テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
学パロ現パロ幼なじみ朝菊/多分割と長くなると思います。2人以外のキャラでも、男女、交際関係の話でてきます。モブ多め。最終的には結ばれるけど最初は割とキツイ
朝→ヘテロ
菊→バイ
「……アーサーさん、私あなたの事が好きです」
「…は」
大きな桜の木の前で、髪を耳へかけながら菊はそう告げた。冗談には聞こえなかった。それに、今ジョークを言うのもおかしいことだったし。遠くから聞こえてくるはずのすすり泣きや笑い声が、今だけは隔絶されていた。さあっと吹く風の音が鮮明に耳に入る。
「…俺……は…」
目線をうろつかせた末、結局収まるところがなくて菊の足元へ目線を移す。気まずい、というよりは何をどう返せばいいのか分からなかった。菊は確かにとても親しい友人で、幼なじみで、もちろん好きだ。けれど、アーサーが抱いている、その”好き”は性に関連する感情ではなかった。おそらくそうだった。自分で言うのもなんだが、今までずっとモテる方だったし彼女とやらも作ってきた。恋愛経験が乏しいわけじゃない。彼女を作る、ということに疑問を抱くこともなかった。だから多分、己は異性愛者なんだと思う。…だから、菊のその心に答えられる自信がなかった。
何も言わず、口を小さく開けたままにするアーサーを見かねたのか、なんなのか、菊はくるり体を返した。
「…あなたが女性を好きなのは知ってます、いいんです。だからさっさと振ってください。お願いします」
そう言って、菊は右手を大木の幹へ伸ばした。そしてそれへと手を這わせる。少し顔を傾け、彼は小さく言った。
「まあもう返事はいりません。…これは、”ここ”で殺しておくつもりでしたから」
ゆっくりと幹から手を離し、彼はアーサーの方へ近付いてくる。何かされるのかと身構えていれば想定していたことは起きず、菊はアーサーの横を平然と通り過ぎていくだけだった。一瞬見えた彼の横顔は、なんの憂いも哀しみも帯びていなかった。いつも通りの、彼の顔。それだけだった。
目を開ければ、入ってきたのは見慣れた天井。自分の部屋だ。カーテンから漏れる光に目を細めて、アーサーはベッドから抜け出した。パジャマは脱がないまま、ハンガーにかけてあったシャツを手に取り、ドアノブに手をかけながらそれだけを身につけた。
「あら、おはよう」
「…あぁ、おはよう」
木製の扉を押し開ければ、そこには己の母親がいた。長い髪を上の方で纏めて、優雅にチェアに座っている。お気に入りのニュース番組をつけて、彼女は丁度ティーカップに口を付けていたところだった。
「まあ、酷い顔ね、アーサー。昨日早く寝なかったの」
「…なんか、寝れなかったんだ。寝る努力はしてた」
「そんなこと言って、夜中まで部屋の電気付けてたくせにね」
「……うるせぇ」
楽しそうに笑う彼女とは反対に、アーサーは不満げに口を歪ませていた。前髪をかき上げながらドアの前で立ち止まっていれば、ふと彼女はチェアから腰をゆっくりとあげた。そうして、キッチンの方へと歩みを進めていく。おそらく朝食がもう用意してあるのだろう、とテーブルへ近付こうとすれば「ほら、顔洗ってきてよ」と、母親から声がかかってくる。多少のめんどくささを感じながらもそれを態度に出すのは控えて、洗面所へと足を向けた。
ピンポーン……
ふと家のチャイムが鳴った。ソファに腰かけていた母親は立ち上がり、少し早足で玄関へ向かっていく。歯ブラシをくわえながら、洗面所から顔だけを出すようにしてアーサーは身を乗り出した。
「…おはよう、菊くん!
うんうん。制服似合ってるわね、とってもcute!」
玄関の扉から見えたのは、黒髪のよく見知った人間。前と違う装いで彼はそこに立っていた。
「そうですか?ありがとうございます…、カークランドさんにそう言っていただけたら安心ですね」
「まあ、菊くん……!!!!!なんてsmartなの…!アーサーにも見習ってもらいたいわ」
「余計なお世話、だ!!」
口をゆすいだ後、聞こえてきたそんな声に反発しながら洗面所を出る。そして、玄関前の人物へ目を向けた。
「…はよ」
「はい、おはようございます、アーサーさん」
にこりと彼はこちらへ笑みを返した。「まだいくつか準備が終わってないので先に行っててもいい」と菊に伝えるが、彼は小さく首を振って「待ってます」と笑った。そして彼が玄関のドアから離れようとしたので、母親がすぐさま声をかけ中で待つように言う。少し戸惑ったような顔をした後、彼は申し訳なさそうに室内へと入り込んだ。
新品のジャケットを羽織りながら、アーサーはふと思った。あんな事があったのも忘れるくらいに、菊の行動に異変は見られなかったことを。普通、親友に振られたら気まずくなって関わりが減るんじゃ?家が近いから、不本意に、なんだろうか。それにしては彼の顔に悲哀感は見られなかった。あの時己の横を歩いていった菊の顔をふと思い出しては、消えていく。変なことを考えるのはやめよう、とネイビーのネクタイをキッチリと締めて身だしなみをさらりと整えた。幾度か髪を撫でながら、玄関先に置いてあったバックを手に取った。そしてスマホを操作していた菊へ声をかける。
「すまん、待たせたか」
「いえ、それほど……大丈夫です、構いませんよ」
そう言って、彼はスマホをポケットへとしまう。肩にかけていたバックを引き上げ、ピカピカに磨かれた靴へ足を入れる。
「 …じゃ、行ってくる」
リビングにいるであろう母親に声をかけると「はーい」と軽快な声が返ってきた。見送りなんて中学の頃からなかったので特に気にとめず、玄関ドアを押した。春の風を肌に感じた。