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妖精の子 〜星の苗床〜

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妖精の子 〜星の苗床〜

14 - 第14話 第五区の火 〜国家内乱編〜

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2024年02月25日

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夜空の近くを飛行する巨大な建造物。その中は無数の明かりで照らされている。

この八鏡はその構造上、明かりとの相性が非常に良い。

夜という暗闇を等間隔で置かれた電灯のお陰もあり、遠くまで見渡す事が出来る。

「あ、そう言えばタケさん♪さっきの覚醒者とかってそんなに強いの?」

帰り道を進んでいると、横からギンが顔を前のめりで顔を覗かせる。

「あぁ、強いって君に話すのは何だか変な感じだね。知識として知ってるだけの僕と経験のある君。仏に説法を解く気持ちだよ。」

ギンは、顎に手を置きながら眼球をぐるっと動かし、記憶を探るも何もヒットしない。

「あれ?戦った事あるっけ?全く覚えてないや。」

「はは。ほんとうに敵じゃなくて良かったよ。この八鏡も一筋縄じゃない。いや、なかったと言うべきか。それぞれの考えがあり、正義がある。それ故に成長を自身で止めてしまっていた。だが、きみが独断で行った破壊のおかげでこの国は一つに纏まろうとしている。」

「タケさんっていつも前置きが長いよね〜♪その中にいたって事でいいの?」

熱く熱弁していたタケだったが、ギンに結論を急かされてしまう。

「そ、そうだね。彼らの死体を解剖した結果、体内は人間のそれではなくなっていたそうだ。彼らの中には動物型も居た。あり得ない話ではないよ。」

「ふーん。覚醒者…正確には蝕人だっけ?」

「そう蝕人、妖精石に侵食された人のことだね。飛躍的に身体機能、感応数が向上するが、精神すら蝕まれていくそうだ。だけどね、蝕人にはその先があるんだ。」

「死以外にって事?」

蝕人になった人の末路…いや、蝕人になるまでの過程で多くの人が妖精石に取り込まれ、体を結晶に変えて死んでしまう。それに適応し、蝕人になっても、結晶化までは時間の問題らしい。ある人物をおいては。

だが、タケの言い方からその人物かとも思ったが、彼の返答は別のものだった。

「シキが前に言っていたんだが、妖精石は種に過ぎないらしい。ごく稀にその妖精石と共存した人間がいるらしいんだが、彼らには花が咲くそうだ。心臓と脳のどちらか、あるいは両方に。そうなった人のことを花人と言うみたいだよ。」

「ふーん。まぁシュウいるし、大丈夫でしょ。何とかなるよ。」

とてもではないが、あの凶人ギン・キキとは思えない発言だった。

「随分と彼を買っているんですね。」

「んー確かにシュウは弱いけど、シュウの周りって、強い人が集まりやすいんだよね♪だから、大丈夫。第五区の人数は少ないけど、層が薄いわけじゃない。むしろ、その少数で十分何だよ。」


「どけ!」

ランはマルを蹴り飛ばし、シュウに向き合う。

「おい、うちの声は聞こえてるか?」

「はぁはぁはぁ…ラン、さん?な、何か体が熱くて、変な感じです。」

肩で息をしながら、答えるシュウにランも駆け寄り、そっと背中に手を置く。

「大丈夫だ。意識をしっかり持て。不安ならうちにしがみついとけ。」

シュウを抱え、急いで移動しようとするが、その行先を頭から血を流しながらも立ち上がったマルが阻む。

「全部思い通りに行くとでも、思うなよ。」

「余裕がねぇ。さっさと失せろ。」

シュウを抱えた状態、それでも埋められない力の差がマルとランにはあった。

だが、それはマルも知るところであった。故にこの瞬間の時間稼ぎの為にマルは小瓶に入った赤い妖精石を勢いよく頬張った。

「はっはは!僕は君たちが苦しむ姿が見たいんだよ!その為なら、何にだってなってやる!」

マルの体が歪に変化して行く。体が膨張を初め、皮膚が内部から何かに押されるようにメリメリと膨らんでいく。

「この馬鹿が。」

一つであればまだしも、妖精石の過剰摂取。一つ一つに入った情報が違う場合、体はそれら全てと混ざり合う事になる。そんな急激な変化に耐えられる筈もない。まさに自爆。だが、その行為によってもたらされる結果は最悪なものだ。

