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そう言ってまた、キスをする。俺はこの瞬間、優樹に対しての嫌という感情が消えた。同調圧力にも聞こえるかもしれないが、そんなことは無かった。本当に嫌だと思わなかったから。そして、自然と体の力も抜けた。
「んっ…んんっ…はぁ…」
「なに?息止めてたの?」
そう。俺は息を止めていた。だって初めてだから。ディープキスなんて、どうやってやるか知らなかったから。
「初キス奪っちゃったかな?まぁ、もう俺のだからいいよね」
「俺の…?」
「うん。奏人は今日から俺のだから。これからもこういうことしよう。でも、俺以外の人とはこういうことしちゃダメだよ?」
「うん…わかった」
素直に頷く俺を見て、優樹はニヤッとして頭を撫でる。
「いい子だね」
この日から俺たちは、よくこういうことをしていた。
と言っても、キス以上のことはしたことないけど。俺たちの関係を聞かれたら、正直なんて答えたらいいか分からなかった。別に付き合っている訳ではない。セフレとも何か違う。変な関係だ。俺は優樹に対して、友情以上の感情を抱いたことなんて無かった。だけど、なんだかうけいれてしまったのだ。まるで操り人形のように、気づいたら俺は優樹の言う通りにしていた。高校卒業までずっと。
そして高校卒業の日、いつものようにキスをした。あの教室で。口が離れた後、優樹は俺をしばらく見つめていた。
「…どうしたの?」
「…ごめん、なんでもない」
そう言って俺の頭を撫でた後、優樹が耳元で言った。
『今までのことと俺の事、全部忘れて』
その言葉を聞いて、俺の頭の中から優樹のことと優樹との思い出も全て消えた。
あれ?俺は今、何してたんだろう。
目の前には、知らない男の子がいた。誰だ。
制服の胸ポケットには花のコサージュがついている。同級生か。なにか俺に用があるのだろうか。
「…俺になにか用?」
「俺の事、知ってる?」
「えっ」
どこかであったのだろうか。俺はこの人のことを知らない。俺は正直に答える。
「ごめん。ちょっと分からないかも」
俺がそう答えると、同級生はどこか安心したような表情をする。
「そっか。ごめん。人違いだったみたい。じゃあ」
そういって同級生は部屋から出ていってしまった。
「あぁ…待って…」
もう行ってしまったみたいだ。なんだったのだろう。俺は訳が分からないまま、その場を後にした。
ーーー現在ーーー
そうだ。思い出した。全部。優樹のことも、優樹との関係も。
「…優樹?」
俺が名前を呼ぶと、抑えていた俺の手を離し、優樹は嬉しそうに聞いた。
「俺の事、思い出してくれたの?」
「…うん」
「よかった。じゃあ、またあの時みたいにしようよ。俺が忘れさせたくせに変だけど、俺、奏人がいないとダメなんだ」
そういって優樹は俺の頬に手を当てる。俺は咄嗟に下を向く。
「…こっち見てよ」
「ごめん…俺、もう優樹とそういうこと出来ない」
俺がそういうと、少し間が空いてから優樹は言う。
「なんで?」
とても冷たい声だった。俺は少し戸惑いながらも答える。
「付き合ってる人がいるんだ。だから、ごめん」
優樹は少し間が空いた後、俺の頬から手を離す。
「そっか。残念」
優樹は俺から離れて、玄関のドアを開けた。
「帰りな」
「うん」
俺は玄関へ向かい、靴を履いた。外に出ようとした時、優樹はニヤッと笑いながら言った。
「絶対俺の元に帰ってこさせてみせるよ」
「なんだよ。それ」
「俺、諦めないから。じゃあ、また明日」
「うん。また明日」
俺が外に出て少し歩くと、扉の閉まる音がした。
扉がしまった後、優樹は呟いた。
「絶対。また俺のものにする。どんな手を使ってでもね」
そう呟いたとも知らずに俺は、次の日を迎えた。
朝、優樹が出勤してくると、優樹は馴れ馴れしく接してきた。
「奏人〜、おはよう。今日もよろしくね」
「うん、よろしく」
そしてその後、偉二さんが来た。俺はいつも通り接する。偉二さんに料理を出して立ち去ると、優樹がこっちに来た。
「ねぇ、もしかして付き合ってる人ってその人?」
「えっ」
図星をつかれた俺は、フリーズしてしまった。
「やっぱり。やけに仲良いと思ったら、そういうことだったんだ」
そう言って優樹は立ち去っていった。なんで分かるんだろう。まぁ、俺が仲良くしてるのなんて、偉二さんしかいないからだと思うけど。そしてその後、偉二さんが帰る時間になり、お会計をしていた。
「奏人くん、今日夜一緒にどう?」
「うん、いいよ。いつもの時間で大丈夫?」
「うん。ありがとう」
そんな会話をしていると、優樹が近づいてきた。
「奏人〜、たまには俺とも一緒に食べよ?」
そう言って優樹は両手で腕を掴んでくる。
「ちょっと、やめてよ。今勤務中なんだけど」
「え〜?それって、勤務外ならくっついてもいいってこと?」
「いやそうじゃなくて!まぁ、とにかく離れろって」
「ご飯は?行ってくれるの?」
「それは…えっと…」
俺はふと、偉二さんの方を見た。すると偉二さんは、冷たい目で優樹のことを見ていた。
「あ、あのほら、一応ね?浮気になっちゃうかもだから」
「いいじゃん」
そう言って優樹は俺の耳元で囁く。
「キスした仲なんだから」
体がボワッと熱くなった。俺は慌てて優樹から離れる。
「な、何言ってんだよ!」
「はは〜、可愛いな〜。奏人は」
優樹はニヤッとしながらそう言った。
すると、突如に低い声が響いた。
「なんです?あなた」
声のする方を見ると、偉二さんが優樹をじっと見ていた。
この声は多分、いや。絶対に怒っている声だ。俺は少し焦ってしまう。
「あ、あの、高校の時の同級生で」
「奏人くん、ごめん。僕この人と話したい」
「あっ、うん。わかった」
俺がそう返事すると、偉二さんは優樹の方をまた見る。
「高校の同級生ですか。仲良いんですね」
「そうなんですよ〜。俺たち凄く仲がいいんです。なんか、奏人の彼氏さんに申し訳ないです」
優樹はそう言ってニヤッと笑った。そんな優樹を見て偉二さんはニコッと笑った後、優樹にまっすぐ目を合わせて言った。
『奏人くんにあんまり近づかないでくれます?』
「はい」
優樹は素直にそう返事する。ドルの力を使ったのだろうか。偉二さんは今度は俺の方を見てニコッと笑う。
「今日、僕の家で食べよっか」
「うん、わかった」
偉二さんは一人暮らしをしていて、自炊も毎日しているから、料理は上手だった。付き合ってからたまに偉二さんの家で食べることがあるのだ。今日もそのようだ。
「じゃあ、僕そろそろいくね。ご馳走様でした」
「うん!また後で!」
俺が元気よくそう返事すると、偉二さんは俺に手を振って店を出ていった。
「ふ〜ん」
声のする方を見ると、優樹がニヤッとしていた。
「なにがふ〜んなの?」
「あの人、ドルなんだね」
「えっ?」
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