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華やかなドレスに着替えた私は、リューの待つ執務室の前に辿り着いた。
「お待たせいたしました。コハル様の御支度が整いましてございます」
その部屋の扉を開けローサが一礼する。
山のように書類が積まれた机の向こうにリューは座っていて、その傍らにセレストさんが立っていた。
少しの緊張を覚えつつ中に入ると、リューは立ち上がりこちらへとやって来る。
彼はこれまで見た中で一番王様らしい高貴な印象の装いに着替えていて、そういう格好が本当に似合うなぁと思った。
(さすがイケメン……)
リューは私の前に立つと満足げに頷いた。
「やはりコハルはそういう明るい色がよく似合うな。俺の目に狂いはなかった」
「え?」
「コハル様のお召し物は全て、陛下が自らオーダーして作らせたものでございます」
そう言ったのはセレストさんだ。
(リューが……?)
私は彼を見上げ慌ててお礼を言う。
「あ、ありがとうございます。リューも……」
そう言いかけて、セレストさんやローサの目があることに気付いて私はもごもごと小さく続けた。
「その衣装、とてもよくお似合いです」
するとリューは驚いたように瞳を大きくしてから、すっとその目を逸らした。
「そうか」
(あ、あれ……?)
てっきり喜んでくれると思ったのに、返ってきたのはそんな素っ気ない言葉で私は首を傾げる。
リューはそのままセレストさんの方を振り向いた。
「あー、まずは大臣たちだったな」
「はい。すでに皆様ご到着されている頃かと」
訊かれたセレストさんがそう答え、私は“大臣たち”と聞いて改めて緊張を覚えた。
(私はリューの隣で笑っていればいいんだ)
そう自分に言い聞かせながらリューの後について廊下を歩いているときだった。
前方から誰かがパタパタと走ってくるのが見えた。
(アマリー!)
彼女はたくさんの綺麗な花が生けられた花瓶を手にしていて、その花のせいで私たちが見えていないようだった。
嫌な予感がして、私は駆け足でリューを追い越し手を広げる。
「アマリー!」
そう声をかけると彼女はびっくりしたのだろう。急に足を止めたせいで持っていた花瓶がぐらりと傾いた。
まずい! そう思った時にはすでに遅く……。
「……」
「……」
私の足元には水たまりが出来、色とりどりの花が散らばっていた。
ドレスの膝下あたりまでその水は飛び散り、ぽたぽたと水の垂れている花瓶を持ったアマリーの顔がどんどん蒼白になっていく。
「――た、大変失礼いたしました!」
そう震えた声で謝罪しアマリーは深く頭を下げた。
私も慌てて彼女に謝る。
「ううん! 私こそごめんなさい。急に声を掛けちゃったから」
「コハル、怪我はないか」
近づいてくる低い声音にハっとして振り返る。
リューは眉間に深く皴を寄せていて私は大きく首を振った。
「私は全然! この花は私が彼女にお願いしたの。だから、急いで持ってきてくれたんだと」
「アマリー! 何をしているの!?」
騒ぎを聞きつけたのだろう廊下の向こうからローサたちが慌てた様子で駆けてくる。
ローサはこの惨状を見ると青い顔をして頭を下げた。
「大変失礼いたしました! 今すぐにコハル様のお召変えを」
「急ぎなさい」
そう短く告げたのはリューの後ろに控えていたセレストさんだ。
その眼鏡の奥の青がとても冷たく恐ろしく感じられた。
「はい! 直ちに!」
「陛下は先に謁見の間に」
「わかった。コハル、待っているぞ」
そうしてリューは水たまりを避けながらセレストさんと共に廊下を進み、私はローサたちに連れられ自室に戻ることになった。
振り返ると、他のメイドさんたちが廊下に散らばった花を片づけ始めていて、その中でアマリーは俯いたまま小刻みに震えていた。
「アマリーは悪くないの、私が急に声をかけてしまったから彼女びっくりしてしまって。だからローサ、お願いだから怒らないであげて」
着替えを手伝ってもらいながら、私は必死に言う。
「……」
しかしローサも他の子たちも、沈痛な面持ちで手だけを動かしていて答えてはくれない。
メリーがソファの端っこで突然戻ってきた私たちを不安そうに見つめている。
「……ねぇ、まさか罰とかないよね?」
恐る恐る、半分冗談のつもりで口にする。
すると、ローサがやっと答えてくれた。
「コハル様や陛下がお怪我をされていたら罰は免れなかったでしょう」
「じゃあ、」
「ですが、その可能性は十分にございました」
「……っ」
「アマリーの処分はセレスト様がお決めになるかと思います。残念ながら、わたくしには何も出来ません」
「そんな……」
先ほどのアマリーの可愛らしい笑顔を思い浮かべながら、私は愕然とした。