🧹 偽りの猫と忘れられた記憶
「ただいま〜遅くなってごめーん」コアの声が森の少し開けたところに広がりました。
魔女っ子セレネのパートナーの黒子猫、コアは保護猫ローラスと一緒に家の近くの森を散歩していた。
小腹が空いたローラスのためにコアは森で食べ物を取ってきていたのだ。
「ロー、ラス?ローラス?」コアはつぶやいた。
ローラスが待っているはずの切り株にはローラスはいなかった。「ローラス!!」コアはその黄色い目を不安でいっぱいにして走った。
コアはローラスの匂いをたどった。犬ほど鼻は良くないものの、人や魔女よりは優れた鼻を持っているから、追うのはたやすいことだった。
「ローラス!」藪を走り抜け、人一人分ぐらい開けたところに、大きめな猫の影が見えました。「ローラス!」もう一回コアは強く呼びかけました。
くるりとサバトラ猫は振り返りました。「コア!」確かに、そのサバトラ猫は、ローラスでした。ローラスは蒼い目を見開いてかけてきました。「おかえり!」「うん!ちょっと遅くなってきたし、帰ろうか」「うん。」
こうして二匹は並んで家に帰った。
ただ、帰ってきて嬉しかったはずなのに、コアは胸騒ぎを覚えた。「…」
「ただいま。セレネ」「おかえり〜コア。今日はママの帰りが遅くなるからあたしが夕ご飯作るよ〜」
藍色のひらんとした洋服を着た魔女っ子はセレネ。黒猫コアのパートナーです。「やった!何作るの?セレネ?」「卵焼きと厄除炒め。」「わーい!!」厄除炒めというのはセレネの一族が収めている畑で育てられている野菜のいくつかの種類を炒めたものです。
「やった」
小さく喜ぶローラスを、コアはじっと見つめました。セレネはフライパンを器用にひょいっと煽りながら、何度もちらりとローラスを見ます。
「どうしたの?コア」蒼い目をパチっとさせ、ローラスは心底不思議そうに聞いてきます。
その見たことないほどきれいで美しい蒼い目、不思議で引き込まれるようなサバトラ柄、大きくも、すらりとしてモデルのようなきゃしゃな体。そしてコアに対する海よりも深い信頼。
どこをどう見てもそれはローラスでした。あのかわいいローラスでした。
「じゃあ、戻ろうか。」コアはローラスを地下の小部屋に帰しました。
ローラスのあの一件があって約一週間。ふたりともなぜかそわそわします。その二人は、セレネとコアなのは言うまでもありません。
「あれ、ローラスなの?」
あの一件があって二週間が経とうとしたとき、ついに胸の奥底に秘めていたことをコアはセレネに打ち明けた。
その凛とした声は、静かにセレネの部屋に響き渡りました。
セレネの母、魔女ママや猫たちは「やだわ。あれはローラスよ。なんか確かにいつもと違う感じがするけど、本人はちょっと疲れたとか、眠いとか言ってるから安心よ。お医者様にも診せたけど、疲れや眠気を感じやすくなっているって言われたのよ。それはあなたも知っていることでしょう?」と言われてしまい、猫たちは、そんなローラスを気遣い、一層大切にしたり魔女ママの手が足りているときなどはつきっきりでそばにいるので話す隙がありません。
そしてついに、コアがたまりかね、ついに一番信用することのできるパートナー、セレネに打ち明けたのです。
「あれ、ローラスなの?」と。
一人と一匹はお互いに見つめ合いました。
外ではあの森の木や笹の葉がかすれる音が聞こえます。その音は、まるで二人を包み込み、励ますようでした。
さて、その頃、北の果てにある里、フュルーディアンという里の一角に、大きな屋敷がありました。その屋敷には、美人な夫婦と、少々整った顔立ちと思われる息子の少年が住んでいました。フュルーディアンは、霊精だけが住むことができる里で、緑が生い茂っていますが、外から見ると、金粉が施されているように、きらきらと光るのです。しかも、太陽の光が当たれば、それはそれは神々しいものとなる、不思議な里でした。
その里にある屋敷に住んでいる息子の霊精、ゼイは奥森の間(おくもりのま)と呼ばれる部屋で、猫と遊んでいました。霊精と言っても、大人でも大きさは人の中学3年生ぐらい。そして、自分の大きさを大きくすることはできませんが、小さくすることができます。霊精たちは、自分を小さくして、自分の友に乗って移動します。その友は、動物たちです。
霊精は、動物たちを、自分と同等の立場にある、友と思っています。その友の背を借りて移動をするのです。
友の動物たちを見つけることはいいことしかありません。一緒に競技にも出れるのです。
霊精の少年ゼイは、つい二週間ほど前、その友となる動物を見つけました。
友を見つけるまでの間、ゼイの望みは、「力を持った動物がいい」ということでした。魔力、霊力、妖力どれでもいいから、力を持っている動物がいいと思っていました。そこである日、噂蛍というホタルが言ったのです。「魔力を持って生まれてきた猫がいるらしい」と。
それを小耳に挟み、色めき立ったゼイは行動に移すことにしたのでした。
「ねえ。ゼイ。」
キジミケの猫がゼイに呼びかけた。「ん?あ、ああ。ごめん。どうした?」「いや。ぼーっとしちゃって、どうしたのかなって。」
キジミケ猫の声は、ただかわいいだけじゃなかった。澄んだ声で、聴くともう忘れようがない声でした。そしてその目はなんとオッドアイで、晴天の青空のような色と、甘いはちみつのような黄色い瞳でした。
「全然大丈夫だよ。さ、ボール遊びの続きをしようよ、シーナ。」シーナと呼ばれた猫は、大きくうなずいて遊び始めた。
コメント
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みんな可愛い✨ 続き楽しみ!