李斗の腕の中は、思ったよりもあたたかくて、少しだけ震えていた私の体を包み込んでくれた。
怖かった。
今まで、私は何不自由なく生きてきた。周りの人はみんな優しくて、家族も温かくて、普通の恋愛とは縁遠かったけれど、それでも穏やかな日々を送っていた。
だけど、あの男の子の言葉は、私の中に見えない恐怖を植え付けた。
「まりあ、大丈夫か?」
李斗の低い声が、優しく私の耳に響く。
「…ごめんね。私、ちょっと怖くなっちゃった。」
「…バカかよ、お前が謝るな。」
李斗の腕が、少しだけ強くなる。
「俺がそばにいるのに、そんなに怖がるな。」
「…うん。」
私の声はかすれて、うまく出せなかった。
心が、ぎゅっと締めつけられるように痛い。
「李斗…私ね、怖いの。今までこんなことなかったから。」
「……。」
「普通の毎日が、普通じゃなくなっちゃうんじゃないかって思うと、なんだか…」
そこまで言いかけて、私はふっと力が抜けた。
大丈夫、大丈夫って自分に言い聞かせても、頭の奥にあの男の子の言葉が引っかかる。
「気をつけなきゃいけないことがある」
「君の周りには危険な人物が多い」
一体、何が? 何のことを言ってるの?
「まりあ。」
李斗の手が、そっと私の頭を撫でた。
「…な、何?」
「怖いなら、泣けよ。」
「え…?」
「お前、俺の前じゃ無理してんのバレバレだから。」
その言葉に、心が一瞬で崩れた。
「――っ!」
涙が、止まらなかった。
ボロボロと零れる涙が、自分でもどうしようもなくて、李斗の制服に染みを作っていく。
「ごめん…っ、こんなことで…泣くなんて…」
「バカ、泣くなとは言ってねぇよ。」
李斗は、ただ黙って私を抱きしめ続けてくれた。
「俺は、お前が泣きたいときは泣かせてやるし、守ると決めたから。」
その言葉が、胸に響いた。
「だから、お前は無理すんな。」
「…うん…うん…」
私は、李斗の腕の中で、しばらく泣き続けた。
泣いても何も解決しないかもしれないけど、こんなにも安心できる場所があることが、どれだけ心強いか。
「…李斗…ありがとう。」
「礼はいい。でも、これからは俺を頼れよ。」
「うん。」
私は、涙をぬぐいながら、やっと少しだけ笑った。
だけど、この嵐は、まだ過ぎ去ったわけじゃない。
次の日、私は衝撃的な事実を知ることになる――。
次回、まりあに突きつけられる真実とは!?