「ヒィィ!わ、私も助けて下さい!」

端で息を潜めていた女性がランの足にしがみついてくる。

「しがみつくな。こいつはうちでも抑えれる。だけど、それまではここを離れられない。カイドウシュウ、気合い入れて踏ん張りやがれ!」

「死ねぇぇ!!」

上空から現れたそれは着物を纏い、音もなく着地する。

剥き出しになった刃から、火が僅かに灯っており、刃を鞘にゆっくりと戻す。不思議とその全てが終わるまでの間、目が離せなかった。

「ー炎廻、破。」

その一言と同時にカチャと納刀される。刹那、時が動き出したかのように、肥大を続けていたマルの首から下が落ち、体は灼熱の業火に包まれる。

「アズキねぇさー」

「クロエ・トゥ・アズキィィッ!!」

クロエの出現に嬉しそうに駆け寄ろとするランだが、今まで気絶していたウツギが怒りの形相でクロエを睨んでいた。そして、足元には肥大化したマルの欠損部位が転がっていた。

「これはこれは、元中佐のウツギさん。このような所でお会いするとは。」

「お前さえ、いなければ!俺らは!」

「この世には縁というものがあり、どんな者にも敵となる存在はいます。その敵の存在を恨むのはであれば、超えるための努力をしなさい。それすらしないのであれば、敵ではなく、天を恨みなさい。生まれる時代を間違えたと。」

ウツギは足元に転がる一際大きな結晶を手に取り、噛み砕く。

「そんなもんで、納得出来るかァァァァ!」

「なるほど。では、此度も…縁がなかった。それだけの話です。」

居合の構えを取り、前方に倒れるような脱力。

「ー陽炎。」

突如目の前に現れたクロエにウツギは甲殻のついた腕で身を守る。だがー。

「ー居合、瞬炎。」

ウツギよりも数段早く、クロエはウツギの横を通り過ぎる。抜いた刃すら見えない程の速度。

「こ、こんな事が。…すまねぇな、マル。」

ウツギの体がぐらりと傾き、倒れる直前で首と体が離れ、ゆっくりと転がり落ちた。

「すげー。」

その太刀筋を薄れゆく意識の中、見届けると、テレビの電源が切れるようにぷちんっと目の前が真っ暗になった。

目が覚めた時、見慣れない天井と少し柔らかい枕。そこが、第五区の事務所であると気づいくのにそう時間はかからなかった。

「シュウ君?朝ですよー。」

「…」

軽快な足音の持ち主が廊下から扉を開ける。

こちらが目を覚ましているのを確認すると、にっこりと笑って見せた。

「もう、起きてるなら返事の一つでも欲しいものです。それはそうと朝ごはんが出来ていますので、顔を洗ってから、いらっしゃい。」

「えっと…クロエ、さん…?」

つい、ツッコミを入れたくなるが、相手はあくまで目上の方。グッと抑えながら、あえて、さん付けで呼ぶ。だが、そのシュウにクロエはバタリと口元を抑えて倒れる。

「とうとう、他人行儀な呼び方に。これが反抗期。お母さんショックで寝込みそうです。」

「えぇー。いやーでも、クロエさんにも失礼だし…」

しどろもどろなシュウにクロエはクスリと笑い、正座で向き直る。

「母の心配をしてくれたのは純粋に嬉しく思いますよ。ですが…私を思うならなおのことー」

少しずつ近づいてくるクロエだったが、遠くから早いテンポを刻む足音が近づいてくる。そして、それはクロエの言葉を遮り、訓練用の妖精具を一切の躊躇なく振り下ろす。

「しゅ、襲撃か…ってキョウカ!?」

武器の持ち主がキョウカであることに、自身の目を疑う。それもそのはず。以前、ニールに攻撃を仕掛けていたシュウをあれだけ咎めたのは、他の誰でもない、キョウカ自身だった。

「えぇ。言いたい事も分かるわ。私も信じられないけど、あの人の暴走を止めるには、生半可な攻撃じゃダメなのよ。」

「隙を突いたよい攻撃でした。ですが、追撃の一手がないのはまさかとは思いますが、私への手心ではないでしょう?キョウカ。」

キョウカの刀を余裕綽々で躱したクロエがキョウカに対して威圧する。それにキョウカとシュウの2人が警戒心を強めるが、立ち上がった瞬間、体中が痛み、シュウはその場でうずくまる。

