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紫×桃
ホストパロ
夜の街は、雨のあとを引きずっていた。
濡れたアスファルトにネオンが滲んで、まるで夢の続きのようにぼやけている。
「…また来ちゃった」
小さくつぶやいて、らんはため息を落とした。
本当は、今日は来ないつもりだった。
財布の中身も心も、もうとっくに軽くなっているのに。
でも、どうしても
“彼の声”を聞かないと眠れなかった。
扉を開けると、あの笑顔があった。
照明が反射するシャンデリアの下で、
いるまが、グラスを片手にゆるく笑っていた。
「お、らん。今日も来たな」
その声を聞くだけで、胸の奥が熱くなる。
くだらない冗談を言って笑う姿も、
タバコをくわえて視線を外す横顔も、
全部、らんの世界を染めていた。
「…いるま、今日も人気だね」
「まぁな。お前も俺のファンだろ?」
「…そんなつもりじゃ」
「冗談だよ、らん。そんな顔すんなって」
軽く笑って、指でらんの頬をつつく。
その距離が近いだけで、息が詰まりそうだった。
“これは、仕事”
“他の客にも、同じこと言ってる”
何度も自分に言い聞かせてきた。
でも、彼の言葉だけは、どうしても信じてしまう。
____________
閉店後、人気のないフロアで、いるまがらんを呼び止めた。
「…今日、帰り送ってく」
「いいよ、そんなの」
「いいから。夜道、危ねぇだろ」
歩きながら、無言の時間が続いた。
いるまはポケットに手を突っ込み、
街灯の光を受けながらふっと笑った。
「なあ、らん。お前、俺のこと好きなの?」
唐突な言葉に、心臓が跳ねた。
「…そんなの、どうでもいいじゃん」
「どうでもよくねぇよ」
いるまが、足を止めた。
夜風が吹いて、ふたりの間を冷たく撫でた。
「好きなんだろ?」
「……好き、だよ」
「やめとけ」
即答だった。
あまりにも冷たくて、優しい声で。
「俺、誰のことも本気で好きになんねぇんだ」
「でも…俺は、本気だから」
「…..わかってる」
そう言って、いるまは笑った。
泣きそうな、困ったような顔で。
「…らん、俺、やばいこと言っていい?」
「なに?」
「お前のそういうとこ、ほんと好き」
ほんの一瞬、夢を見た。
でも、次の瞬間、その夢は壊された。
「だから、困るんだよ」
____________
それから数日、らんは店に行けなかった。
行けばまた、期待してしまう。
“もしかして”なんて、くだらない希望を抱くのが怖かった。
でも、結局、行ってしまった。
そして、見た。
いるまの隣に、女がいた。
肩に手を回され、甘えるように笑っている。
その姿が、頭から離れなかった。
「…今日も人気なんだね」
「仕事だからな」
「…そうだよね」
笑おうとしても、喉が震えた。
グラスの中で、氷が溶けていく音がやけに響いた。
「お前、俺のこと、まだ好き?」
「……うん」
「ほんと、馬鹿だな」
「…知ってる」
その夜、いるまはらんの手を取った。
店の奥の小部屋。
照明の落ちた狭い部屋で、指先が触れ合う。
「らん。俺、ひとつ言っとく」
「…なに」
「最初は、賭けだった」
「……え?」
「どっちの客を先に落とせるかって、同僚と掛けしてたんだよ。
最初はお前が面倒くさそうだったから、ターゲットにした」
心臓が止まったような気がした。
「…でも、途中で、わかんなくなった」
「なにが?」
「俺、ほんとにお前のこと、好きになってたかもしれねぇ」
その言葉がいちばん残酷だった。
____________
夜が明けるころ、
らんは静かに店を出た。
街は雨に濡れて、まだ眠っている。
ポケットの中の名刺が、濡れてふやけていた。
“CLUB ROUAGE いるま”
もう行かない。
そう決めたのに、
足が勝手に彼の方向へ向かってしまう。
“好きにならなきゃよかった”
そう思っても、
“好きになってしまった”という事実は消えない。
彼が笑ってくれた夜も、
「バカだな」って撫でてくれた手も、
全部、夢みたいに消えていく。
だけど、夢ならよかった。
現実だから苦しいんだ。
____________
それでも。
らんはまだ、
いるまの笑顔を思い出していた。
あの夜の、嘘みたいに優しい声を。
「らん、俺、ほんとに困ってたんだよ」
__それが最後の言葉だった。
𝐹𝑖𝑛.