テラーノベル
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需要あるらしいのでまた書きやした。
夜の町は提灯の明かりで彩られ、人々のざわめきが広がっていた。
身体に毒になりそうな油っこい屋台の品の臭いが鼻をくすぐり、もう夏が終わる雰囲気を感じながら履いてる下駄を鳴らす。
周りには屋台の景品で遊ぶ小学生や花壇で一休みする年寄りの爺婆ら、家族、恋人で来てる人々が多く歩道はいつもより狭かった。そんな浴衣姿の人々に混じり、土方と沖田の二人は歩いていた。
「…似合わねぇな、こんな場所」
土方は人ごみを見回しながらぼやいた。
「副長こそ。人混みに負けて眉間の皺が増えてますぜィ」
隣にいる沖田は薄く笑う。
去年、俺らはここの祭りで仕事をしていた。だが今年は他の隊員に行かせてるらしく 任務がなくなり、局長からは他の隊員に任せて遊びに行ってこいと言われ、2人して非番になった。
刀を持っていなくとも、 監視として近藤さんのようなリア充撲滅する輩等いないか探すため人混みを歩くが、特に補導するような人らは居ない。気構える必要がなくラフな雰囲気で肩を並べて歩くその姿は、普段刀を構えた2人とはまるで違って見えた。
「ねぇ副長。ああいうのやったことありやす?」
沖田が足を止める。見れば金魚すくいの屋台の前で立ち止まっていた。
「子供の遊びだろ。興味ねぇ」
「じゃ、俺が取った金魚を副長にやりますよ。」
そう言って挑発的に笑うと、屋台のおっちゃんに300円を渡し、1本のポイと容器を貰う。
「いらねぇよ。そんな1週間で死ぬような金魚なんか屯所にあったって育てられねぇまま終わるだけだ」
そう呟いたって沖田の耳には届かない。そんな事は土方も分かってるため後ろから見守る。
手元に金魚が来たタイミングで 器用にポイを操り、あっという間に2匹の金魚をすくい上げると同時にポイは水に濡れて溶けた。
「あ、クソっ、10匹位取ってやろうとしたのに」
そう言っておっちゃんから渡された袋に入った金魚をそのまま沖田は袋を土方に見せつける。袋に入った2匹の金魚を見れば1匹は小さな茜色の金魚で、もう1匹は黒い大きな金魚が水の中で優雅に泳ぎ続ける。
「ほら、俺が毎回見に行ってやりまさァ。じゃあ お前がトッシーで、お前が犬の餌な」
聞き捨てにならない名前をつけられ土方はまた眉間に皺を寄せたが、楽しそうに金魚を見つめる彼を見て開いた口を閉ざした。
「…勝手に来んな」
「えぇ?酷ぇじゃねぇですか」
口ではそう言いながらも、袋を受け取る手は意外に丁寧だった。
「おー、そこの兄さん達、やってかねぇかぁー」
「げっ…」
途中、多種の屋台が並ぶ中、よく見知った顔をした3人の輩がいた。万事屋だ。去年と変わらず、近藤さんから聞いた通り射的や金魚すくいなどをやっているらしい。
「お前、何もしてねぇよなぁ…」
「毎回会う度俺達が犯罪したみたいな言い方やめてくれるー?」
小指で鼻をほじりながら言う銀時に信憑性の欠片もない。後ろを見れば人が出歩く歩道でいつも通り沖田と神楽は格闘していてそこに新八が抑えに行っていた。
「てか、トッシーって金魚すくいとかするんだな?」
銀時が指を指した先には俺の手元にある沖田が取った金魚だった。狭い水の中でぷかぷかと泳いでいる。
「総悟が勝手にやって貰ったんだよ、いらねぇって言ってんのに」
「ふーん?いらねぇってんならあっちの川で捨てりゃいいのに」
祭りの出入口の近くには川が流れている。確かに俺だったらいらないもんも必要と思わないものはすぐに切り捨てる。
「……いや、後で捨てる」
「あらぁ??可愛い総悟君から貰ったから捨てれないんだなぁ??」
「てめぇしょっぴくぞ」
こんな奴の相手にしてると拉致があかない。
「総悟、もう行くぞ」
「あ、へーい」
後ろでまだ神楽と戦ってる沖田に声をかけてやれば、最後にジャーマンプレスをお見舞いしこちらに戻ってきた。戦ってる時に土が舞って頬に着いた泥を親指で拭ってやる。
「何かしたらすぐ連行すっからな」
「はいはい」
そのまま3人を置いて他の屋台を周るべく、祭りの奥へと進んで行った。
「…ほんっと、素直じゃないねぇ」
その後も焼きそばを分け合い、射的で張り合い、たこ焼きにたこが入ってるかお好み焼きのマヨネーズがきれてないかの互いにくだらないことも確認し、仕事の事など2人して頭にない程楽しんだ。
やがて、人混みがざわめきに包まれる。