「ゔぅ!」

「…シュウ?」

僅かにクロエから視線を逸らした事でクロエはキョウカが気付くより早く、柄を掴む。

「隙だらけです。」

察知した時には遅く、得物を奪われ、柄頭を腹部にめり込まれる。

「…ぁ……」

声にならない短い悲鳴を残し、その場で丸まる。

「続きは朝ご飯の後にしましょう。シュウ、体の方はシキさんが診てくれました。まだ痛むようでしたら、相談しますか?」

「い、いえ大丈夫です。…ほら、キョウカお前も立てるか?」

体を起こし、キョウカに手を貸す。キョウカも一度こちらを見た後、手を伸ばしてくる。だが、その手の間にクロエが手刀を落とす。

「動けない程強く打った記憶はありませんよ。それとも、助けが必要ですか?」

「…え?」

確かに稽古中のクロエは普段とは打って変わって厳しいが、助け合いを咎められたのはこれが初めてだった。だが、キョウカは動揺する事なく、首を振り立ち上がる。

「いえ、大丈夫です。」

その落ち着きぶりから、この態度はキョウカの前では見慣れたものなのかもしれない。

「では、朝ごはんの時間です。」

「はぁはぁはぁ…。あ…ありがとう…ございました……。」

本日は休暇を言い渡され、結果キョウカの稽古を見物するだけになった。

動いているキョウカを見ていたら体がうずき始め、こっそり妖精具に手を伸ばすが、くるりとクロエの顔がこちらを捉える。

まるで、見えていますよ、とでも言いたげな表情に、伸ばした手を引っ込めた。

確かに後、一週間は研修期間があるが、この1日につく差が後々とんでもない広がりになりそうで、じっとしていられなかった。

だが、今できる事もなく、シュウに出来るのは歯軋りをすることぐらいだった。

「お前、何してんだ?」

ようやくパトロールから帰ってきたランに声を掛けられ、我慢の結果、シュウの顔中に皺が集まり、変顔のようになっていた。

「俺も…俺も強ぐなりだいのに!」

「お、おう。そうだな。まぁ、あんだけ寝てたのに、それだけ動けたらいい方だろ。よし、今日はうちの奢りだ。さっさと準備しろよ。」


以前子供達に襲撃されたお店にやってくると、4人は外のテーブル席に腰を掛ける。

「良かった。数日掛からないでお店を再開できたんですね。」

重吉が子供達に襲われ、それ程時間が経っていない事から怪我は大きいものではなかったのだろう。

「数日ってお前寝ぼけてんのか?今日で一週間は経ったぞ。シャッキとしろよ。」

「あはは、そうですよね。もう、一週間…え?一週間?じゃあ、今日が最終日?」

戸惑い立ち上がるシュウに3人は顔を見合わせる。

「おや、そう言えば話していませんでしたね。シュウ君は一週間程眠っていましたから。時間感覚がズレてるかもしれませんが、今日が研修の最終日ですよ。 」

「えぇ!?何で言ってくれなかったんだよ、キョウカ!」

「それは、ごめんなさい。でも、日付の確認方法もいろいろあると思うけど、それをしなかったのはシュウも同じでしょ?」

「そんな…」

たった1日だけでもあんなに我慢したのに、どうやら気付かぬうちに一週間も経っていたようだ。

「大丈夫ですよ。2人の研修は終わりますが、明日からも第五事務所に帰ってくればいいのです。だから焦る必要は何もないですよ。」

がくりと落ち込むシュウにクロエが優しく微笑む。だが、キョウカが即首を横に振る。

「いえ、結構です。私達の自室も中央棟に用意されてますから。」

「…ゴフッ」

クロエは短く痙攣すると、箸を地面に落とし、床に倒れる。

「クロエさーん!?」

「アズキねぇさん!!」

慌てて駆け寄り、抱き抱えると、クロエは震える手を胸の前に持ってくる。

「なるほど。これは、しつこいクソバアア。もう、どっか行けよ…と言う事ですね。かなりの破壊力です。暴言2つで私の致死量に到達します。以後発言には気をつけて下さい。」

(この人はこの人なりに本気で俺とキョウカに向き合ってくれてる。孤児院にいたからよく分かる。帰る場所がある温かさを。だからこそ、この人には遠慮とかで誤魔化さずに本心で応えたい。)

