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「おせーよ、何分待たせる気だよバカ」
開口一番の悪態。それに眉をひそめて、「待ってるお前がバカだろ」と返すのも、もう何年目だっけ。
「だったら来んなよ」
「お前が呼んだんだろーが」
互いに煙を吐き出しながら、口だけは止まらない。仲が悪い。少なくとも、傍から見たらそう見える。
でも、ふたりで帰る帰り道だけは、なんでか崩せない習慣になっていた。
「あー、マジ無理、お前の顔見てるとストレスで寿命縮む」
「だったら後ろ歩けよ、見えねーだろ」
「は? 後ろなんか歩いたら背中蹴るに決まってんじゃん」
「やってみろ、殺すぞ」
いつも通り、最悪の会話。だけど、何もない日は自然とLINEが来る。
「今日帰り空いてる?」とか「たまには喫茶店でも行く?」とか、意味わかんない誘い文句で。
「お前、なんで俺と一緒にいるの?」
不意に聞いたことがある。喫茶店で、互いにアイスコーヒー飲みながら、なんとなく。
あいつはむすっとした顔のまま、ストロー噛んで、
「うるせーな……お前がほっとけねぇだけだろ」
って、逆ギレ気味に答えた。
それがどういう意味か、ちゃんと理解したのは、あいつが引っ越すって聞いた日だった。
「嘘だろ、なんで?」
「は?実家の都合。そんな驚くなよ、別にお前と縁切るわけじゃ――」
「……縁切るんだろ、どうせ」
「……」
その日は、一緒に帰らなかった。
その日以降、一週間、LINEもなかった。
でも、駅前の喫煙所だけは、空気が残ってた。
煙草の匂いと、あいつの文句と、俺が返す罵声と、帰り道の夕暮れと。
引っ越し当日、俺はなぜか、あいつを見送りに行った。
スーツケース引いてる姿が遠ざかっていくの、見てられなかった。
「……おい」
「……は?」
「俺のいないとこで勝手に元気になんなよ」
「……お前が言う?」
互いに睨み合って、でも、口元はなんか緩んでた。
「ばーか、寂しくなるだろ」
「知るかよ……お前がいない駅前とか、退屈で死ぬわ」
少しの沈黙。あいつがスーツケースの取っ手から手を離して、ぐいっと俺の制服を掴んだ。
「俺がいない間、他のやつと帰ったら殺す」
「お前こそ、知らない土地で友達作るな」
「……めんどくせぇ腐れ縁」
「お互い様だろ」
最後まで、ちゃんと笑ってやれなかった。
でも、涙がこぼれるほどじゃなかったのは、たぶんまた会える気がしてたから。
そして今も、駅前の喫煙所で、スマホを握りしめてる。
『お前今どこいんの』
打ちかけて、消して。
『そっち行っていい?』
また消して。
――ピロンッ
『そっち戻るわ 来週』
思わず笑って、スマホ抱えて座り込んだ。
また最悪な会話を、最悪な顔で交わす未来が、楽しみで仕方ない