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藤堂の支配から逃れた伊織と藤井渚は、そのまま岡山を離れ、新幹線で東京へと向かった。伊織は、藤堂の強すぎる執着から自分を解放してくれた渚と共にいることに、深い安心感を覚えた。二人は、まず、通っていた高校に退学届を提出した。藤堂の件で学校側も静かに対応せざるを得ず、伊織は中途半端な形で学業を終えることになった。藤井もまた、伊織の側にいることを選び、東京で新しい生活を始める決意をした。
彼らが選んだのは、賑やかな東京の片隅にある古いアパートの一室。中卒での仕事探しは容易ではなかったが、藤井は持ち前の行動力で、すぐに小さなデザイン事務所の雑務の仕事を見つけた。伊織もまた、体力仕事のアルバイトを掛け持ちし、二人の生活を支えた。
藤堂の支配下にあった頃の、高級ホテルのスイートや高価なプレゼントとは対照的な、質素な生活だった。しかし、二人の間には、藤堂の独占的な愛情にはなかった、穏やかな信頼と自由があった。
「伊織くん、今日のお弁当、少し量が少なかったかな?」
「ううん、渚が作ってくれたものは全部美味しいよ。俺、こうして渚と二人で、普通の生活ができるのが、一番幸せだ」
伊織がそう言って微笑むと、藤井もまた穏やかに笑った。藤堂が伊織に求めた「可愛い」存在としての振る舞いではなく、対等なパートナーとしての伊織のすべてを、藤井は受け入れてくれた。
あっという間に、一年が過ぎた。
二人は特に大きなイベントもなく、ただ一緒に働き、共に食卓を囲み、静かに夜を過ごした。その中で、二人の関係は水が流れるように自然に深まっていった。
ある日の夜、藤井が伊織にふいに言った。
「ねえ、伊織くん。もう一年経ったね。このまま、籍を入れてみるのはどうかな」
それは、プロポーズというよりは、今後の生活を決める提案のようだった。伊織は驚くこともなく、穏やかに頷いた。
「うん、そうだね。いつの間にか、俺たち、家族みたいになってた」
そして、二人は誰にも知られることなく、静かに結婚した。豪華な式も指輪もない、中卒で働きながらのささやかな結婚だったが、それは藤堂の支配から勝ち取った、二人だけの自由の証だった。
さらに数年が経ち、二人の家庭には、新しい命が授かった。
最初に生まれたのは、藤井渚に似た、ボーイッシュで活発な女の子。そして、その数年後には、伊織の繊細な美しさを引き継いだ、静かな男の子が生まれた。
二人は、子供たちに惜しみない愛情を注いだ。伊織は、誰にも邪魔されない、穏やかな愛の中で、ようやく過去の影から完全に解放された。
藤堂蓮のことは、もう遠い過去の出来事となっていた。彼の社会的地位の崩壊はニュースになったが、二人の生活に影響を及ぼすことはなかった。藤堂の愛は激しすぎて、あまりにも重すぎたが、藤井の愛は、伊織の心と体を支え、自由という名の居場所を与えてくれた。
家族四人で公園を歩くとき、伊織は妻となった藤井渚と、両手に繋いだ子供たちの重みを感じた。この温かく、平和で、誰にも支配されない日常こそが、伊織が本当に求めていた究極の愛の形だった。
藤堂の熱い鎖から逃れた伊織は、藤井渚と共に、質素だが満たされた、幸福な人生を歩み続けている。
— 終 —
機能停止「50話行きたいとプロフィールでは書いていましたが、ここで終わらして新しいものを書きたいと思うようになりました。まあ書いてはないんですが(笑)でも、この小説をかけた事が、私の最近の幸せです。いいねしてくださった方…満足できましたか?連載はやめますが、読み切りで幸せそうな2人や、藤堂のその後を書こうと思います。ありがとうございました!」