が重なって
キラキラ光ってて
ホントの神様に見えた
「るぅと」
「なんですか、」
「お前なら、大丈夫だ」
親指を立てて大丈夫と言う
何が大丈夫なのか、何をそんなに言いたいのか
分からないことだらけだった
だけど、その言葉が
僕の大事なものになりそうな気がして
「うん!ありがとっ!」
元気に返事を返したら
そこにはもうさとみくんはいなかった
あの日、ビルの火が消化されたあと
僕はそのまま救急車で運ばれた
幸い、かすり傷ややけどだけで済み、
奇跡だとみんなが口を揃えた
出火原因は下の階の機械室かららしい
病院の人や、警察の方に
「どうやって隣のビルに逃げたの?」
と沢山聞かれたが
「必死に逃げた」
としか言えなかった
今考えると、ほんとに不思議な体験だったなと感じる
あの日以来、1度も会っていないさとみくん
大丈夫だと言われてから仕事がすごく上手く行き始めたし
同僚や上司とも上手くやって行けるようになった
ほんとに、さとみくんは僕の神様だったのかもしれない
コメント
2件
コンテスト参加ありがとうございますー!!! 考察のしがいがありそうなお話で読んでて楽しかったです💭 さとみくんは本当に守護神みたいな存在だったのか…🤔💭 素敵なお話でした🍀*゜