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数日後・・・北斗は町の中心の郵便局の前で配達に行く前のジンを捕まえた、配達車にもたれてのどかにさえずる鳥を見ながら、缶コーヒーを突き合わせた
「乾杯!」
「乾杯!」
ジンがくつろいで配達車にもたれ言う
「それにしても良かったなぁ~、予定日にもよるが上手く行けばうちの子と、同じ学年になるかもな 」
「ああ・・・そうだな・・・ 」
北斗は嬉しそうにジンに応えた、アリスが身ごもったと聞いた時は、北斗の人生で最も喜びに満ちた時となった
しかしあれからここ二日アリスは、ベッドに伏せがちになっている、お福から言わせると妊娠初期はやたらと寝るものらしい
こんな時には夫である自分が労わってやらねば、でも何をすればいいのかわからない、そこでジンに相談来た
「二人の子がこれほど時期が合うとはな」
ワハハとジンが笑い出し、北斗の肩をバシバシ抱いて言う
「うちは不妊治療だけど、お前の所は新婚だろ?、嫁さんと頻繁に夜を楽しんでるんだから当然さ」
「わかりやすい説明に感謝する」
「どういたしまして」
ジンが瞳に茶目っ気らしき輝きを放ちながら、さらに耳元で言う
「どういうわけか子供がいる時の方が、淫らな事をしたくなるもんだぞ」
「そうなのか?」
ドキドキしながら北斗はお父さん経験者の、ジンのアドバイスを聞く
「まぁ・・・タイミングを見ないと、嫁さんにひどい目に合わされるけどな、子供を産んだばかりの母親ほど恐ろしいもんはないさ、貞子も赤ん坊の防衛本能でピリピリしてたもんさ」
途端にハァ~と北斗が大きくため息を吐いた
「俺・・・良い父親になれるか、自信がないんだ・・・ 」
「そんなもの俺だって同じだよ、でも考えてみろ、あっちも人間0歳なんだ、んで俺も父親0歳だろ?一緒に成長していけばいいんだよ!」
そう励まされて安心した北斗が大きく息を吐き、何でも直感的に話し合える友人であり、しかも自分より先輩お父さんとし、今思っていることを素直に言った
はぁ~・・
「女の子だったら色々心配だろ?年頃になったらさ・・・どこの馬の骨かわからないようなヤローを連れてきたりして・・・もし騙されでもしたら・・ 」
ジンが笑う
ハッハッハッハッ「俺ならソイツの鼻をへし折って、髪の毛をつかんで引きずり回すよ」←(安定のお父さん思考)
..:。:.::.*゜:.
ジンとの話を終え、たベンツのハンドルを握りながら北斗がブツブツ言う
ブツブツ・・「男が産まれたらジン所の嬢ちゃんとは、付き合わせられねぇ~な! 」
その時国道沿いに、白いウサギがクローバーを持ったイラストの大きな看板を見かけた
そこは日本でも有名なベビー用品ショップの看板だった、今まで何度もこの道を走っているが、見向きもしなかった北斗が自然と吸い寄せられるように店舗の駐車場に車を停車した
ドキドキ・・・「いっ・・・行ってみるか・・・ 」
ハァ~・・と大きく深呼吸をする、アリスが妊娠していると聞いてから、なんだか動悸が速い
クスクス・・・心が笑っている
なじみのない感覚なので、今自分が幸せなのだということに、気付くのに時間がかかった
ガー・・・「いらっしゃいませ~~」
ドキドキしながら北斗がベビー用品店の自動ドアを踏むと、温かい暖房の風とピアノの優しいBGMに包まれた
まるで未知の惑星に着陸した気分だった、明の時はこんな店知らなかったし、あの時はがむしゃらですっかり育児を忘れてしまっている
広い店内を眺めて北斗は圧倒された、いくつもの売り場がどこまでも続いている気がする、赤ん坊のモノはこんなに果てしなくあるのか
まず目に入って来たのは高い天井にまで、沢山吊り下げられている子供服だった
ほえ~・・・「あんな・・・高い所の服・・・どうやって取るんだ?」
すると隣にいた夫婦らしきカップルが、引っ掛け棒ストックバーをもって、高い服のハンガーに棒を引っ掛けて取っていた
ふんふん「なるほど・・・ああやって取るのか・・・」
北斗は一つ、べビ―用品店のマナー知識を手に入れた
そして一流ブランドの子供服の棚では、値段を見て北斗はめまいを覚えた、子供のファッションというものは、その気になれば信じられないぐらいお金をかけられるものだ
「なんだか広すぎて何も見つけられないな」
あきらめて帰ろうとした時、陳列棚の上のバーに目が行った、「新生児コーナー」と書かれている
自分が行く所はここだと、磨かれた真っ白のタイルに靴音を響かせ、未知のゾーンへ足を運んだ
売り場の両棚には信じられないほどの、ベビー用品が所狭しと並んでいた
うわっ・・・「ちっさ・・・」
北斗が新生児用の靴下を手にして言った、三枚入りで可愛い台紙に張りつけられている、色は黄と水色とピンクだ、おもちゃのように見える
どうなんだろう・・・女の子だったら水色はいらないし、男の子だったらピンクは履かないんじゃないか?
靴下を手にうんうん考える
「すいません・・」
真ん中に立ちすくんでいるので、これじゃ誰も通れない北斗に他の客が声をかける
「ああっ!すすすすいません!」
ビタンッと壁に飛びのいて張り付いた、北斗に場所を開けるように声をかけた客は妊婦さんで大きなおなかを抱えている
横目でお腹をチラチラ見る
ドキドキ・・・・・でっでかいな・・・アリスもああるのかな・・・・自分の腹が膨らむなんてどんな気分なのかな・・
あんまり見るな!不審者だぞ!