「クロエさん。俺はシキさんの護衛で助手だから第五事務所ここには残れません。こんなによくしてもらったのに、すみません。」

「いえ、いいんですよ。それがあなたの答えなら。」

この人の優しい顔が好きだ。何をするにも真剣で、いつも心穏やかに笑うこの顔が。

「クロエさん。」

シュウは尊敬の眼差しをクロエを向ける。

クロエはすっと立ち上がると、シュウにいつも通りの微笑みを返してくれる。彼女は背を向けつつ、白い 服についた汚れをはたき、妖精具を手に取った。そして、ただ一言。

「では、中央棟を煤塵にして来ます。」

「クロエさーん!!ストップです!!」

「シュウ君、ごめんなさい。お母さん今から少し、行かないといけないところがあるので。」

シュウが必死にクロエの腰を掴んでいると、クロエ目掛けてキョウカがハイキックをお見舞いする。師範モードに切り替えさせる為だろう。

しかし、蹴りを最小の動きで避けられ、2人とも手首を掴まれ、気づけば、自身の椅子に腰掛けていた。

「キョウちゃんもごめんなさい。でも、安心して下さい。すぐに終わりますので。」

「くっ!蹴りでは甘すぎた。」

「どうしましょう、このままじゃ国家転覆ですよ、ランさん!」

ぼーっとその様子を眺めていたランに振ると、ランはまさか振られると思っていなかったのか、水をムセる。

「ゴホゴホッ。いや、ウチはアズキねぇさんの為なら…国とでもヤリ合える覚悟だぜ。」

何故か、嬉しそうに頬を赤らめながら席を立つラン。思わぬ加勢にシュウは頭を抱える。

「お終いだ!」

机に伏せるシュウと悔しそうに顔を歪めるキョウカだったが、たった一声でこの場が静まる。

「ったく、店が騒がしくて仕方がねぇ。」

その声にランがすぐに席に座る。

「これはどうも、重吉さん。騒がしくて申し訳ありません。」

完璧な外面モードのクロエに重吉は鼻で笑う。

「それにしても、お前さんが言うとさっきの与太話も本気に聞こえちまうな。」

そのセリフに、クロエはピタリと動きを止めた。

「お前さんとランが暴れた日を見ちまったらもうー」

「重吉さん?その話はちょっと…」

話し出そうとする重吉を止めるクロエだが、何とも気になる話題に、シュウがランに首を向ける。

「2人で喧嘩でもしたんですか?」

「ちげぇよ。うちのせいでアズキねぇさんが体調崩して、そんで…迷惑かけた所に謝りに行った後の話だな。」


各所に謝りに行き、クロエも安静にしてたこともあり、ものの数日で体調は回復した。そして、その機を見計らい、第五区事務所の最上階にある戦闘ルームにクロエを呼んだ。

「どうやらお待たせしてしまったようですね。」

後から入ってきたクロエが中央で正座をするランに一礼をして中に入る形となる。

「いや、呼んだのはうちだ。先に待ってるのが筋だと思ってな。」

「それで、要件とは?」

「今のアズキねぇさんの力を疑ってる訳じゃねぇ。けど、後から妖精具を使えば勝てたとか思いたくねぇんだ。だから、本気のウチと戦って欲しい。」

「…なるほど。手合わせではなく、真剣勝負と言う意味ですね。」

黙って頷くと、クロエは刀に手を添え、静かにもう一度礼をする。

承諾してくれたという合図だろう。失礼な事を言ってるのは百も承知だった。これだけ無様に負けておいて、まだ完全には認めてねぇ。そう映ってるかもしれない。けれど、本質は全くの逆だった。

