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第三章 離れることで見えたもの
活動休止を決めた後、りょうちゃんは東京を離れ、地元の長野で静かな生活を始めた。
朝はゆっくりと起きて、散歩をして、音楽からも意図的に距離を置いた。
鍵盤に触れることさえ、最初の数週間は怖かった。
自分がまた音を奏でられるのか、そもそも奏でたいと思うのかさえ、分からなかった。
時間だけが、ぽつぽつと過ぎていく。部屋の隅に置かれたシンセサイザーには、薄くホコリが積もっていた。
けれど、そんな日々の中で、ある夜に、ふと昔のバンド音源を聴いてみた。
それはまだ、インディーズ時代のデモ音源。
録音状態も荒く、演奏よりも未熟だった。
でも、その中には、確かな熱量と輝きがあった。
藤 「そうだ…僕達、こうやって始まったんだ…」
りょうちゃんは泣いた。こらえきれずに、涙が溢れた。
藤 「まだ、終わってない」
そんな気持ちが、心の底から湧いてきた。
彼はゆっくりと、再び鍵盤に触れ始めた。
メロデイはまだ、指先に残っていた。
続き待っててね!