「そういえば、19時から花火が上がるらしいですぜィ?」
「ふーん…じゃあ見ながら帰るか」
祭りの近くに神社がありそこの階段だと花火が見やすいというのがあるからと、2人は人が流れていく道の反対側を歩み、やがて人が少しずつ減っていく。
よく通る川にかかった橋を渡っている時、タイミングよく 夜空に数個の大輪の花火が咲いた。 夜空に咲いては散っていく火花を土方と沖田は黙って見つめる。
「…副長」
「…なんだ」
「こういう夜も、悪くないですね。」
土方は隣を見れば、暗く見えずらかった沖田の顔は花火の光に照らされ、小さい頃と変わらないベビーフェイスで爽やかな横顔が見えやすくなった。
「…ま、悪くはねぇな」
夜空に咲く花火の下、その笑みは誰にも見せないほど柔らかく笑った。
祭りの喧騒を背に、 遠くで花火が上がっている音と静かに響く虫の音を耳にしながら、 2人は屯所まで歩んでく。人の歓声が遠くから小さく聞こえてくる。きっと屯所でも隊員や局長は花火を見ながら酒を飲んでるのだろう。
「…やっと静かになったな」
「副長、人混みに弱いですもんね」
隊員達の分の焼きそばやたこ焼き、射的で当てた景品らが入った袋をお互い片手に持ち歩いてく。 自然と歩幅が揃い、肩も、空いた2人の片手も触れ合う。少し当たるだけでお互いの手が温かいのを感じさせる。
「副長……」
沖田は聞こえない位の小さな声量で呟く。隣を盗み見すれば土方は聞こえなかったのか道をまっすぐに見つめて歩いてる。
「…土方、さん」
花火の音で聞こえない事を祈りながら、
「…大好き」
「…なんて言った?」
「…いえ、なにも?」
聞こえなかったのにホッとした気持ちを隠しながら不器用な言葉が零れる。
「んだよ、言えよ。聞き逃せねぇぞ」
そう言う土方に沖田は驚いて隣を見る。すればニヤニヤと笑いながらこちらを見る土方の姿を目にした。
「…聞こえ、たんですかィ」
「鬼の副長舐めんなよ」
「そんなん関係ねぇじゃないすか 」
「じゃあ好きな奴からの告白が届いた事にしてやるか」
「っ、お前には、敵わねぇ」
月明かりの下、沖田の顔はみるみるうちに赤く染まっていく。そんな可愛い姿に土方は静かに柔らかくほどけるように口角をあげた。
「言ってくれねぇの?」
「もう言わねぇ」
「はっ、かわいくねーな」
静かな路地を並んで歩く二人。気づいたら 遠くで花火が最後の大輪を咲かせ、夜空が一瞬だけ昼のように明るくなった。 その光に照らされ、沖田はふと足を止める。どうしたものかと 土方は振り向く。
「……副長」
低く呼ばれた声に、土方は反応を示さない。すると沖田は一歩近づき、距離を詰めた。
夜風が吹き抜ける。
そして次の瞬間、沖田の唇がそっと触れた。
ほんの一瞬 、だけどそれは冗談でも気まぐれでもなく、確かな想いの証だった。
離れた沖田の瞳は、からかうこともせず真剣で。
「…これで、分からねぇか?」
沖田は土方に目を合わせないようにわずかに目を伏せた。 耳まで赤くする彼に心臓が苦しく感じたが知らないフリをする。
「さぁ?分からねぇな」
「っ、土方コノヤローっ…」
そう言った声は、花火の音に掻き消されることなく、夜の静けさに溶けていく。 空いた沖田の右手を土方は手に取り、屯所までの道を少し早足で歩いていく。お互いに何も喋らず、ただ吐く息の音だけが聞こえた。
翌朝、目を開ければ土方はとっくに起きていて、座って煙草の煙を吐きながら何かを見つめていた。彼の目先を見れば、小さなガラス水槽に昨日沖田が取った2匹の金魚が泳いでるのが見えた。
「…おはようございます」
「…おぉ、おはよ」
「トッシー、犬の餌…次いでに土方さんも」
「付け足したかのように言うな」
重い腰を引きずりながら彼の目の前にある水槽へと近づく。人差し指で水槽を撫でれば気づいた2匹の金魚が近づいてきて口でぷかぷかとつついてきて、沖田はニコニコと笑いながらそれを楽しんでる。
そんな姿を見ていた土方は、まだ元気良く泳いでる2匹の金魚を川に捨てるって言った事なんか覚えていない振りをしながら捨てられない気持ちを抑え込んだ。
コメント
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ありがとうございます🙇🏼♀️ 告った瞬間にリアルに椅子から浮きました座り直しましたもう...😭(?) 重い腰っちゅーのはもしかするともしかしますかね???(((((( ❤︎失礼いたします...🙇🏻♀️