テラーノベル
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週が明けて、月曜日。
出社直後に美紗と2人で部長のデスクに向かう。
「おはようございます。あの、部長。私と美紗、予定通り結婚します」
社内で1番に報告したかったのは、俺の味方をしてくれ、応援をしてくれた部長だった。
「おはよう、佐藤くん。そっかー。良かった良かったー‼ って俺、同じ人間から同じ人と結婚する報告を2回受けたの、人生で初めてだわ。再婚報告は前に1回あったけど」
わはははと豪快に笑いながら、「良かったな」と、もみじのような手で俺の二の腕を揺する部長。
「お騒がせして申し訳ありませんでした」
そんな部長に気まずそうに頭を下げる美紗。
「まぁ、色々あるよね。幸せにしてもらうんだよ、木原さん。これからもこの会社で働いてくれるんだよね? 引き続きよろしくね」
身長が美紗と同じくらいの部長は、美紗と視線を合わせて笑いかけた。
「はい‼ これからもご指導よろしくお願いします」
美紗が、少し涙目になりながら部長に元気よく返事をした。
「その、『色々』なんですけど……。朝会の時にちょっとお時間頂けないかと……」
これから大嘘を繰り出さなければならない俺は、目に涙を溜めた美紗の頭を撫でてあげる余裕もなく、部長に話を切り出す。
「あぁ。みんなにも2回目の結婚報告をしたいわけね。手短にね。何せ、2回目だから」
部長が【2】を強調させながら、俺の顔の前に人差し指と中指を突き立てた。
「はーい。あ、部長。部長がめっちゃ嫌ってた、『哲学好きの名言吐きたがり』な奴なんですけど、一概にいけ好かない人間ばっかりじゃないですよ。私がお話した人間は、めちゃめちゃ良い奴だったので」
そんな部長に、和馬くんの誤解を解く。何となく、部長の中で和馬くんのイメージが悪いままなのが嫌だったから。
「えー。そうなの? じゃあ、謝っておいてね。会社のハゲた小人が陳謝してたって」
部長が「申し訳なーい」とオデコ……と思われる部分をパチーンと叩いた。
「いえ、本人には部長の悪口は伝えてませんので。営業なので、利益にならない余計なことは言いません」
というか、和馬くんと俺は、そんな話をするほど仲が良いわけでもない。
「さすが営業部期待の星だねー。そっかー」
部長に『期待の星』と言われるのは嬉しいが、部長にとっての期待の星は部下全員だったりする。
「何の話?」
部長と俺の会話の内容が分からない美紗は、首を傾げながら俺を見上げた。
「昼休みに話すよ。今、それどころじゃない。昨日の練習の成果をこれから発揮しなきゃだから」
たいした話じゃないから、そんな話は後回し。
余計な話をすると、昨日覚えた大嘘の台詞を忘れてしまいそうだ。
「頑張ってね、勇太くん」
美紗が俺の手を握った。
「任せとけ」
余裕はないが、俺は必ず美紗の盾になる。
そして朝会の時間に。
「周知連絡事項はありますか?」の課長の声に、「少し宜しいでしょうか」と右手を挙げ、美紗と一緒に前に出た。
緊張気味の俺を、美紗が心配そうに覗き込む。
「大丈夫」と美紗に口パクし、大きく息を吸い込んだ。
「……えー。色々な噂が飛び交い、皆さんにご迷惑をお掛けしましたが、私と木原さんは当初の予定通り、結婚致します」
俺の発言に、当然所内はざわついた。
