コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
井浦は例のパステルカラーの ”かほく潟マップ” を机の上に広げた。そこにはミミズのような人型のイラスト、その上に屍蝋化死体と大野和恵の写真を置いた。
「うわ、キモっ」
「チワワ、おまえ、きゃーーとかいやーーーとかないのか?」
「何がよ」
「普通の女は死体の写真なんて見たら卒倒するぞ」
「はあ?」
「テメェ、女じゃねぇな」
佐々木咲は豊満な乳房を揺らして見せた。
「ケッ、きめぇモン見せんな」
「普通の男はこれを見たら喜ぶんですぅ」
「はぁ?」
「あんた、女より源次郎の方が好きなんでしょ」
「当たりめぇだ」
「うわ」
カーペットの上で胡座をかいていた源次郎が井浦を見た。
井浦も源次郎を見た。佐々木咲がその間に割って入り、「見つめ合うな!」と般若のような顔をした。
「井浦さん」
「なんだ」
「一度、整理しませんか?」
「おう、いいぞ」
源次郎の指は大野牧場を指差した。
「大野和恵は一人暮らしなんですか?」
「あぁ、夫は二十五年前に死んでる、らしい」
「らしい?」
「住民基本台帳にはそう記載されていた」
「はい」
「が、近所の住人から男性の姿を見たという証言が上がってきた」
「屍蝋化死体は、大野和恵の旦那さん」
「まだ分からん」
「二人とも大野牧場にあった”こたつ”のコードで首を絞められて」
「同じ蓮根畑の泥水にドボンだ」
「誰が殺したの?」
「それを今、井浦さんは調べているんですよ」
「あ、そうか」
「くそチワワ、黙ってろ」
源次郎は屍蝋化死体の全身の画像を指差した。
「なぜ違うんでしょう?」
「これか」
「何が」
「なぜ同じコードで首を絞められているのに、男性は陰茎や下腹部を執拗に刃物で傷つけられているんでしょう?」
「大野和恵はコードで絞められて意識を失った所でドボン、刃物での外傷は無い」
「同じ犯人なら同じような方法を選びそうなのに」
「だな」
「あと、大野和恵の腕や太ももにあるこれはなんですか?」
「これか?煙草を押し付けた火傷の痕だ」
「いつ頃のものですか?」
「古いものから新しいものまで酷ぇモンだぜ」
佐々木咲はその画像を顔に近づけて離し、眉間に皺を寄せて細い目で見た。
「何やってんだ」
「え、遠くから見たら何か形に見えないかなぁ、とか」
「ドメスティックバイオレンス、DV でしょうか?」
「誰がやったんだ」
「旦那さんが」
「蝋人形になった旦那が泥水から這い上がって嫁の腕に煙草押し付けんのか?」
「なかなかホラーですね」
源次郎はポン!と手を叩いて井浦を見た。
井浦はその手を握って源次郎を見た。
佐々木咲がその手を「アチャーーーーーーー!」と叫んで切り離した。
「痛ぇな!くそチワワ!」
「人の彼氏にベタベタ触るんじゃ無いわよ!」
「井浦さん、お子さんは」
「ん」
「夫婦で農場を経営していらっしゃったのならばお子さんは居なかったんでしょうか?」
「住民基本台帳には無かった」
「そうですか」
「だが数年前、大野和恵が男児と歩いていたと言う目撃証言もある」
「・・・・・無戸籍」
「無戸籍?」
「出産しても届け出ていなかったとしたら?」
「無戸籍か!」
「はい」
「ちょ、県警行ってくる!」
「もう戻ってくんな!」
井浦はベージュのトレンチコートを羽織ると革靴を履いてバタバタと階段を駆け降りて行った。
「ねぇ、源次郎」
「何」
「鍵、替えてよ」
「管理会社に聞いておきます」
「絶対よ!」
佐々木咲が源次郎の肩に頭をコツンと乗せ、その隣で体育座りをした。源次郎の手はその髪を愛おしそうに撫で、ビッグTシャツの袖に滑り込ませるとゆさゆさと揺れる乳房を弄んだ。指先が触れる、乳首が大きく膨らみ、源次郎の唇を待った。
「あ、ん」
「井浦さん、今日はもう来ませんよ、さっきの続きをしませんか?」
「賛成」
二人はそのままベージュのカーペットの上に崩れた。