カウンターレジの店員が心なしか、北斗をジロジロ見ているような気がする
コホンツと一つ咳をして冷静を保つが、その行動がどう見ても不審者だ!
ダメだ!どう考えても自分一人だとなにか怪しい、今度お福さんとアリスを連れてこよう
よしっ!そうしよう!
そう決意をして北斗がさっさと退散しようとした時、おもちゃ売り場に視線を向けると、あるものに目が止まった
途端に北斗の心の中に花が咲いた
..:。:.::.*゜:.
「お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします 」
アリスは北斗の家の寝室の、ベッドに正座で座り、一本の妊娠検査薬を必死で拝んでいた
ブツブツ・・・
「今度こそ! 」
時間になり検査薬をひっくり返し結果を見る。結果は「陰性」・・・子供は出来ていない、もうこれで10本目の検査薬の結果だ、何度やっても同じだ、アリスは妊娠していない
うわぁ~~~ん(泣)
「どうしてできてないのぉ~~!どうしてあんな嘘ついちゃったのぉ~~おかげでみんなの顔が見れないぃぃぃ 」
アリスはスティック状の検査薬を投げつけて、ボスンと枕に突っ伏して、手足を気がすむまでバタバタする
ヒック・・・・
「北斗さん・・・・あんなに喜んでくれてるのに・・・・今更嘘なんて言えないわ・・・ 」
実際彼の喜び様はすごかった、それでわかった・・・彼が今までどんなに家族に対して寂しい思いをしていたか
彼のこれまでの人生で、孤独に打ちひしがれることが何度もあり、そうなる度に自分の暖かい家庭を、思い描いたのだろう
北斗さんは欲しがっている、自分の愛を一身に捧げられる、自分と血が繋がった分身を・・・
与えてあげたいのに・・・
アリスは目を閉じて、自分のお腹に手を当てた
ねぇ・・・どこにいるの?こんなに待っているのよ・・・・
早く私達の所に来てよ・・・
..:。:.::.*゜:.
でもいつまでも嘘をついたまま、ここに閉じこもっていても何も解決しない、アリスは北斗が帰ってきたら、今度こそ真実をうちあける決心をした
その時、家の前に北斗のゲレンデヴァーゲンが停車する音が聞こえた
彼が帰って来た!
今度こそ真実を言わなければ、アリスは階段を降りて玄関に向かった
バタバタ・・・「北斗さんっ・・・あのね―」
そこにピタリとアリスは一時停止した
玄関には大きなテディベアのぬいぐるみを抱えて、北斗が凛々しく忽然と立っている
彼は優しくアリスに笑いかけ、片眉をくいッと上げてテディベアを掲げて見せた
茶色い、そのテディベアは、首に赤いリボンを付けてアリスの半分ぐらいの大きさだ
とても大きな熊のぬいぐるみを、リーバイスの紺色のデニムに、革ジャンのいかつい人が抱っこしている、彼は心なしか少し照れているように見える
ハッとするほど彼は素敵で、アリスは切なさに胸が締め付けられた
「ああ・・・寝てろ!寝てろ!今は大事な時だろ、これを置きに来ただけなんだ 」
北斗は嬉しそうにアリスに優しい声で言った
「ちょっと今ベビーショップに初めて入ったんだけど、どれもこれも小さくてさ・・・何だか圧倒されたよ、んであきらかに俺場違いなんだよ、今度からは独りじゃなく君と行くよ、どうやら家に赤ん坊を迎えるのは沢山物が必要だな」
嬉しそうに北斗がアリスにテディベアを渡す
「んで・・・・とりあえず・・・俺からその子にこれ(照) 」
「あ・・ありがとう・・・ 」
アリスは弱々しく微笑んだ
「ほ・・・北斗さんあのね・・・ 」
「あっ!もうこんな時間だ!思ったよりベビーショップで時間を食ってたんだな、今夜は寄り合いで少し遅くなるけど、なるべく早く帰るから」
バタバタ北斗が壁時計を見て去って行こうをするのを、アリスが慌てて追いかける
「ほ・・・北斗さんっ!」
アリスが北斗の革ジャンの裾を摘まむ、両目を閉じて呼吸に集中し、心から言いにくい事を伝えようとした
「あ・・あのね・・・言いたいことが・・・」
チュッ・・「今夜は酒を飲まないよ、俺も相談したいことが山ほどあるんだ 」
北斗はアリスをテディベアごと抱きしめて、髪を撫で、頬から首元へ唇を落とす
アリスは自分の肌に感じる北斗の唇の感覚を、心ゆくまで味わった、うっとりと頭を反らし、苦悩したあげく真実を話すのは、今夜彼が帰ってきてからでもいいかと思った
その時信じられないことがおこった、北斗がアリスに膝間づいて腰を抱き、そして自分の頬をアリスのお腹にひっつけた
「それじゃ・・・お父さん・・・君のために働いてくるよ・・・ 」
愛しそうにアリスのお腹に優しく話しかける、アリスはあまりのショックに衝撃が走り、もう本当に何も言えなくなった
へへ・・・「それじゃ・・行ってくる」
照れながらいそいそと玄関ドアを開けた
ガチャッ
「あっ!それと!出産には立ち会うから!その子がこの世に出てきて一番最初に会うのは俺だ!」
北斗が少年のような笑顔でアリスに言う
フフフ・・・「それだけは譲れないぞ!」
満面の笑顔で指をピストルの形にして、バンッとアリスを撃って彼は去って行った
アリスはもう罪悪感で死にそうになって、いつまでも壁に頭を打ち付けた