「仕事とは関係のない話ですので、話す必要もないのかもしれませんが、皆さんに気持ち良く結婚式に出席して頂きたく、この場を拝借し、弁解させてください。今回の件は、全て私の不徳の致すところでありました。木原さんが浮気をしたというのも誤解で、むしろ私の方にこそ問題がありました。結婚にビビって、男のくせにマリッジブルーになってしまい、小田さんに甘えてしまいました。木原さんが怒るのも当然です。皆さんが見た、木原さんの浮気相手と思われる人物は、私の妹も知る、ただの友人です。私の妹と木原さんは中学のクラスメイトです。古くからの付き合いなので、異常に仲良く見えただけで、木原さんは浮気などしていません。私自身も小田さんの優しさに寄りかかり、木原さんや皆さんに誤解を招く行動をしてしまったこと、深く反省しております。ただ、小田さんに救われたことは確かです。小田さん、迷惑を掛けてしまってすみませんでした。感謝しています。ありがとう」
少々の事実を織り交ぜながら、つらつらと嘘を並べ続ける。
だけど最後の小田さんへの気持ちは偽りのない真実。
昨日一昨日で一生懸命に考えた、小田さんへ向けた言葉。小田さんの気持ちを傷めつけたくない。嘘を吐いてでも、小田さんが俺に失恋したかの様な、周りからの憐みの視線を浴びせたくない。小田さんを辱めることなど、決してしてはいけない。俺を好きになってくれたと言う話が本当だったとしたら、尚更に。
小田さんの方を見ると、小田さんが目を真っ赤にしながら涙を堪えていた。きっと、最後の気持ちは嘘ではないことは伝わっているのだろう。
「……で、そんなこんなで結婚式準備に忙しくなってまいりまして……。今週末、木原さんと行く予定だった苺狩りツアーに行くことが出来なくなってしまいました。お詫びの印というわけではありませんが、良かったら小田さん、行きませんか? 苺、好きって言ってましたよね? もう1枚は、岡本‼ お前、いつもいつも毎日毎日暇を持て余してるんだろ?」
そしてここで、真琴に取らせた苺狩りツアーのチケットをスーツのポケットから取り出す。
「はぁ⁉ 何俺を暇人扱いしてるんだよ、佐藤‼」
わざとらしい俺の煽りに、見事に引っかかる岡本。
「え? 行かないの? じゃあ誰か……」
「行かないとは言ってないだろうが‼ 暇人じゃねぇってだけだわ‼ 今週末はたまたま時間があるだけだわ‼」
俺の話を遮った岡本が前に出てきて、俺の手からチケットを抜き取った。
そのまま自分のデスクに戻ろうとする岡本に「後は頼む」と耳打ちすると、岡本は「これがお前らが小田さんに出来る限界だろうしな」と俺を鼻で笑い、「おめでとさん」と言いながら俺の前を横切った。
「……というわけで、未熟者の私たちですが、これからもどうそ宜しくお願いします‼ 結婚式にも是非お越しください‼」
美紗と一緒に頭を下げると、
「おめでとう、美紗‼ 佐藤さん‼」
小田さんが1番最初に言葉を掛けてくれた。
顔を上げると、何とも言えない顔で拍手をする小田さんと目が合った。
本当は祝福などしていないのかもしれない。
だけど、それでも『おめでとう』と言ってくれた小田さんに感謝しかない。
小田さんにつられて周りも次々に『おめでとう』の言葉を口にする。
「ありがとうございます‼」
美紗と何度もお辞儀する。
上半身を倒した状態で美紗の方を見ると、美紗もこっちを見ていて、
「すっごく嬉しいね。幸せだね。勇太くん」
感極まった笑顔を見せた。
「うん。本当に幸せ」
また、過去の憎悪や嫌悪がふいに顔を出して、俺らを惑わしに来たとしても、俺は揺らぐことなくこの幸せを守る。
漂う嫌悪、彷徨う感情。
おしまい。
#B L
コメント
1件
わあ、第21話、読み終わりました…!朝会での勇太くんの告白シーン、すごく緊張感があって、でも最後に周りから「おめでとう」の声が次々と上がる温かさに、じんわりきました。特に小田さんが最初に拍手してくれたところ、胸が熱くなりました。勇太くんが「小田さんを辱めたくない」って本気で考えて嘘を紡いだのが伝わってきて、その誠実さに惹かれます。お二人の結婚、本当によかったですね🌷