バルドの巨斧が低く構えられる。船内の湿った空気が、一瞬にして戦場のそれへと変貌した。
「――来るぞッ!!」
葵の叫びと同時に、バルドが疾駆する。全身鎧とは思えぬ速度。巨体が床を揺るがし、斧の刃が稲妻のように振り下ろされる。
ズバァンッ!!
斧が床を割り、鉄板がひしゃげた。
「っぶねぇ!!」
葵は間一髪で後方に跳び退り、トアも軽快に横へと転がる。
「いやいや、あれ当たったら俺、跡形もなくなるじゃん!」
トアが苦笑しながら銃を構え、バルドのヘルム越しに狙いを定める。
パンッ! パンッ!
乾いた銃声が響く。しかし、バルドは微動だにしない。鎧に弾丸が弾かれ、火花が散るだけだった。
「おいおい、マジかよ……」
「クソッ、やっぱり単純な物理攻撃は効かねぇな……」
葵は歯噛みしながら、バルドの動きを観察する。バルドは一瞬、視線を葵からトアに移した。
その瞬間――
「隙ありィ!!」
葵が腕を振るう。
「起て、亡霊共!!!」
ギャアアアアアア!!
無数の亡霊が壁の隙間から湧き出し、バルドへと襲いかかった。白い手が無数に伸び、鎧の隙間に食らいつく。
「チッ……! これが亡霊使いの力か……」
バルドは眉をひそめながら、亡霊を振り払う。しかし、次々に新たな亡霊が這い出し、彼の動きを封じていく。
「おい、トア!! 今だ!!!」
「しゃーねぇな……!!」
トアはニヤリと笑い、懐から銀色の弾丸を取り出した。
「特製・霊障弾……亡霊の怨念を込めた一発だ。くらえよ!!」
パンッ!!
撃ち放たれた弾丸が、バルドの胸板に命中した。
「ぐ……ぅぉおおおおおお!!!」
バルドの身体がびくりと痙攣し、鎧全体が軋む。亡霊たちがその隙にさらに深く喰らいついた。
「――沈めろ!!」
葵の命令が響く。
ズズズ……
亡霊たちが一斉にバルドを引きずり込み、床の亀裂へと沈めていく。
「……お前の時代は終わったんだよ、バルド。」
バルドは最後に一度だけ葵を睨みつけた。そして――
ドゥンッ……
彼の身体は完全に影の中へと沈んだ。
静寂。
トアは深呼吸し、銃をくるりと回した。
「は~~~……やっば、マジで死ぬかと思った。」
「お前、ほとんど撃っただけじゃねぇか。」
「撃っただけでも大変なの! てか、お前が呼ぶから来たのに、めっちゃ危険じゃん!? もっと安全な仕事ないの!?」
「知るか。さっさと船の制圧を続けんぞ。」
葵は冷たく言い放ち、前を向く。トアは肩をすくめながら、それに続いた。
しかし、彼らの知らぬところで――
沈められたバルドの亡霊が、ゆっくりと動き始めていた……。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!