テラーノベル
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洞窟の奥へ進むほど、空気は重く湿り、足元の水たまりが冷たく光っていた。 さっき倒したゴブリンの死体を跨ぎながら、俺は掌に魔力を集める。 別に意識してるわけじゃない。 ただ――こういう状況では、どう動けばいいか自然と頭に浮かぶだけだ。
暗闇の奥で、黄色い目がいくつも揺れた。 ゴブリンの群れが、唸り声を上げながら迫ってくる。
(数が多い。狭い。足元は水。天井は脆い。……はいはい、わかったよ。)
俺は一歩下がり、わざと水たまりの前に立つ。 ゴブリンたちは勢いそのままに突っ込んでくる。
掌を向け、魔力を一点に“縮める”。
「縮まり」
水たまりの中心が沈み込み、 次の瞬間―― 水が弾丸のように四方へ跳ね飛んだ。
「ギャッ!?」
水滴とは思えない速度で、ゴブリンの目や喉に突き刺さる。 前列が崩れた。
(まあ、こうなるよな。)
後続が怒り狂って突っ込んでくる。 数が多い。 このまま押し込まれたら面倒だ。
俺は天井を見上げ、掌を向ける。
「広がり」
空気が押し広がり、 天井の砂と小石が一斉に降り注ぐ。
ゴブリンたちが目を覆い、足を止める。
(止まった。じゃあ次。)
俺は掌を横に払う。 魔力を細長く収束させる。
「縮まり――線」
空気が横一線に引き絞られ、 見えない刃のような衝撃が洞窟を走った。
ゴブリンの胸、腹、腕が裂け、悲鳴が重なる。
倒れたゴブリンの向こうで、 さらに奥から重い足音が響いた。
「グルルル……」
巨大な影が姿を現す。 普通のゴブリンの倍以上の体格。 大剣を握り、肩は岩のように盛り上がっている。
(あー……こいつか。めんどくせぇ。)
巨大ゴブリンが咆哮し、洞窟全体が震えた。 だが俺は、別に焦らない。 “抜け目がない”なんて言われるけど、 ただ――見ればわかるだけだ。
この狭さ。 この天井の低さ。 この足場の悪さ。 この巨体。
(……お前、ここじゃ動けねぇだろ。)
巨大ゴブリンが大剣を振り上げ、突進してくる。 俺は掌を前に突き出し、魔力を一点に収束させる。
「縮まり」
空気が震え、巨大ゴブリンの足元へ向けて圧が走る。 狙いは足首。 巨体を支える一点。
「グガッ!?」
バランスを崩した巨体が前のめりに倒れ込む。 大剣が床に突き刺さり、動きが止まる。
(はい、動けない。)
俺はゆっくりと歩き、倒れた巨体の横に立つ。 掌に魔力を集め、今度は“広がり”を一点に向けて押し込む。
「広がれ」
圧が内部へ流れ込み、 巨大ゴブリンの胸が内側から破裂した。
静寂。
俺は肩の力を抜き、息を吐いた。
(別に意識してるわけじゃない。 ただ……こういうの、得意なだけだ。)
洞窟の奥はまだ暗い。 だが、もう怖くはなかった。
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