認めてるからこそ、本気でやれる。自分の全力を受け止めれる相手など、そうそういるものではない。どうやったって相手の死に顔が頭に浮かんでしまう。

「ありがとうございます。」

ランも起き上がり、クロエに頭を下げる。そした、短刀を2本引き抜き、前に構える。

「第五区事務所の隊長との真剣勝負ともなれば、私も全力で行かねばなりませんね。」

「おいおい、良いのかよ。師範がそう簡単に底なんてみしちまってよ。」

「えぇ。底というのは見せないものではありませんよ。見せた上で掴ませない。それが底というものです。捉えれるものなら捉えて見せなさい。」

その言葉を発すると同時、これまで閉じていた瞼をゆっくりと引き上げる。瞼のうちに隠れていた宝石のような赤目がこちらを正確に捉える。

だが、目が瞬時に明かりに慣れる訳がない。つまり、目が慣れるまでの今が最大の好機。

「行くぜ。アズキねぇさん。」

ランが体勢を低く、クロエに肉薄する。刀で受けたクロエの摩擦を操り、足を地面に、刀を短刀に貼り付ける。

「悪いが、短期決戦で行かせてもらう!」

「えぇ。良い能力ですね。では私も。」

刹那、凄まじい熱気がクロエの周りを覆う。

その熱に周囲の壁が次第に折れ曲がっていく。

「閻魔ー天上煤塵、地獄廻!」

「おいおい、マジかよ。」

その一夜に上がった火柱によって第五事務所は原型も残らない程に灰になった。結果、寄付金を募り、クロエが修理代に配ったお金の殆どが再建代として使われる形となった。

「ぷはははははっ!あのちんちくりん。そんな事で第五事務所全壊したの?ほんとバカね。」

「ちょ、笑いすぎですよ、リツさん。」

この一週間何があったか包み隠さずに離せというリツの指示通りに事の顛末を話すと、リツは堪えきれないと言うように、腹を抑えながら笑っていた。

「で、それはそうと…あんたどうしたの?」

シュウの顔には大きな腫れがあり、傷跡から見てそれ程時間が経ったようには見えなかった。

「じ、実は妖精具を壊してしまって、シキさんに飛び蹴りを。」

そう。ウツギとの戦闘時に妖精具が破損し、シキに持っていくと、今までのシキからは考えられない程のスピードで顔に蹴りをお見舞いされたのだ。

『助手。私は言わなかったか?妖精具は貴重だからそうポンポンと作れるものではないと。それを壊したなどと言う君にくれてやる妖精具はない。』

そう言い放たれ、シキが変わりにと、くれたのは一本のダガーナイフだった。もちろん、妖精石の入っていないただのナイフだ。

「そう、それは…災難だったわね。ププッ。」

いかにも楽しそうな顔でこちらを煽ってくる、リツにシュウは扉越しに飛び掛かる。

「ちょっと!?何笑ってんですか!笑い事じゃないですよ!!大変だったんですからね!」

「あらら?何だかよく聞こえないわ。お猿さんが何か言ってるみたいね。まぁ、どうしたのかしら〜?」

「キイィィィィィ!!」

高笑いしながら煽るリツに威嚇し続けたシュウとリツの面会はそこで終わった。


地下にある一室。横に広いが、高さはそれ程ない。部屋の中。あるのはいくつかの机のみ。今はもう使われていない、軍事施設の一つだ。

「はぁ、交渉って面倒くさいなぁ、面倒くさい!…帰ろうかな?」

「こ、ここまできておいて!?変な事言ってないでチャチャっと片付けちゃえばいいじゃないですか?」

「チャチャッと?チャチャチャ?チャチャチャ。…うんやっぱり面倒くさいや。どんなに誤魔化してもその事実は変わらないし、だから私の代わりに話してくれない。私はどこかの喫茶店で美味しいもの食べておくからさ。ふぅ〜♪」

「ふぅ〜じゃないです。はいはい、我儘言ってないで行きますよ。今日は新人もいるんですから、威厳のある姿で。」

「そんなの時間が経てば無くなるに決まってるんじゃん。私の素ってこんな感じだし。だから、早めに潰した方がお互いに楽でしょ。」

「あ、あの…着きました。」

緊張気味に強張った声で扉を指差すと、ロングヘアーの女性がため息をしながら背筋を伸ばす。切り替える準備をしているのだろう。

「ん…ありがと。」

部屋の扉を数度ノックし、中から「どうぞ」と声が聞こえる。

ガチャリとノブを回し、中に入ると同時に、先頭のいた女性がフードを脱ぐ。

「こんにちは。本日はお招き頂きありがとうございます。早速で申し訳ないのですが、要件についてお話をしてもよろしいでしょうか?」

それに、ソファーに腰を掛けていたタケはにやりと口元だけで笑みを作る。

「わざわざ悪いね。取引がしたい。この国の…いや、お互いの為にね。」

そこで、立て付けの悪い扉がギイギイと嫌な音を鳴らしながら閉じられた。














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